第二回では、お二人がリノベーションをする際に気を付けているポイントをお伺いします。空間を広く取ろうとした結果、快適さを失う事例もあるとのことです。住んでくれる人の視点に立って、どのようにリノベーションしていけばよいのでしょうか。
■ 暖かい家は退去防止に繋がる
サンタリーフさん
昔、健美家の長嶋修さんのコラムで、ドイツでは部屋の温度が19度以上を保てない部屋は貸してはいけないという法律があると紹介されていて、それは良いことだなと思っていました。
日本でも築古戸建の床を剥がして、断熱材を入れ直したりする人が増えればいいなと思います。
参照:脱原発路線と再生可能エネルギー〜ドイツ訪問記part1〜
日本ではドイツのような法律はありませんが、「 雨風を凌げているのだから寒さは我慢してね 」というのは不誠実な気がするんです。物件自体の古さは仕方ない部分もありますが、後から手を加えられることに関しては、私のように考える一派があってもいいのではないでしょうか。
モーガンさん
私も同じ一派だと思います。私も長嶋さんのコラムを読みました。欧米では建築基準法の中に最低温度が定義されていて、それを下回ると違法物件だというのは衝撃的でした。あの法律をすごく意識しながらDIYに取り組んでいます。
特に日本の古い家屋は冬場、とても寒い場合があります。アパートも同じで、昔の仕様だと断熱が十分でない建物も多いです。寒い家というのは、ヒートショックで亡くなるリスクも高まります。
先日、京都で古民家に宿泊したのですが、LDK部分を広くするために間仕切りを取り払ってあり、非常に寒くてつらかったです。所有者はフランスの会社でしたが、これでは冬場はダメだと思いました。
サンタリーフさん
私は入居募集を仲の良い不動産屋さんにお願いしていますが、内覧には自分も立ち会っているんです。その時に「 家は暖かいですか?」とよく聞かれます。住んでいる家が寒すぎて、引っ越しを検討している人は結構多いのです。
貸家は賃貸用に建てられたものよりも、古い住宅が空き家になったから貸し出すというケースが多いですよね。そうすると隙間風があったり断熱が弱かったりしますから、リフォームで断熱性能を上げて、退去を減らす努力をすることが大事だと思います。
モーガンさんもご存じでしょうが、空室が出てから募集活動を行うのに、10万円以上かかります。その10万円分の費用をかけて断熱の工事を行い退去を防ぐというのは理にかなっていると思うんです。
モーガンさん
私が今住んでいる家は築年数が古いRCですが、やはり冬場は寒いです。寒いと退去したくなる気持ちはよくわかります。実際に私も、子どもが学校を卒業したら引っ越す予定です。
サンタリーフさん
家が傾いたまま貸す人もいますが、実際にそれで健康被害を訴える事例も出てきていますよね。契約書に傾いていることを記載していれば大丈夫だという人もいますが、人が住む以上、それでいいと言い切ることはできないと思います。
■ 人生100年時代の学びなおしの大切さ
モーガンさん
10/1000°傾いていたということで、裁判で負けた事例もありますね。重要事項説明書に書いてあっても、ダメだと思います。傾きもそうですが、築古の物件で心配なのは耐震性です。
最近は地震も多いです。壁をぶち抜いて広い空間を造るのはかっこいいですが、強度が下がることになります。私はそういうリスクを訴えていきたいと思っているのですが、耐震性に対しての知識がありません。
そのような理由もあり、実はこの春から大学の通信課程に入り、建築デザインを学んでいます。建築士の資格が欲しいというより、社会的に意義のある建物を将来的に建てていきたいという気持ちが強いです。
デザインにも興味がありますが、リノベ派としては耐震性や室温といった人間生活をきちんと送るためにベースとなるものを維持しながら、どうリフォームしたらよいのかに特に関心があります。構造計算も含めて、知識を増やしていきたいですね。
サンタリーフさん
それは素晴らしいですね。私も何度か物件の耐震補強をしたことがありますよ。設計士に見てもらうと、耐震補強の設計をしてくれるんです。無料で計算してくれる機関もあります。施工は業者さんにお任せもできますし、DIYも可能です。
設計士さんがどこでマネタイズをするかというと、耐震補強をした際に証明書を発行する必要があり、その取得代行費用で賄うそうです。先ほど、売却までを考えて投資すると話しましたが、売却する際、買主が住宅ローンを組む際にはその証明書が必要になります。
耐震工事は意外と簡単にでき、「 この壁に針葉樹の合板を張って、長さが70mmのくぎを10cm間隔で打ってください 」などと教えてくれます。
モーガンさん
費用が安いうえに、手軽でいいですね。
サンタリーフさん
そうなんです。そこら辺のことも、これから築古戸建投資をされる方には知っておいてもらいたいです。少しの手間で耐震補強出来るケースもありますし、売るときにも活きますよと。
