前回のコラムで、インボイス制度がいかに大家さんにとって影響があるかを書きました。
参照:インボイス制度で消費税還付は不可能に?-消費税アップに伴う軽減税率が大家さんに与える影響-
今回は、私たち大家が、インボイス制度にどう対応していけばよいのか、について解説していきます。
1.課税事業者になる場合に負担する消費税
インボイス導入後は、借主は、大家がインボイス登録事業者(課税事業者)でないと家賃に係る消費税を控除できなくなり、負担が増えてしまいます。では、大家さんが課税事業者になると、受け取った消費税を全部納税しなければならなくなるのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
納税する消費税の計算は、原則、「 売上に係る消費税( 預かった消費税 )-仕入に係る消費税( 支払った消費税 )」です。
10万円が預かった消費税に該当するので、そこから支払った消費税を引くことができます。
この支払った消費税は、預かった消費税に対応する経費が基本です。例えば、テナントの管理を委託している管理費、修繕費、水道光熱費など、テナントに係る経費です。( 住宅用の賃貸物件をテナント物件と一緒に所有する場合、住宅用の賃貸物件に係る経費の消費税については、原則課税では控除できません )
固定資産税、減価償却費、借入利息は、非課税もしくは不課税なので、消費税の控除はありません。賃貸経営では、修繕費が大きくならない限り、控除できるものが少ないのが特徴なのです。
2.影響をやわらげる簡易課税制度
そこで利用したいのが、「 簡易課税制度 」です。仕入に係る消費税に関係なく、売上に係る消費税だけで、納税する消費税を計算する制度です。
テナントの家賃収入、駐車場収入は不動産業として第6種事業になります。10万円の消費税を受け取ったものに対して、支払う消費税は6万円になります。控除できる消費税が、売上に係る消費税の40%未満なら簡易課税制度が得になります。いわば合法的に益税が認められるのです。
簡易課税制度を利用するためには要件があるので、注意してください。
【 要件 】
○2年前( 2期前 )の課税売上高が5,000万円以下であること
○簡易課税の適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「 消費税簡易課税制度選択届出書 」を提出していること
( ただし、簡易課税制度選択届出書を提出している場合であっても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合には、その課税期間については、簡易課税制度は適用できません )
3.簡易課税制度を利用する前にやるべきこと
では、大家さんは、インボイス制度が導入される前に課税事業者となって、簡易課税制度を利用した方がよいのでしょうか?
「 ちょっと待った!! 」
私はそう言いたいと思います。インボイス制度が導入しても、急激な変化にならないように経過措置が設けられているからです。それを活用するという方法があります。
経過措置の期間中は、免税事業者からの課税仕入れについても、「 仕入税額相当額の一定割合 」を控除することが可能です。
2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日⇒80%控除 2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日⇒50%控除
これを利用して、免税事業者のまま、仕入税額控除ができない部分に相当する金額を値引きすることで、取引先の負担がないようにできないでしょうか?
例を挙げて説明します。
テナント家賃110万円( うち消費税相当分は10万円。年間1,000万円超えますが、わかりやすくこの金額にしています )を経過措置に合わせて、本体家賃2万円値引きした場合、5万円値引きした場合で比較すると下記の通りになります。
経過措置の期間は値引きで対応した方が、簡易課税制度を利用した場合よりも、大家さんの実質的な手残りが多いことがわかります。
免税事業者である大家さんが、テナントなどの借主に消費税分を請求している先がある場合には、借主に減額で対応してもらえるかどうかを確認してから、登録事業者( 課税事業者 )になるかどうかを検討してみてもよいのではないでしょうか?
4.対応策のまとめ
大家さんの対応策としてまとめてみました。ご自身がすでに課税事業者かどうかによって対応が変わってきます。参考にしてみてください。
私のYoutubeチャンネル「 大家さんの知恵袋 」でも、「 インボイス制度の対応方法 」を動画で解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。
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