大学が多く、学生の街としても親しまれている中野区江古田。西武新宿線沼袋駅から徒歩18分でも満室が続いている賃貸住宅がある。
手掛けているのは、テレビ番組「突撃!隣のスゴイ家」(BSテレ東)で、歴代1位となった小金井の家を作った建築家で、インターセクト一級建築士事務所 代表取締役社長の横川 大昭氏だ。人気がつづく賃貸住宅のつくり方を取材した。

女性が求める住まいのデザインのトレンドは、
かっちり作りこんだ「上質さ、高級感、邸宅感のある佇まい」
個人住宅や賃貸住宅、ショッピングセンターの設計から、分譲マンションのデザイン監修などに携わってきた横川氏。20年以上にわたり、大手ディベロッパーの依頼でマンションのデザイン監修を行うなかで賃貸住宅の設計にも通じる住まいのトレンドを知るようになった。
「分譲マンションのトレンドから、賃貸住宅にもマネできるようなところがあると感じています。最近では特にコロナの影響もあり、部屋数を求める動きが顕著です。自宅で過ごすのが長くなっていることから、衛生面(ゴミの管理や共用部の状態)を気にする人も増えています」
衛生面の高まりから、エアコン1つとっても、除菌ができるエアコンを求める動きがある。また、これまでは単身男性をターゲットにしたマンションが多かったものの、昨今では単身女性を意識したマンションも増えてきている。特筆すべきは、女性の好みが変わってきていることである。
「女性を意識したデザインというと、以前は明るく可愛らしいデザインが好まれたものの、昨今のトレンドは、かっちり作りこんだ上質さ、高級感、邸宅感のある住まいのデザインが求められるようになってきました。色味1つとっても同様です。この点は賃貸住宅の大家さんも少し意識してもいいかもしれません」
よく似た賃貸住宅が多いなかで、デザインで差別化。
若い女性に人気のデザインで、家賃15〜20%アップ!
横川氏が手掛けた賃貸住宅のなかでも、特に参考にしたいのが、冒頭に挙げた沼袋の事例である。RCのような高級感があるデザインながら、木造でイニシャルコストを抑えている。
駅から徒歩18分のバス路線の立地で周辺に大学が多いものの、学生向けの賃貸住宅も多く、競争が激しい。そうしたなかでも、家賃は相場の15〜20%増しでも満室が続いている。
「こだわったのは南側の道路からの景観です。賃貸住宅では採光性のために南向きのものを作るのが一般的ですが、道路沿いに、同じような南向きの賃貸住宅が多いことから、ほかと違うデザインで差別化する必要がありました。
そのためU字型の外観で、南側の採光を捨てて、真ん中に通路を確保することで、必要な避難経路を確保。東や西にプライベート空間を確保し、1階には専用庭を設けました。外観のインパクトが特に若い女性に人気で、満室が続いています」
1階に専用庭、 2階には独立感のあるバルコニーを設け、各住戸が壁1つで接しないような設計にしたことで、安心感やプライベート感が持てる住環境が実現し、若い女性からの人気が得られたようだ。ちなみに女性専用ではなく、男性の入居も可能である。



「この賃貸住宅の場合、もっと戸数を増やすこともできましたが、あえてそうせず空間にゆとりを持たせることで家賃UPにつなげています。高さを活かせる立地ならばRCの利点も活かせますが、2〜3階の共同住宅ならコスト的に木造を選ぶのがいいでしょう。木造でも魅力ある賃貸住宅を作ることはいくらでもできます」
このほかにも家賃を高く設定できた事例に、店舗付き賃貸住宅がある。こちらはRC造だが、1階はオーナーが運営する美容院で、2階以上が賃貸住宅となっている。

「1階はオーナーさんの希望するデザインで店舗設計をして、それをもとに1棟、クラシカルなイメージのデザインに統一しました。駅徒歩1〜2分の商店街で競争力が高い立地でしたが、家賃は相場の2〜3割高く設定できました」

最後に、賃貸住宅の大家や投資家である建築家読者にアドバイスを。
「賃貸住宅のプラニングで重要なことは、やはり短期決戦ではなく、20〜30年先も競争に勝てるような長期決戦を意識することでしょう。そのためにお金をかけるところとかけないところを見極めることが重要です」
●取材協力:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ)
約3000人が登録する日本最大級の建築家ネットワーク。全国各地のスタジオや定期的に開催するイベントで、さまざまな建築家と出逢い、話し合える場所を提供している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
健美家編集部(協力:
(たかはしようこ))