建設費の高騰などに伴い計画を大幅に見直し
五反田は東京都品川区の北部に位置する副都心で、JR東日本や東急池上線、都営地下鉄が乗り入れる五反田駅周辺一帯を指す。飲食店が集まる歓楽街やオフィス街が広がり、ポーラや学研ホールディングス、DNP、城南信用金庫などの大手企業・金融機関の拠点も複数存在する。
2010年代以降はIT・フィンテックなどのスタートアップが集積するようになり「五反田バレー」とも呼ばれるように。かつてはソニー本社の最寄り駅であったことからソニー村の玄関口としても知られ、都市開発によりタワマンが増え、その奥には高級住宅街の島津山、池田山、御殿山も広がる。
そんな五反田エリアでひときわ存在感を放っているのが、商業施設・コンベンションセンターなどの複合施設である「TOCビル」だ。
「五反田TOC」とも呼ばれる老舗の施設で、TOCとは「東京卸売センター」の略。地上13階、地下3階の建物には事務所やショールーム、飲食店、小売店舗、貸会議室などが軒を連ねていた。
運営するのは株式会社テーオーシーで、同社は五反田だけでもTOCビルを始め「第2TOCビル」「第3TOCビル」「TOCフロントビル」「第5TOCビル」「TOC ANNEX」を持ち、「TOC有明」や「大崎ニューシティ」「浅草ROX」「浅草ROXまつり湯」「ROXフィットネスクラブbegin」など、東京都内に複数の施設を展開している。
1970年に竣工した五反田TOCはエリアのランドマーク的存在で、さまざまな業態の店舗があることから人気の場所。
ところが、築50年以上が経過し老朽化も激しかったことから、2021年に地上30階となる「新TOCビル」の計画を発表し、当初は2023年春の着工、2027年の竣工を目指していた。その後も着工延期を挟んだものの、2024年3月末に閉館。取り壊しが始まるはずだった。
そんな新TOCビルの計画に待ったがかかったのは4月9日のこと。テーオーシーは昨今の建築費高騰やビル賃貸市況に鑑み、計画を見直すことを発表したのだ。
より高収益化を目指し投資効率の向上を図るため、分譲レジデンシャル事業などを加えることを検討するという。今後は設計プランの変更を行い、必要となる行政協議を行う予定で、新たな着工時期は2033年頃を想定している。
そこで気になるのは既存施設だが、計画変更のため一定の期間を要することが見込まれることから、改めてビル賃貸および催事事業を再開する予定だ。すでに建物の検査・メンテナンス・リニューアルを実施しており、今年9月ごろの再開を目指す。
3月末の閉館に伴いすべてのテナントは閉店・移転済み。元の場所で営業再開とはいかないケースがほとんどだと考えられるので、気の毒な面があるのは確かなこと。施設側も新たにテナントを募集しなければならない。
しかしながら、五反田駅だけではなく東急池上線の大崎広小路駅から近く、新幹線のある品川駅や羽田空港にもアクセスしやすい立地は魅力的だ。
かつてのようにスタートアップを中心とした企業のオフィス需要は期待できるだろう。また、TOCビルで働く人たちが戻ることで周辺の飲食店なども潤う。限られた範囲とはいえ、地区の経済に寄与するだろう。
大規模再開発が目白押しのエリア
五反田TOCの建て替えは延期されたが、近年における同エリアの変化はすさまじい。
TOCビルとともに五反田のシンボルとして知られていた「ゆうぽうと」は「五反田JPビルディング」に生まれ変わり、今年4月26日にオープン。
施設内にはオフィス・シェアオフィス・ホテル・ホール・フードホールが入る。五反田駅と大崎駅との間を流れる目黒川沿いでもタワマンやオフィスが建築中で、地面師事件のあった駅そばの元旅館も高層マンションに生まれ変わった。
かつては歓楽街のイメージが根強く、いまも名残はあるものの景観は大きく変わり、今後もさらなる進化を目指す。
それを示すかのように、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、直近3年間で五反田駅周辺の標準的な賃貸マンションの賃料は6.18%、中古マンション価格は10.12%上昇している。
いずれも東京都の変動と同程度の水準だが、駅周辺の環境が更新され続けることで上振れが起きてもおかしくない。五反田駅周辺は高級住宅街のエリアだが、都営浅草線でつながる戸越や中延、馬込、西馬込はマンションや戸建てが多い住宅密集エリア。これら地域の住宅事業に大きく影響するかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))