広大な土地を利用転換し3つのエリアを整備
新たな産業の立地や雇用の創出を目指す
JFEホールディングスは、川崎市川崎区の沿岸部にあるJFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)扇島地区の土地利用構想「OHGISHIMA2050」を策定。約222haの敷地を「先導」「共創」「沿道」の3つのエリアにわけて開発する方針を明らかにした。
言わずもがな、JFEホールディングスは日本屈指の鉄鋼メーカーであるJFEスチールを始め、JFEエンジニアリング、JFE商事などが傘下の持ち株会社。中核事業を営むJFEスチールは川崎臨海部に事業場を有し、1936年に最初の高炉に火入れして以来、川崎市の産業をけん引し、日本の高度経済成長を支えてきた。
一方、近年は鉄鋼需要の低迷や原料価格の高止まり、副原料・資材費・物流費などの高騰などにより、同社は厳しい経営環境に直面している。
2020年には鉄鋼事業を取り巻く構造的な環境変化に対応するため、高炉の削減や製品製造体制の見直しを軸とした構造改革の実施を発表。沿岸部の埋め立て地・扇島地区を中心とする東日本製鉄所京浜地区における上工程(川崎市側)の高炉などを、2023年9月をもって休止すること決定するとともに、土地の利用転換について行政と協議を進めていた。これまでの経緯は以前のニュースでも触れているので、ぜひご覧いただきたい。
今回決まったのは、高炉等上工程休止後の土地利用について。川崎市と協働して検討を進め「OHGISHIMA2050」として取りまとめた。
対象となるのは約222haの敷地。土地利用転換を先導する「先導エリア」、官民連携で最先端の未来空間を生み出す「共創エリア」、良好なアクセスを活かし施設誘致を促進する「沿道エリア」の3つのエリアに分け再開発を進める方針だ。
先導エリアでは国内最大級の大水深バース(船舶の大型化に対応できる水深のある岸壁)を活用した機能を導入し、地区全体のカーボンニュートラル化と土地利用転換を先導。大規模水素サプライチェーン構築に向けた実証事業の受け入れ地として川崎臨海部が選定されていることを踏まえ、水素等供給拠点の形成を図り、公共的に利用できる港湾施設を導入するなど、最先端物流拠点の形成に向け、事業者の積極的な誘致を進める。
共創エリアでは、次世代モビリティ、カーボンニュートラルエネルギー、高速情報基盤などDXやGXを支えるインフラを備えた緑豊かなシェア型都市空間と、同空間を実証フィールドなどとして活用する次世代産業・複合開発ゾーンを連動させ、未来を創造する技術の実証やあらゆる最新サービスの実装を行う場所を形成することで、次世代産業や商業・文化・生活などの機能を誘致する。
沿道エリアでは首都高出入り口や国道357号の整備によりアクセスの飛躍的な向上が期待され、土地利用コンセプトの実現に寄与する施設の誘致を進めるという。
JFEグループは川崎市をはじめとする行政や近隣エネルギー企業を含む地域企業とも連携し、京浜臨海部の持続的発展につながるまちづくりを進めるべく、売却・賃貸・事業利用を適切に組み合わせた総合的な土地マネジメントを推進。
本構想を通じてカーボンニュートラルとイノベーションを実現する先進的な取り組みに挑戦するフィールドを創出することで、地域・社会の持続的な発展および国の重要課題に解決する都市を目指す。また、大規模災害時には首都圏防災に貢献することも方針として掲げている。
川崎市としても、地域の未来を左右する今回のプロジェクトは積極的に推進していきたいところ。川崎臨海部は戦後の高度経済成長期に飛躍的な発展を遂げ、同市全体の製品出荷額の約7割(約2兆5800億円)、法人が納める4税目(法人市民税、固定資産税、事業所税、都市計画税)の約4割は同エリアが占めている。
なかでもJFEスチールは最大の事業面積を持つ企業であり、高炉等休止による影響は大きい。同市および川崎臨海部が持続的に発展していくためには産業構造の変化に対応し、次世代の柱となる新たな産業の創出につながる土地利用展開を早期に果たさないといけない。
なお、扇島地区の近くには有名企業や大学の研究機関が集まる「殿町国際戦略拠点 キングスカイフロント」、多摩川を挟むと企業などの研究拠点やコンベンション、商業などからなる大型複合施設「羽田イノベーションシティ」も広がる。扇島地区もこれに加わることで、広域的な最先端技術の研究・実証拠点が形成され、大田区や川崎区のイメージは一新されるだろう。
「OHGISHIMA2050」の概成は2050年。プロジェクトの推進と新たな土地利用の実現により雇用も生まれ、川崎市の発展にも大きく寄与することは間違いない。
同市は至る所で再開発を進めていることから、人口は右肩上がりで増加。直近で約154万人を突破した。不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、直近3年間で川崎区の賃貸マンションの賃料は4.53%、中古マンション価格は17.11%上昇。
これは神奈川県の変動と同程度もしくはやや低めの水準だが、今後は急伸が期待できるかもしれない。むしろ、これからを見越して宅地の開発も加速することが予想される。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))