第27回「愛知まちなみ建築賞」を受賞した、愛知県春日井市の4棟の戸建賃貸。三角形の敷地にランダムに配置されているようにみえるものの、実はこれには互いの視線を避けた配慮がなされている。
遊歩道や敷地内の空きスペースではBBQなどができるような住民同士のコミュニティ醸成の場所となっており、戸建にしかできない価値を生み出している。地方や郊外での投資の参考になるのではないか。
そこでこの賃貸住宅を手掛けている建築家でオーナーでもある合同会社ジンバルワークス代表で、一級建築士の井村正和氏を取材した。
3棟以上戸建が建つ、広い敷地がある郊外・地方に最適!
愛知県の名古屋市北部と小牧市に隣接する春日井市。のどかな環境に4棟の戸建賃貸が完成したのは2018年。5年ほど経つが満室が続いており、退去があってもすぐに次の入居者が決まる人気だ。
その秘訣は戸建賃貸ならではの自由な発想でつくられたコミュニティスペースである。三角形の敷地に4棟が配置され、その合間には遊歩道ともコミュニティスペースとも呼べる自由な空間になっている。
井村氏はこのエリアがファミリー層に人気の学区でありながらも戸建賃貸がないことに着目していた。一般的なアパートを建てるよりペットを買いたい層や、集合住宅で音を気にしながら暮らす子育て世代をターゲットにした「コミュニティ賃貸」に商機があると考えた。
コミュニティ賃貸とは入居者同士の憩いの場をとなる共用スペースを配置し、交流を促す賃貸住宅を指す。
「この物件のオーナーは私で、もともと実家があった場所です。3人兄弟で相続したのですが兄弟の持ち分を買い取り、4棟の戸建賃貸を建てました。
相場よりも15~20%高い家賃が確保できており順調です。1棟の建築費は1500万円ほどで、窓の数を減らすなども仕様や設備を落とせば、建築費を下げることともできましたが、あえてこだわりました」
小型犬までペット可で、その場合は家賃を5000円アップしている。入居者募集のコツは?
「『戸建賃貸』『ペット可』『コミュニティ賃貸』とキーワード入れて募集し、すぐに満室になりました。退去があってもすぐに次が埋まります。意外だったのは4戸中2戸が自営業の方だったこと。自宅を事務所として登記できます。SOHO向けの設計ではないですが、そうしたニーズもあったようです」
コミュニティ賃貸は、どんな場所に向いている?
「戸建が3棟以上建てられる、ある程度の広さがあること。そしてベンチ1つに樹木など、入居者が何かしら共有できるものがあるといいですね。そう考えると都心部より郊外や地方に向いています」
室内には、注文住宅でニーズの高い「DIY壁」や「土間」を採用
普段は住宅と店舗の設計を多く手掛けている井村氏。今回の建築にあたり注文住宅で人気の設備を採り入れている。その1つがLDKに採り入れた「DIY壁」だ。
通常、賃貸住宅では壁に落書きをするなど許されない風潮があるが、自由に壁面を使いたいニーズがあると考えた。
「LDKの壁の一部をべニア板にしてビスを打つなど自由に使えるようにしました。実際、DIYというほど自由に使われているわけではないですが、こうした工夫は、お子さんがいる家庭には喜ばれるでしょう」
ほかにもLDKにコンクリートの土間を採用し、自転車を置いたり、ペットや子供を遊ばせたりと、多様な使い方ができるように配慮した。これもファミリー層には嬉しい工夫である。
適度な距離感も大事。コミュニティ賃貸の管理のコツは?
4世帯が暮らし、1つのコミュニティができることで、いざというときには住人同士で助け合い、防犯・防災対策が高まる利点も期待できそうだ。
管理面での工夫は?
「管理は私が行っていますが、事前に入居者にこの物件は特殊だと伝えています。たとえば境界線がはっきりせず、家の前の植栽は自分で管理してほしいと言っていますが、どこからどこまでなのかなど細かいことは伝えていません。
またコニュニティを重視しつつも一定の距離感は必要です。駐車場を出たら玄関にすぐ入れるなど、毎回コミュニティスペースを通らないと自宅に入れないような、コミュニティの押し付けはNGだと思っています」
草刈りにいったり、テントを張ったり、イルミネーションをつけに行くなど井村氏自身、管理を楽しんでいる。
「退去が少ないこともコミュニティ賃貸の利点です。ご家族で入居している場合、お子さんの小学校などの学区の関係で、引っ越しを避け、長く住んでもらえる利点があります」
古い団地をアートな空間に再生して賃貸・売却する方法
もう1つ、井村さんが手掛けてきた建築物のなかで、ぜひとも健美家読者に知ってもらいたい建築物がある。それは古い団地をアートな空間に再生させた事例である。
「地元の建築物の価値を高めたいとの目的で、100~200万程の古い団地を買い、建築家仲間と実験的にリノベーションしました。
ある程度の費用をかけ、水回りを含めた機能面の刷新だけでなくインテリアにこだわったリノベーションを行いました。こうして再生することで高く貸せたり売ったりできる可能性が高まるのではないかと期待しています」
このほかに井村さんが勧めるのが自分の家を収益化することだ。
「事務所の1室を7坪ほどのテナントにして、飲食店に貸し家賃収入をえていますが、なにかしら自分の家で収益化できる場所があるとおもしろいですよ。そのためには場所が大事で、駅近で人通りが多いといいですね」
最後にこれから投資をしたい方にメッセージを。
「建築費が高止まりしているので、建物に欲張らず、ペット可や、コミュニティ賃貸などメジャーではないところで差別化をするのがいいでしょう。個人的にコミュニティ賃貸の第二弾、第三弾を地方で手掛けたいと考えています。興味がある方はぜひご連絡ください」
合同会社ジンバルワークス 代表、一級建築士 井村正和氏 住宅・店舗・医療などの企画、設計監理(新築・リノベーション)から業態提案、ブランド構築・販売促進などの営業サポート、不動産活用提案・設計・プロデュースを行っている
●取材協力:建築家ポータルサイト『KLASIC』
相談できる「建築家」が見つかる。建てたい「家のイメージ」がみつかる建築家ポータルサイト