モーガンさん
間違えても、壁をぶち抜いて終わりにしないで欲しいです。二級建築士以上の資格を取ると、耐震関係の講習に出られるようになると聞いています。すると、診断士向けの講義も受けられます。それも大学に通いだした理由の一つです。
私は3年次編入なので、最短2年間で卒業ですが、卒業生の話を聞いていると6年かかる人もざらだそうです。目標としては3年以内に卒業したいと思います(笑)。予想したよりもかなりハードな感じですが、がんばります。
サンタリーフさん
ワーママはるさんが「 人生100年時代の中で学びなおしが必要だ 」と言っていました。私も何か改めて勉強したいと思っています。ただ、「 今年こそは勉強しよう!」と毎年思うのですが、続かないんですよね(笑)
モーガンさん
学びなおしは、キャリアの中で必要だと思います。実は20代後半の時に、MBAを取ろうと思い家族会議を開いたのですが、子どもが生まれたりして結局、実現しませんでした。MBAではなく建築になりましたが、46歳になってようやくそのチャンスが来たという感じです。
サンタリーフさん
YouTubeで見ましたが、日本人は一日平均5分以下しか勉強しないと言われているそうです。逆に言えば、その中で学べる人は勝ち組になれますよ。
モーガンさん
たしかに、勉強はやった方がいいと思います。学びながら死んだ方が楽しいですし、ずっと勉強しながら、ある日心臓発作で死ぬのが理想です(笑)。
サンタリーフさんが10年前にリノベした洗面所
■ DIYをしてみると、工事内容の妥当性が分かるようになる
サンタリーフさん
私は学ぶのも好きですが、人に何かを教えることも好きです。造園業の時から、地域の文化センターで講師をしていました。「 先生 」と言われるのも好きですし(笑)、同じ思いに向かってみんなで進んでいくのが心地いいです。昨年、戸建投資に特化したスクールを開講しましたが、すごく楽しいです。
モーガンさん
私もアーバントラストさんとDIY講習会を開催しています。ゆくゆくは、不動産事業全体を学べる事業にしていくことも考えています。楽しいですし、人に喜ばれることなので、やりがいもあります。いつかサンタリーフさんと一緒にできたら嬉しいです。
サンタリーフさん
いいですね。ところで、私の生徒さんはDIYをがっつりやる人ばかりなので、将来的には生徒に仕事を発注したいと考えているんです。
モーガンさん
生徒さんなら、安心して発注できますね。
サンタリーフさん
いま、日本全体で職人不足だと言われています。少ない職人さんを取り合う形になった時にどこが勝つかというと、大手の資本力があるところじゃないですか。そんな環境で小さな現場に来てくれる職人は、少し癖がある人が多いんです。
私の知り合いが職人に小さな仕事を発注したところ、数十分の作業で数万円請求されたことがありました。工賃の相場や内容を理解していれば起きにくい話ですが、初心者だと分からないことも多いと思います。
モーガンさん
健美家さんの失敗告白のコラムでも、「 半年かけて床を剥がしただけ 」といった話が出ていましたね。こちらがおかしいと思って言っても、そういう人は言い訳がうまかったりする。表には出てきませんが、そういった悲惨な例は実は多いと思います。
サンタリーフさん
外壁塗装なんかも、下地と塗装を複数回実施したかどうかは見た目だけでは分かりません。手抜き工事かどうかは、数年後に判明する世界です。職人さんにも色々な人がいるということを理解しておくべきです。
モーガンさん
そうですね。
サンタリーフさん
そういった内容を体系的に教えられるカリキュラムも作れたらいいと思います。私は外構関係なら講師として出られるので、呼んでくださいね。テーマは「 庭を作ることによって、家の価値を上げる 」です。
ちなみに外構も普通のブロックを使ってはいけない箇所があるなど、やってはいけない工事がたくさんあります。それを事前に知っておくことは大事だと思うんです。お金をかけて外構工事をしたのに、欠陥住宅になったら勿体ないですからね。
モーガンさん
一回しっかり学べば騙されることは防げますね。サンタリーフさんのお話を聞いて思い出したのは、私自身もリフォームの見積もりを貰っても、妥当性が分からなかったということです。
「 ○○:○○万円 」と書いてあっても安いのか高いのかわからず、壁紙などの施工面積が書いてあってもそれが合っているのか見当がつきませんでした。それでも調べもせずに、発注していたんです。今は一通りDIYを経験したことで、工事内容や金額が妥当かどうか、かなりわかるようになりました。
編集後記
一度DIYをしてみると、工事内容や金額の妥当性に気付けるというお話しは、参考になります。人生100年時代の中で、いくつになっても新しいことを学んでいくモーガンさんの姿勢は、多くの方に共感されるトピックではないでしょうか。(取材担当:アリ)