帝国ホテルが京都・祇園のランドマーク
「弥栄会館」の一部をホテルとして再生
帝国ホテルは、京都・祇園甲部歌舞練場敷地内「弥栄会館」の一部を保存活用した新規ホテル計画「(仮称)弥栄会館計画」の実施を発表。2026年春の開業を目指すという。
現場は、多くの観光客でにぎわう京都・祇園の花見小路通り沿い。周辺には神社仏閣やお茶屋なども多く、伝統とおもてなしの文化が今も色濃く残る地域だ。
ホテルとして生まれ変わる「弥栄会館」は、洋式ながら天守閣を思わせる造形や、各階に銅板瓦葺き屋根を採用するなど、和風意匠の伝統を巧みに織り込んだ地上5階建ての名建築。
2001年に国の登録有形文化財となり、2011年には周辺のお茶屋とともに歴史的景観を形成していることから、京都市の歴史的風致形成建造物にも指定されている。
1936年の竣工当初は、演劇や人形浄瑠璃などに用いられ、その後は映画館やダンスホール、コンサートなど各種興業にも利用される形で、長らく地域の人々から親しまれてきた。
しかし、近年は築80年を超える建物の老朽化や耐震性の問題により、劇場を含む大部分が使用されていない状況だ。
本計画は、帝国ホテルのブランド力の向上のみならず、歴史的・文化的価値のある「弥栄会館」を現代のニーズに合わせてホテルとして再生し、歌舞練場敷地全体の整備に貢献することを目的としている。
現在の文化的価値を維持しつつ
「弥栄会館」を五つ星級の高級ホテルに
新たに建設するホテルでは、「弥栄会館」の敷地とその北側の土地を学校法人八坂女紅場学園より賃借。それぞれに「本棟」と「北棟」(いずれも仮称)を建設する。
「本棟」の建設については、これまで親しまれてきた「弥栄会館」の屋根形状や外壁位置などのシルエットを守りつつ、景観上重要な正面(南西面)の部分は既存の躯体の保存や建材を再利用することで、地域のランドマークとなっていた建物の文化的価値をできる限り継承する。
また、「北棟」については、お茶屋が建ち並ぶ景観に配慮した設計を行い、「祇園」の伝統的なまち並み形成に貢献するとのことだ。
計画地は、京都市都市計画における祇園町南歴史的景観保全修景地区ならびに12m高度地区に指定されており、歴史的まち並みの形成とそれに調和する建物の高さ規制が設けられていた。
しかし、この計画では専門家による公開審議を経て、地域の景観への配慮や計画の意義が評価され、景観法の認定および現在の「弥栄会館」と同じ高さ(31.5m)の計画への特例許可を取得。これにより、地域に親しまれてきた「弥栄会館」の姿を未来に残しながら価値の高いホテル計画を推進することが可能となった。
今回予定しているホテルの客室数は約60室、施設宿泊代は既存の帝国ホテルより高額な1室1泊10万円台。市内の外資系高級ホテルを視野に入れた五つ星級のグレードを構想に組み込む計画で、投資額は110億円を予定している。
地域発展への期待が高まる
「帝国ホテル30年ぶりの出店」
今回の計画が予定通り遂行されると、帝国ホテルとしては東京、上高地、大阪に次ぐ4軒目、30年ぶりのホテル開業となる。
帝国ホテルが満を持して挑む、花街・祇園の文化と歴史を未来へと継承する本計画。「弥栄会館」という貴重な遺産を損なうことなく、歴史あるまち並みにふさわしいホテル建設を実現することで、祇園町南側地区の持続的な発展に貢献できるのだろうか。期待が大きく膨らむ計画だ。
健美家編集部