■ 22歳の若者との会話から感じたこと
先日、付き合いのある不動産会社の若手が会社を辞めてしまいました。担当が辞めるのはこれで3回目。退社の挨拶を私にしてくれた時、私は彼に言いました。
私「 まだ22歳、色々ご事情はあるとは思いますが、残念です。短い期間でしたが今までのお付き合いに感謝します 」
彼「 こちらこそ有り難うございました。後任については、また改めて決まったら連絡差し上げます 」
私「 ところでぶしつけながら、何故お辞めになるのですか? 」
彼「 超過勤務と言うか、なかなかプライベートな時間が取れなかったのです。持ち帰り残業が毎日多く、休日でもお客さんにLINEしたりメールしたり修繕の手配をしたり。それで疲れてしまいました 」
私「 不動産は、賃貸売買共にスキルが付けば仕事という分野を超えて、人生においても終生役に立ちます。でも勤務がそこまで大変だと、人がどんどん辞めてしまうのも仕方ない事ですね 」
彼「 加えて、退職金もないので将来が不安というのも理由です。時間だけどんどん過ぎて、気が付いたらそのまま使い捨てされてしまうと、老後が心配になりますから。高くない給料は家賃と生活費に消えていきますし、傲慢な言い方になりますが、先が見えた気がして 」
私「 それは確かに大きなリスクですよね。持ち家くらいは手に入れたいし、それが叶えば家賃負担がなくなる。これは大きいですよ。自宅を所有する前に人生を消耗して、気が付いたら何もない老後。このような未来はなるべく避けたいですよね 」
こんなやり取りがありました。
その後、私は考えたのです。勤務する場所と住む場所、これを少しずらすだけで、心身ともにすり減らして働き莫大な住宅ローンを抱えなくても大丈夫、というやり方もあるのになあ、と。
■ 東京から外れるだけで人生にゆとりが生まれる
例えば、JR千葉駅から総武本線や外房線に乗って数駅いくと、かなりな量の格安な戸建てが売られています。要するに、東京からさほど遠くない都心通勤圏内でも、格安な戸建ては沢山あるのです。
総武本線の八街駅は、300万円台から400万円台を始め築30年程度の一戸建てなら、随分と買いやすい価格帯です。外房線の大網駅や茂原駅も、似たような価格帯の物件は少なくありません。
「 千葉から先に住むと、遠いから仕事で東京に通勤できないでしょう? 」と言われますが、東京に通えない距離ではなく直通電車も朝晩出ています。

しかし、あえて東京は止めて、千葉で働くというのが現実的だと思います。転職サイトを調べてみると、千葉市だけで正社員の募集は約7万件あります。
求人情報を見ると千葉大学の事務員や、千葉ロッテマリーンズの運営の求人もその中にはありました。「 東京だからこそ高賃金な仕事がある 」というわけでもなさそうです。
無理しないでも家を安価に求められる地域を先に考えて、それから働く場所を選定する。こんな考えも悪くはないのでは、と思うのです。
仮の話を続けます。千葉駅周辺の会社に事務正社員として、諸手当込み月給23万円で採用されたとします。これは、サイトを閲覧するに可もなく不可もない、ごく平均的な求人内容です。
この内容で22歳から働き、勤続2年経過したとします。この段階で、住宅ローンを組める確率がかなり高まります。この人が24歳時に、JR外房線大網駅徒歩圏内の戸建て約500万円を買って千葉駅に通勤、というのはどうでしょうか。
物件のスペックは、駅徒歩20分で土地100坪、建坪80uの3LDK、1990年築。これは物件サイトから見てあり得る設定です。
内外装を整えるリフォームも同時に行なった場合、追加で約500万円かかったと想定します。これで物件価格500万円+リフォーム代500万円の合計1,000万円。500万円もかければ、かなり快適な住まいになるでしょう。
これを全額月額ローンとして推計すると、30年返済の場合は月額36,961円です( 全期間固定、金利は2%と高めに設定、ボーナス払いなし )。火災保険料をいれても、これなら月に4万円位でしょう。
勤め先は、さほど距離が離れていない千葉駅。広々とした戸建てに住めるし、休日は海辺で散歩や鋸山登山など、豊富な自然環境を楽しめます。東京までも快速電車で1時間ちょっとですから、行けない距離でもない。
そうなると、月に23万円という給料からローンを返す事は簡単な金額ですし、毎月の貯金も少なからず出来る事でしょう。実際に、私が大学生の時を想起しても、私の周りではこんな声が多かったのです。
「 東京近郊、せめて大宮や千葉、八王子辺りで給料安い代わりにのんびり働ける職場、ないかなあ 」
「 給料は安くても良いから、正社員という身分で週休3日という職場がないかなあ 」
