前回のコラムでは、「 外国人入居者が殺到する物件の創り方 」についてお話しさせていただきました。今回はその続きをお伝えするつもりだったのですが、予定を変更します。
参照:平凡な中古物件でウェイティングリストができる。外国人入居希望者が殺到する賃貸物件の作り方
『 今回の円安で日本で働いている外国人の賃金が自国通貨建てで目減りして、外国人が日本に来なくなるんじゃないの?( だから外国人向け賃貸はやめた方がいい? )』というご相談が立て続けにあったからです。
円安で不動産相場の話となると、外国人が日本の不動産を大量に購入しているという『売買系の話』は、メディアでもよく取り上げられていますが、『賃貸系の話』は少なく、事実が伝わりにくいために不安になるのはよくわかります。
ということで、今回は予定を変更して『 円安は確かに逆風ですが、外国人賃貸市場は伸びます 』という私の見解を紹介します。あくまで一個人の意見ではありますが、外国人たちと毎日交流する中での実感です。参考になれば幸いです。
■ 円安の影響が身近な生活にも飛び火
この原稿の執筆時点( 11月中旬 )では、一時期150円台をつけていた円ドル相場がやや落ち着き、140円程度になりました。それでも、2022年年初で1ドル=115円だったので、2割ほど円安が進んでいるわけです。
実際に、皆さんの周りでも調味料や小麦粉などスーパーマーケットの商品の値上げがすすむなど変化が表れているはずです。為替相場がこれだけ身近な生活に影響を与えると感じられるようになったのは珍しいことではないでしょうか。
今回の円安はドルが圧倒的に高いだけなのでは?というご意見もあるかもしれません。もちろんそれも間違いはないのですが、ニッセイ基礎研究所の『円安の背後にある日本経済の根深い問題』という記事にあるように、圧倒的な円安であることも確かです。
参照:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72889?pno=1&site=nli
■ 円安だと、仕送りの金額が目減りする
こうした円安は日本に来ている出稼ぎ労働者にとって大きな逆風になります。外国人人材マーケットの専門サイト「海外人材TIMES」によると現在、日本で一番多い外国人労働者はベトナム人ですので、ベトナム人の出稼ぎ労働者の仕送りについてみていきます。
参照:https://kjtimes.jp/culture/countries/0124/
ベトナム人労働者は日本で労働し、円でお給料を得ます。そのお給料から生活費を指し引いてからベトナムドンに両替して、故郷の家族に仕送りします。
その為替レートを見てみると、2022年の年初、1ベトナムドン=0.005円だったのが、1ベトナムドン=0.0057円( 11月15日時点 )になっており、約14%の円安になっています。
円が安くなると、日本円をベトナムドンに両替したときに、目減りしてしまいます。14%近く仕送りができる金額が減ってしまうと、日々の生活を切り詰め、母国に仕送りをしている外国人の方々にとっては、大変大きな損失です。
ベトナム人が仕送り金額を維持するために苦労しているニュースは、NHKなどのニュースでも取り上げられていました。
参照:https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20221109/7000052307.html
為替相場は乱高下していますが、インフレ抑制のための世界的な利上げの動きに対し、日本は金融緩和を続ける限り、円安基調は変わらないと思います。次回国政選挙がある2025年までは、少なくとも年初の為替相場には戻らないだろうというのが個人的な予想です。
そう考えると、中長期的に日本では稼げないので日本で働く外国人が減ってしまうのではないかという不安が出てきます。
『 今回の円安で日本で働いている外国人の賃金が自国通貨建てで目減りして、外国人が日本に来なくなるんじゃないの?( 外国人向け賃貸はやめた方がいい? )』というご質問に対しては、「 円安はたしかに負の影響を及ぼします 」というのが私の答えです。
ですが、このご質問の意図としては「 だから外国人賃貸市場向けに物件を買うのはやめた方がいいですよね? 」という意図があると思います。この件に対しては、私は反対の立場です。
なぜなら円安であろうと、日本政府によって力強く推進されている外国人受け入れのための政策により、この3〜4年で日本国内の外国人賃貸市場は大きく伸び、向こう10年間も一定の成長が望めるというのが私の見解だからです。
■ 外国人労働者の増加は日本政府の政策
政策は現状の課題と未来の課題を解決するために立案されます。『 外国人労働者の受け入れ推進 』という政策は、『 少子高齢化に伴う労働人口の減少 』という課題を克服してGDPを維持するために推進されるものです。
労働人口に関してみていきます。日経新聞が報じたところによると、ここ3〜4年についてですが、日本は労働力不足です。生産年齢人口は、労働の中心的な担い手となる15〜64歳の生産年齢人口の割合は総人口の59.4%と過去最低となりました。
参照:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1555Y0V10C22A4000000/
もう少し数値にイメージを持っていただくと、2015年から2020年の5年間で、226万6,000人生産年齢人口が減少しています。これは宮城県全体の人口規模くらいです。
参照:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA29AND0Z21C21A1000000/
こうした生産人口の減少が何をもたらすかというと、人手不足です。具体的な事例でいうと、コロナ渦に外国人労働者が来日できず、温州ミカンの産地愛媛県でも出荷に大きな影響が出たなど、農家が農産物の減産や出荷ができない事態がテレビのニュースでも報じられていました。
参照:https://www.youtube.com/watch?v=Z6-kJwtISPY
北関東にある私の物件に入居している外国人入居者が働いているお弁当工場を見学に行った際にも、そこで働いている人ほぼ全員が外国人でした。みなさんも近所のコンビニで外国人労働者の店員さんを見たことがあるかもしれません。
日本の労働力不足は、「 今そこにある喫緊の課題 」です。また、すでに外国人労働者抜きでは成り立たない仕事・企業・業種がたくさんあるのが日本の現状です。コロナ渦で、外国人労働者の訪日を差し止めたことで、この労働力不足という問題が目に見える形となったのです。
労働力不足をDX化・女性や高齢者の活躍等々で労働力不足を補うという考え方は大歓迎でが、それにはある程度の時間がかかります。労働力不足で即効性があるのは、外国人の受入なのです。
将来人口統計は、世の中で一番正確な統計データとして有名で、労働力不足は10年以上前から予測されており、政府もその対策として外国人労働者の受け入れを促進するように、制度整備を行ってきました。
つまり、外国人労働者の受入は国策であり、多少円安であろうと政府は、現政権の大きな支持基盤である中小企業を中心とする働き手不足を何としてでも補い、それに伴い、外国人向けの賃貸住宅市場も急激に伸びる、というのが私の見立てです。
具体的にどのような形で日本政府が外国人労働者を受け入れようとしているのかがわからないと、本当に外国人労働者が増えるのか判断できないというお声も聞こえてきそうです。
そこで次回のコラムでは、ここ3〜4年で急成長が予想される新しい外国人受入制度( 在留資格 )の”特定技能”や、ある程度の円安でも日本に外国人の労働者が来るその他の理由等々を、私の実体験などを踏まえて紹介します。