不動産サービス大手のJLLの調査では、日本の不動産への投資額は、2023年第2四半期(4~6月)に前年同期比42%増となり、上半期(1~6月)では2兆1473億円(前年同期比52%増)である。
2023年通期の予想として4兆円(前年比20%増)を回復すると分析している。都市別に世界の投資額を見ると、東京は上半期で世界2位となっている。
円安の進行によってインバウンドの需要が加速する、そんな見方が再びもり上がっている。
実際、パンデミックが明けて国内外の往来が活発になり、富裕層たちが動き出している。9月中旬、台北から台湾人が3人訪日した。日本の不動産を下見に来たのだ。
その3人を仲介したインバウンド系に強い不動産会社のA社長は、「コロナ禍ではオンラインでのやりとり。マンションの内覧などもオンラインで行っていたが、ようやく実物見学を希望する人を案内できるようになった」とコロナ前のような営業が復活したことに安堵する。
高級感と仕様の良さお気に入り
その3人は台北市内で日本料理店を数店舗経営する陳さん、夫が電子機器関連の会社を経営する呂さん、カルフォルニアやシンガポール、香港にも拠点があるグローバル経営者の楊さんだという。
]陳さんは日本に1年間ほどの留学経験があり基本的な日本語を話すことができるが、他の2人の日本語は、簡単なコミュニケーションにとどまる。
ただ、楊さんは、グローバル経営者であるだけに英語を流暢に話し、ルーツを持つ上海の現地言葉にも精通する。呂さんは、自分でケーキやデザートを製造・販売する会社を持ち、コロナ前は日本へも度々旅行に訪れている日本好きだ。
この3人は1週間滞在して東京23区内のマンションを6物件見て回ったという。いずれも中古マンションだ。A社長によると、「東京都心エリアを希望していたので、番町や平河町、品川、日本橋、渋谷、六本木の部屋を案内した」と述べ、この滞在中に数物件を購入したという。
驚きは、日本橋での内覧だ。マンションを訪れて部屋に入ってから10分足らずで約1億円で購入することを決めたことだ。別のもう1人は渋谷の築浅物件で高層階の75㎡2LDKを1億3000万円超で買い付けた。
見学したいずれの物件とも高級感のある仕様とセキュリティーの高さ、共用施設の充実について気に入っていたという。
円安と地政学リスクが購入を後押し
こうした買い意欲の強さについては、米ドルに対して150円台まで下落した円安効果も大きい。今回来日した呂さんは、2015年の春にも訪れて物件を物色していたが、当時も円安と言われていたが、その水準は120円前後だった。
その為替水準を見ただけでも8年前に比べて2割安となっている。この3人は共に日本以外にも不動産を持っている。東南アジア、北米、豪州などだ。台中関係の緊張感が増していることで資産を分散する意識が強く働く。
価値総合研究所による「わが国の不動産投資市場規模(2023年)」では、収益不動産の資産規模は約289.5兆円に上り、前回調査から13.9兆円増加している。
用途別に見ると、オフィスが約103.1兆円と全体に占める割合が36%と最も多いが、個人の海外不動産投資家の対象になりやすい賃貸住宅も約77.1兆円(27%)と2番目の市場規模となっており、縮小するオフィスと違って賃貸住宅は市場規模が前回比プラス7%で拡大しているのも特徴だ。国内外の政治・経済の情勢を見ながら海外に滞留する投資マネーが日本に向かって来ているとみてよさそうだ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))