その時代は、大卒の正社員は基本的に総合職採用で全国転勤、転勤がない事務は一般職採用で、短大卒や大卒女性メインといった区分けが色濃く、中々選択の余地がありませんでした。
しかし、今は違います。少子化により家余り、人手不足が深刻化して基本的には安い家の在庫が豊富にあり、仕事もホワイト化した正社員求人が増えてきています。住居を東京都心限定とするから大変なのです。大網や茂原等に住むなら事情はかなり変わります。
正直、私が現在22歳の新卒、遅くとも30歳くらいまでなら千葉か埼玉県大宮辺りのエリア限定で正社員になって、通勤圏内の戸建てを格安で買って生活を楽しむだろう、と思います。
■ 東京以外の中古住宅は昔の方がずっと高かった
色々考えていくと、今の時代はやはりかなり恵まれています。不平不満を言う人もいますが、総体的には選び方次第で資産形成もワークライフバランスも両立できる道は色々あり、それでいてそれを無理なく進められるのです。
これを書いている私も、何だか今の時代で22歳に戻りたくなってきます。少し前は千葉でも埼玉でもこんなに物件は安くありませんでした。
以下は私の伯父が昭和59年に買った千葉の戸建ての情報です。
立地:千葉駅バス便30分、分譲開発地
概要:土地50坪、建坪80u、木造2階建て
築年数:昭和50年築のものを昭和59年に購入( 築9年 )
価格:約3,500万円
概要:土地50坪、建坪80u、木造2階建て
築年数:昭和50年築のものを昭和59年に購入( 築9年 )
価格:約3,500万円
叔父は千葉大に勤務していたので、この家を求めたのでしょう。千葉の駅からバス便のごく普通の中古住宅が3,500万円というと高く感じますが、当時はこれが当たり前でした。
その後、この伯父の職場が東京に移ったため、この家が空き家になり、中学途中から高校卒業まで私と母とで使わせてもらいました。バス便ですが楽しく普通に暮らせました。住めば都、とはよく言ったものです。
今は3,500万円も出さなくても、いくらでも格安戸建ては出てきます。昭和土地バブルが起こる以前より、そんな意味で不動産はかなり安くなったといえると思います。
■ どう生きるのが幸せなのか
「 大網に戸建てを買って住んで千葉で働いても、億万長者にはなれませんよね。金持ちになり早くリタイアしたい、という希望とは相いれない考えになりますか? 」という意見があるかもしれません。
もちろん、千葉に住みながら貯金を進め、チャンスがあれば借入をして投資を進めるという道もあるのだと思います。住居費が格安な分、東京都心に住むよりむしろ成功率は高まる可能性すらあり得るでしょう。

千葉の九十九里浜
これについて私は、「 塞翁が馬 」という故事を想い出します。物事にはおよそ陰陽があり、光あれば影がある、絶対に陽しかない、陰しかない、という事は自然界の法則として成り立ちません。
今は、リセールが期待できるタワマンに住みパワーカップルで揃ってホワイト企業で働き、投資も進める。これこそが目標で、その為に頑張って難関大に進む人もいるという、打算や計算をする人が多い時代です。
この立場になると、庶民から羨望のまなざしで仰ぎ見られますし、このルートを進めば人生盤石なのだという底の浅い価値観が広まっています。当人たちが成功者、勝ち組と心底感じているのかどうかは知りませんが、それのみが人間の幸福とは限りません。
私はその意味でも、「 陰陽の調和 」と「 万物は流転していく 」という観点、「 塞翁が馬 」の故事の深さにいつも思いが至るのです。
私自身は、「 中庸 」を信条として、可もなく不可もない人生を満喫して、最後は悔いなくこの世から去る事が出来れば満足です。そういう生き方を選ぶなら、上記の「 千葉の大網戸建て 」という選択もあるというのが本日の主題です。
億万長者になるのが目的という事であれば、また話は違ってきます。そして、レバレッジをかければ当然、負荷がかかります。そのような重荷を背負う事だけが人生ではありませんし、吉凶禍福はそれとはまた違う部分にあるのでは、と思うのです。
人生の目的は、お金を得るだけでも名声を得るだけでも都心に住むだけでもありません。結局は自己満足が出来て、多少は人のお役にも立てればそれで良いのでは、と私は考えています。
「 日計すれば足らず、歳計すれば余りあり 」
という故事が荘子の中にあります。日々をあくせく「 損した、得した 」という感覚で過ごすより、何年かを経た時にどう「 余り 」があるのか、そこで多少なりとも「 余り 」があればそれで充分ではないか、という意味であると私は捉えています。