所有者が不明の土地や住宅などが空き家問題を深刻化させるとして、今年4月に相続土地国家帰属制度がスタートした。正式名称は「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」。所有者不明土地は、相続時に登記変更されないことから生じ、その面積は、国土の約2割、九州全体の面積に相当するとされる。
少子高齢化が進んでいることが要因として大きい。田舎の実家から東京などの都市部に出て来て働き、親が亡くなった後に実家が空き家化し、そのまま戻ることなく放置されたままというケースが珍しくない。
なかには空き家状態で放置されたまま経過し、相続者が孫、ひ孫の世帯まで広がったり、そもそも土地の所有者が分からないというケースもある。
登記簿上で所有者が分からないことで、公共事業や民間の再開発事業で不動産の取引をしたくてもできない、土地の円滑・適正な利用を進めることができない、などの障害があった。相続土地国家帰属制度とともに相続登記が義務化されている。相続人が土地の取得を知った日から3年内の登記申請を求めており、正当な理由がなく相続登記をしないと過料も科されるようになった。
相続土地国家帰属制度のポイントは、法務省によれば次の通りである。
- 相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができる。
- 大臣が承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員に調査をさせることができる。
- 申請された土地が通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地として法令に規定されたものに当たらないと判断したときに国庫帰属を承認する。
- 土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた場合は、一定の負担金を国に納付した時点で土地の所有者が国庫に帰属する。
問題のある土地は引き取らない
ただ、要らない土地を相続するよりは手放せるならば手放したいと思う相続者が少なくない中で、要らないからと国家に丸投げするというモラルハザードを避けるために承認するハードルは高くなっている。
申請が承認された場合は、10年分の管理に要する費用の納付が必要となる。審査手数料は一筆当たり1万4000円となり、審査料を納付した後に申請を取り下げたりしても手数料の返還はない。
そもそも引き取ることができない土地要件を見ると、申請すらできないケースでは、(A)建物がある土地、(B)担保権や使用収益権が設定されている土地、(C)他人の利用が予定されている土地、(D)土壌汚染されている土地、(E)境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地――となっている。
申請できても承認されないケースでは、(A)一定の勾配・高さの崖があって管理に過分な費用・労力がかかる土地、(B)土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地、(C)土地の管理・処分のために除去しなければいけない有体物が地下にある土地、(D)隣接する土地の所有者等の争訟によらなければ管理・処分できない土地、(E)その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地――となっている。
空き家問題の解決にはならない
こうしたハードルの高さから国庫帰属制度の利用をためらう人が増える可能性が高いと想定されている。相続をしたくない土地というのは、そもそも難を抱えている土地が多い。例えば、人口の減少に歯止めがかからない過疎地や交通・生活利便性の悪い土地だ。
利便性が良く将来の街の発展が期待されるような土地を手放す相続人はいない。使える土地ならば自ら収益物件を建てたり、不動産流通市場で土地を売却する。なにも10年分の管理費用を納付してまで国に引き取ってもらう必要はない。
申請すらできない土地として「建物がある土地」とされることから建物がある場合、申請には解体して更地にする必要がある。そこのコスト面が社会問題となっている空き家問題の核心部分でもあるのにその解決策につながっていない。
ハードルの高さ外国人が隙を突く
また、不動産の業界団体などが求めている国家安全保障上の観点からの土地取引の面からも合致していない。業界団体は、「外国人による不動産取引への措置」として外国人による国内不動産の無制限な取引は是正されるべきだとしている。
土地所有における外資規制や需要土地の取引抑制を求めているが、相続土地国家帰属制度の利用ハードルが高い隙を外国人が突いてくる可能性もある。
例えば、相続放棄したい畑や山林の周辺に豊富な水源があることを狙って外国人が相続人にアプローチする。10年分の管理費を国に支払って引き取ってもらうよりも外国人が相応の値段で買い取るとなれば売却するとみるのが当然だ。
相続土地国家帰属制度は、自治体が道路整備や地域活性に向けた町おこし的な大規模整備などに有効だとされるが、同制度の本質を見ると「面倒くさい土地は国はいらない」と言っているようなもので所有者不明土地の発生を抑制する以上の意味を見いだせないのが現状だ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))