企業業績の低迷に伴う個人所得環境の悪化を受けて住宅ローンや家賃が支払えなくなって住まいを追われる。その中でも持ち家を手放さざるを得ずにマンションや戸建て住宅で競売物件の件数が増えたり、中小企業倒産により経営者の保有資産が競売市場に流れ込むといった見立てが新型コロナウイルス感染拡大が本格化した当たりからあった。
しかし実際のところはどうか。実は、競売物件の数は減っている。
ワイズ不動産投資顧問(東京都千代田区)の調べによれば、今年10月21日までの東京地裁本庁を見ると、競売対象になった物件の数は436件(2019年通年784件)、総入札数が5041本(同7900本)、落札物件数が429件(同768件)となっている。
落札総額は2019年が約376億5000万円、2020年は10月21日時点で約159億1000万円である。
緊急事態宣言下の5月に東京地裁がストップしていたこともあるが、明らかに競売に至る物件が減っていることがわかる。同社社長の山田純男氏は、「2020年通期予想として600件弱に収まりそうだ。2018年の753件も下回る見込み。競売物件数は1割以上減少する」と話す。
コロナ禍で倒産とともに差し押さえが増えて競売物件が増えるというシナリオ。実体を見誤った観測がひとり歩きした可能性が高い。
競売市場は遅行性が強い特徴があるため、来年の夏あたりから増えるとの見方が依然として根強いものの、今後の競売マーケットの見方として、来年の夏や秋までは現状と変わらずに競売物件が増加に転じることはなさそうだとしている。
◎2021年9月頃まで現状水準が続く見通し
その分析の裏付けの一つが、競売物件の先行指標となる配当要求終期の公告件数が少ないことが挙げられる。この公告は、差し押さえとほぼ同時に実施される作業で出される数字で、今後半年から1年の間に競売市場に出ることを示す。
東京地裁本庁を見ると、9月の公告件数は142件と最も山が高くなっているが、その後の10月(75件)と11月(69件)に急落している。11月末までの公告件数は1023件。
12月の公告件数はまだ出ていないが、昨年の1279件には届かないことが予想される。コロナの影響により競売物件の差し押さえ件数が急増するシナリオはまったく否定された格好である。
そして、競売物件が少ないもう一つの要因としては、銀行や信用金庫などの金融機関が中小企業に貸し出している融資の返済期限に関してリスケジュールに応じていることが挙げられる。リスケでは金利分だけの支払いとなり、元本の返済は先延ばしする。
実質無利子・無担保融資の支援措置を延長する方向であることもわかった。日銀は、新型コロナ対応の企業の資金繰り支援策について、2021年3月末から半年程度延長する方針を示した。
日銀は、資金繰り支援策として、社債やコマーシャルペーパー(CP)を合わせて計20兆円を上限に買い入れる措置と金融機関に有利な上限で貸し出し原資を120兆円規模で実施しており、この期限を来年9月末まで伸ばすことを決めた。状況によっては、さらに延長することも視野に入れている。
◎競売物件は高値掴みの水準に
前述の山田氏は、「当然ながら銀行や信用金庫などは、こうした動きに追随する形で貸し出し先に対する返済について、金利だけを払えばいいというリスケを続けることになり、競売物件は増えそうにない。来年の秋頃まで競売市場は現状のような調子でいくイメージだろう」と分析する。
企業がデフォルトしないように市中に大量のマネーを流し込んでいる。コロナ感染拡大初期に競売市場の見通しを見誤らせたことを地銀や信金の与貸率からもうかがえる。
預貸率は預金に対して貸し出しがどれくらいかを示すが、金融機関によっては既に100%を超えている。つまり、元本が返ってきていないで融資高が増え続けてGDPを上回る金額が貸し出されている状態だ。異常な金融支援策であることがわかる。
一方で、競売市場には過熱感が漂っている。今の競売市場で物件を購入すると高値掴みとなる。築15年落ちのワンルームマンションのネットでの利回りが4%水準でないと落札できない状態になっており、本来なら7%程度は確保したいところ。値上がり前提の投資になっている。
普通なら競売物件の購入にアクセルを踏み込むことにためらいも出る状態でも買い取り再販事業者を中心に落札していく。入札参加者の資金力が衰えていないことの裏返しでもあり、国の倒産回避政策と足並みをそろえての緩和マネーが競売市場にバブルを発生させている。
(鹿嶋淳一)