半導体メーカーの進出が地価を押し上げている。今年3月に国土交通省から発表された公示地価でくっきりと浮かび上がった。
台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出し、第1工場に次ぐ第2工場の建設も発表された。第1工場は年内に本格稼働する。第2工場も2027年末までに量産体制に入ると報じられている。
TSMC進出は、他の半導体産業や関連産業の集積にもつながり、東京エレクトロンが430億円ほどを投じて開発拠点を新設するほか、フェローテックホールディングスも約160億円を投じて半導体関連の新工場を建てる計画が明らかとなった。政府も補助金などで直接的に支援する姿勢を示した。
九州といえば、福岡市が九州圏全体の経済需要をストロー効果で吸い上げてきたが、TSMCが新たなイメージを開拓するとともに、有力企業の進出を契機に新たな商機が生まれることに期待が集まる。
TSMCの進出により、今年の公示地価の商業地の全国上昇率は熊本県内の地点が1位と2位のワンツーフィニッシュを決めた。
1位は肥後大津駅近くの「菊池郡大津町」(村上写真館)で33.2%の上昇率となり、前年から16.4ポイント上昇した。2位は「菊池郡菊陽町」(冨永ビル)で30.8%の上昇率で、前年比9.1ポイント上がった。
地価上昇は商業地にとどまらない。周辺の住宅地にも波及しており、建設中の「中九州横断道路」で予定する「(仮)西浩志IC」近くの合志市の住宅地は16.0%上昇し、熊本県内での上昇率で1位となった。
九州フィナンシャルグループによる試算によると、TSMC進出に関する熊本への経済波及効果は2031年までの10年間で累計4兆円を超えている。この試算は第2工場建設を発表する前の段階であることを考えれば、さらなる波及効果の拡大に地元は期待する。
工事車両増で狭小道路キャパ超え
インフラ整備や再開発事業は地価上昇の起爆剤となるが、TSMC進出を受けて地元は街の発展に向けての期待感が先行している。すでにマンションや関連企業のオフィス需要が顕在化しているものの、今後は街がどのように、どの程度まで発展するのかが注目される。
目下の状況としては、工場の建設に伴いトラックなどの大型車両の通行が急増しているが、「道幅が狭くて渋滞が問題化している」(地元の不動産事業者)ことで菊陽町など地元の道路事情がそれに対応できていない。
こうした声は、TSMC進出が熊本市や菊陽町の行政主導で誘致できたものではなく、棚からぼたもち的な経済刺激策であることの証左でもある。
本来、行政主導での再開発であれば、将来の発展に向けて区画整理や道路拡幅などを先行的に進めていくが、今回のように降って湧いたような外資進出にうれしい悲鳴も、それに対応できるインフラが整備されていない現状を浮き彫りにした。
地元の賃貸住宅のオーナーにとっては、道路事情の悪さから、工場関係者や工事関係者が熊本市ではなく仕事場に近いところで賃貸住宅を借りるという相乗効果?に期待できる半面、これから道路拡幅で道路事情が改善に向かうと、今度は車での通勤がしやすくなることで熊本市に定住人口をもっていかれる懸念も併存する。
仮に定住人口を増やすための施策として工場周辺の農地を宅地化すれば、その土地値が跳ね上がることは間違いない。今後の地元の政策次第で土地値が転がりやすい状態だ。
菊陽町とJR九州は、2023年12月に新駅を設置する覚書を締結しており、肥後本線に新たな駅を2027年めどに設置する予定だ。新駅が誕生すれば、その周辺の開発が進み地価も上がる。すでに不動産事業者が地上げに動いている可能性は高い。
企業誘致はインフラの有無で決まる
北の地でも半導体需要が地価を押し上げている。北海道千歳市は、ラピダスが工場建設を発表したことに伴い注目を浴びている。同社は昨年9月に工場建設に着手し、2027年に量産体制を開始する予定だ。
公示地価を見ると、千歳駅前の商業地は上昇率で全国3位、5位、6位が集積している。工場建設作業員や進出予定の関連企業の共同住宅(賃貸・分譲)、ホテルなどの宿泊施設、オフィス需要が旺盛であることが地価を押し上げている。
半導体需要に湧き上がる日本列島。過疎化が進む地方にとっては、第2、第3のTSMCやラピダスを探索する自治体が増えそうだ。
この両社進出先の特徴としては、空港と港湾が近いことが挙げられる。企業誘致には、進出企業が必要とするインフラをもっているかどうかが左右する。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))