さて、前回に続き、大家さんの知っておくべき裁判例シリーズ第2回は、売主さんが雨漏れ等を故意に告げず、多額な損害賠償を負ったという事案です。
一時期流行った中古戸建リフォーム投資に関する事例でもあり、なかなか係争化しづらい「契約不適合責任免責特約」と「売主の故意に告げなかった」という認定が絡む事例なので、要注目だと思います。
1、売主さんが雨漏れ等を故意に告げず、多額な損害賠償を負ったという事案
今回の事案は下記のようになります(東京地判令和4年2月17日ウエストロー・ジャパン)。
- 契約の10日ほど前に、買主Xは、投資目的で戸建てを探していたところ、売主Yから賃借人Zが入居中の物件を紹介された。仲介を通じて、雨漏れ等を確認したところ、「雨漏り、シロアリ、水害、躯体の傾き等はないが、内装はよくできているものの、あくまでDIY修復程度」との回答を得た。
- 令和元年9月末、売主Yから買主Xは、350万円で当該物件を購入。
- 契約内容には、経年劣化が見られ、いわゆる現況有姿、瑕疵担保責任の免責特約が入っていた。
- 物件状況確認書には、「雨漏り」には「現在まで発見なし」にチェックマーク。
- 購入後、まもなく賃借人Zが雨漏れを理由に退去した。
- 賃借人Zから事情を聴いたところ、「6月には、1階和室カーテンが濡れており、壁にも染み、部屋もかび臭く、住める状態ではないので退去予定」、「管理会社にも修繕要求を行ったが理由をつけられ延期されていた」との事情が確認できた。
- 売主Yが本物件を購入後、雨染みを確認し、玄関は業者に依頼し修理、その他の部分も自身がDIYで修繕していた。
2、今回の法的なポイントと争点は
契約不適合責任、改正前の瑕疵担保責任ですが、これは、対象の不動産に瑕疵があった場合に、売主が買主に対して賠償責任を負うという内容の規定です。
修繕すれば目的どおり利用できる場合には、その修繕費用等を賠償する。修繕程度でも改善できず、たとえば建築目的なのに、どうやっても建築制限があり建物が建たないなどの場合には、契約目的達成不能で解除できる、というのが非常に雑ではありますが、大まかな仕組みです。
もっとも、この契約不適合責任については、売買・決済後にも売主買主間の係争が継続してしまう可能性があります。
そもそも中古戸建等ですと経年劣化により何らかの不具合があるほうが通常ですので、一般的には、「契約不適合責任免責特約(瑕疵担保責任免責特約)≒現状有姿特約」という特約を入れて、後から不具合があっても、契約不適合責任等は追及しないでね、という特約を入れて取引することが多いのです。
ただし、この契約不適合責任免責特約があるからといって、全く売主が責任を負わないわけではなく、以下の但し書きのように、「売主が引渡しの時に知っていた不適合(瑕疵)」等は、免責されないという定めになっています。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
さて、ここまで基本を整理しましたが、結局、免責特約がある取引なので、
①売主と買主との間で、「雨漏れがないことを前提にした取引なのか、不明状態での取引なのか」という、そもそも雨漏れが契約不適合にあたるのか否かという点を確定した上で、
②売主が契約前に、「雨漏れを知っていながら告げなかった」という雨漏れを告知しなかったことについて故意だったのか否かが、争点になってきます。
ここまでを踏まえて、一度、事案を確認し、どのような帰結になるかを検討してみていただければと思います。
3、売買代金と同等の代金額、諸手続及び弁護士費用まで認定した損害賠償
では、裁判所の認定ですが、本件では、概ね予想通り、社会通念上合理的な結論かと思います。
1)不法行為に基づく損害賠償を肯定しました。
2)その金額は総額404万円で、内訳は次の通り。
物件代金 | 345万円 |
司法書士代 | 9万円 |
媒介手数料 | 17万円 |
弁護士費用 | 33万円 |
3)なお、予備的な解除請求でも、本件状況だと、「雨漏れ」により投資目的の達成は困難として、解除も肯定するとの傍論までありました。
みなさんの予想では、売主Yが責任を負っても致し方ないという結論だったのではないかと思います。今回は、免責特約があるものの、
①物件状況報告書の雨漏れなしにチェックマークと、契約前にも雨漏れの有無を確認していたので、雨漏れがないことが前提で代金額が決定された取引でした。
②その上で、入居者および外部業者の証言から、契約前に雨漏れがあり、その点を売主Yが認識していたというのも明らかに証明できた案件でしたので、証拠上、売主Yに責任を負わせた結論は妥当だったと思います。
結論はみなさんも予想できたかと思いますが、個人的に注目なのは、損害賠償額です。350万円の売買代金に対して、ほぼ同額の代金額(345万円)を認定し、その上で、仲介・司法書士費用という手続費用に加えて、弁護士費用まで認めているのは、驚きでした。
背景事情がわからないので何とも言えないのですが、今回350万円の代金に対して345万円の損害が認定されているのは、「再建築不可」の物件ないしは、建物のリフォーム・建て替えには非常に多額の費用が発生するような事情があったのではないかと想像しました。
そうでないと、買主は困った事情にあるとはいえ、この認定額だと、ほとんど土地をタダで入手できたことになるので、その意味では、タダで入手できても使えない、または、使うのに多額の費用を支出しないと利用できない家屋の状態だったのかなと推測します。
また、一般論としては、弁護士費用損害は特殊なケースでしか認められないので、この点まで認めているのは、売主の悪意をもって契約不適合を告げなかったという悪質性を見ているのかもしれませんね。
4、不具合があるなら説明した上で代金設定を
今回は比較的新しい裁判例から、係争化して買主が勝訴する、珍しい契約不適合責任の売主の故意が問題になる事案をご紹介しました。
今回は賃借人が明確に雨漏れを認識できた事案でしたが、一般論としては、なかなか明確に雨漏れがあったかどうか、またそれを売主が認識できたかどうかが不明となり、厄介な係争に発展することのほうが多いです。
とはいえ、本件のように明確に雨漏れがあるのに、その点を虚偽の説明をして、トランプのババを押し付けるようなことはできませんので、不具合があるならちゃんと説明して、その上で代金設定をするという誠実な取引を心がけましょう。
仮にですが、雨漏れがあることを前提に、100万円で売買するという契約内容の取引であれば、本件のような契約不適合責任の問題は生じないですから。
最後にお知らせです。下記のように、不動産大家さんのトラブル専用のホームページを公開しています。興味がある方はブックマーク等お願いいたします!( ※おそらく、自然検索では辿り着かないと思われます・笑 )
では、また次回もどうぞ、よろしくお願いいたします。