今年11月に北海道ニセコ町で宿泊税が導入される。静岡県熱海市でも導入が決まった。既に宿泊税を導入している自治体も増額を検討しているなど、宿泊税の拡大が進んでいる。
有名観光地で続々と導入されている宿泊税は、宿泊客にとっていくらぐらいの負担なのだろうか。
観光業への影響はないのだろうか。
各地の宿泊税の概要、動向をみて、観光業への影響を探る。
■ 今年11月にはニセコが宿泊税を実施。熱海も導入が決定
全国各地の観光地で宿泊税を導入する動きが相次いでいる。
今年11月に宿泊税を導入するのが、北海道ニセコ町だ。ニセコは、国内屈指のスキーリゾートエリアとして有名である。毎年、安定した上質な雪を求めて、世界中からスキーヤーや観光客が訪れる。
観光振興をはじめとした地域づくりに関する経費や投資への自主財源として、2014年頃から導入の検討を始めた。コロナ禍で一時棚上げになっていたものの、2023年12月に条例を可決、今年3月に総務大臣の同意を得た。
ニセコ町内のホテル、旅館、簡易宿所、民泊などすべての宿泊施設への宿泊客が対象となる。1人1泊の宿泊料金に応じて、100円から2,000円までに課す段階定額制を採用する。町は、平年度で1億6,200万円の税収を見込む。
静岡県熱海市も、今年2月に宿泊税条例を可決し、宿泊税の導入を決定した。熱海は、全国屈指の温泉リゾート地として知られる。地中海風のエキゾチックな街並みで、別荘地としても名高い。
2023年にはコロナ禍以前の9割まで宿泊客数が回復していた。観光資源の魅力向上や観光客の受入れ環境の充実など観光振興のために導入を決めた。1人1泊につき一律200円とする予定だ。
■ 全国観光地の宿泊税の現状
そもそも、宿泊税は、法定外税と言って、法定されている税目とは別に、特定の目的に利用するために地方自治体が新設することができる税制だ。2000年の地方分権法改正によって創設され、総務大臣の同意を得ればよいことになった。
2024年3月現在、宿泊税を導入実施している主な自治体、税制の概要は下表のようになっている。
1人1泊の宿泊数に対して課されるのは各自治体で共通しているが、定額制ではなく定率制を採用しているところもある。定額制のケースでも、その金額にはばらつきがある。また、一定額未満の宿泊料には課さない免税点を設けている自治体もある。各自治体によって多種多様な税制といった印象である。
なお、東京都は、令和5年の税制調査会報告で、宿泊料金の上昇や観光振興費の増加などを踏まえ、税額を引き上げるのが相当としている。免税点をなくし民泊についても課税対象とする構えだ。
■ 税導入により観光業の更なる活性化も
宿泊税の導入により、観光業に影響はないのだろうか。これについては、マイナスの影響を及ぼすという議論と特に影響を及ぼさないとの議論がある。
一般的に考えれば、宿泊税の分だけ宿泊費の負担が多くなるのであり、その分その地域への宿泊を控える傾向が発生するのではないかという懸念があるだろう。
上記でみたように、宿泊税の導入は、有名観光地や大都市などの元々観光ニーズの高い自治体で進んでいる。観光ニーズが高ければ、宿泊税の導入によって負担が増加しても、ニーズの減退を招きにくいだろう。
さらに、宿泊税は目的税であり、その税収は観光関連施策の財源に充てられている。たとえば、石川県金沢市では、2023年度の宿泊税収の5割強が「歴史 ・ 伝統 ・ 文化の振興」や「観光客の受入れ環境の充実」といった観光需要の増加を促す施策に充てられている。また、北海道俱知安町では、宿泊税収のほとんどがリゾート地としての質や魅力の向上に充てられている。
すなわち、宿泊税の課税によって、それを財源とした観光振興のための施策が一段と充実し、その自治体の観光資源の魅力がより一層高まるといえるだろう。
観光資源としての魅力向上が宿泊費負担の増加を上回るものであれば、観光ニーズがさらに高まって、宿泊者数が増加することも考えられる。
そうなれば、今後、ますます観光業が発達する可能性もあるだろう。宿泊税を導入した地域への投資を検討する際は、税の使途が観光資源の魅力向上に結びついているのかという観点に注目していきたいといえる。