JR渋谷駅から道玄坂方面に徒歩6分の場所に5階建て鉄骨造の賃貸アパートがある。築43年と老朽化の影響でここ数年の間、全室空室となっていた。各居室は16~18㎡と狭く、水廻りは3点ユニットでエレベーターがない。さらにはこの場所が今後、再開発の計画があるとのことで今後の活用に課題があった。
そこで今回、外観はあえて手を加えず、室内を大幅に変え、全居室を家具付きマンスリーに賃貸にリノベーションした。共用部にワークラウンジ、テントサウナなどを備え、渋谷に集う若者の新しい住まいに生まれ変わっている。
どんな工夫で、いくらぐらいの家賃で入居者を呼び込めたのか? リノベーションと物件の賃貸管理を担うグッドルーム株式会社に話を聞いた。
「職住近接」の若者のニーズに対応。狭くても必要なものが揃う
築43年ともなると、老朽化から賃貸住宅としての機能を果たさなくなることは大いにある。しかしここは渋谷駅から徒歩6分の立地である。リノベーションさえすればいくらでも入居者を呼び込めるのではないか。
実はこの場所は「再開発計画エリア」になっており、数年後に取り壊される可能性があるためにリノベーションするのに迷いがあったそうだ。再開発が予定されている時期は具体的には決まっていないが、向こう10~15年でリノベーション費用を回収できるような計画で再生することに。
「このビルを所有している『東急不動産株式会社』さまから我々『グッドルーム』が依頼を受け、渋谷の街の特性に合わせ、共有のサウナとワークラウンジを設けた、若者向けのマンスリー賃貸にリノベーションをしました」
案内してくれたグッドルームの担当者はそう話す。
コンセプトは渋谷で働く若者のなかでも「創業間もないスタートアップ企業で働く人」を想定。また東急グループによる「まちづくり戦略」の実現を見据えている。
「今回、広域渋谷圏にスタートアップを集積させたいという東急不動産の狙いと『職住近接』などの多様な暮らし方を提案するグッドルームのコンセプトが合致しました。
積極的なコミュニケーションを生む仕掛けとしてサウナとワークスペースを有する本物件は、東急グループの渋谷まちづくり戦略で掲げる『働く』『遊ぶ』『暮らす』が融合する『渋谷型都市ライフ』の実現に貢献します」
各居室の広さは16~18㎡と限られるが、家具や家電が備わり、スーツケース1つで必要なものを運ぶだけで生活できる環境が整っている。
屋上にはテントサウナや水風呂などの共用部がある。入居者は男女問わず使いたいときにテントサウナを設置して利用できる仕組みだ。
自社サイトで入居者を募集。自社が手掛ける物件のファンを作る
入居者の募集方法にも独自の工夫がある。一般的な賃貸住宅とは異なり、グッドルームならはでの「マンスリーマンション」として活用している。家具家電付きで、電気代や通信費も込みですぐに住むことができる点が大きな利点である。
気になるのは家賃であるが、渋谷の家賃相場は1Kで15.09万円(ライフルホームズ調べ)と山手線の駅のなかで原宿についで2番目に高い。
以前はこの相場家賃の半額以下の金額で入居者が入っていたが、リノベーション後は1室の募集家賃は17~23万と、最も高い部屋は相場家賃の1.5倍で募集できている。
問い合わせが多く寄せられており、募集開始してから1ケ月で10件ほどの反響が来ている。取材時点で満室ではないが、入居者は女性のほうが多いそうだ。この反響は想定通りなのだろうか?
「予想以上の反響に驚いています。集客できている理由としては、立地や内装、サウナやワークラウンジの共用部などのほかに自社サイトが今、おかげさまで好評でアクセス数が多く、こうした物件に住みたい人のニーズが高まり、募集すると反響がある、うれしいサイクルができています」
もう1つ入居者募集のルートを確保している。東急不動産側でも東急不動産の物件に入居するスタートアップ企業や、ベンチャーキャピタルなどを通じて投資するスタートアップ企業に対して、入居者の先行募集を行っている。
実際に見学して驚いたことは外観や階段、屋上部分などリノベーションを一切していないところがあることだ。再開発予定エリアということもあり、「余計なリノベーション」を省いて採算を高めていることが伝わってくる。
賃貸物件に本格的なサウナを導入するとなると、なかなかマネできないかもしれないが、「テントサウナ」であれば、数万円で導入でき、ランニングコストも抑えられるために再現性は高いかもしれない。(過去記事 参照『所有物件に「家庭用サウナ」を設置してみた。入居率アップなるか?光熱費を含め投資する価値は?』)
なおグッドルームでは賃貸住宅のオーナーさんから既存の賃貸住宅をサウナ付きにリノベーションしたいなどの相談も、エリアや建物の条件などあるが受け付けている。