賃貸住宅物件に掛ける火災保険をカスタマイズするには、特約をどう選ぶかということも重要なポイントだ。なぜなら、住宅用火災保険商品は、すべての住宅建物に対応できるように作られている汎用商品だからだ。その火災保険をいかに賃貸物件に適したものにするかは、付帯する特約によって大きく左右される。
賃貸物件専用の特約は、その性質上独立した別の保険商品として単独で契約することも可能だが、それ以外の汎用特約は一部を除き単独で契約することができない。よって保険商品選びと平行して同時に選択しなければならない。つまり、順序でいえばこの作業の方が先になる。
数ある汎用特約の中から、賃貸経営に必要な特約を見つけ出すことは、賃貸住宅物件用の火災保険を組み立てる上でとても重要なことなのだ。
今回は「特約」の選び方について解説したいと思う。
・意外と少ない「賃貸物件専用特約」
住宅用火災保険に付帯可能な「特約」は、保険商品による違いはあるものの、それぞれ数十種類といわれる。その内賃貸用建物専用の特約は、各社ともわずか3〜4種類しかない。
つまり賃貸住宅物件にふさわしい火災保険を作り上げるには、それら専用特約を吟味するだけではなく、それ以外の数多くの汎用特約の中から必要な特約を選び出すという作業をしなければならないのだ。
これは物件の特性によっても様々なため、家主の裁量と保険募集人の適切なアドバイスが不可欠といえる。最適な提案を受けるために、家主は所有物件特有の潜在リスクを把握し、的確に伝える必要があるだろう。
・汎用特約は性質の違う2分類からそれぞれ選ぶ
賃貸物件に必要と思われる汎用特約は、補償の範囲を拡大(または縮小)するもの(=A群)、および損害保険金とは別に費用保険金を支払うもの(=B群)に分類される。この中から、賃貸物件に必要と思われる特約をそれぞれピックアップしてみた。
(A群)
「破損・汚損等担保特約」
建物内外で発生する、不測かつ突発的な破損・汚損事故による損害を補償する特約。築年数にかかわらず、人の出入りの多い賃貸物件ではこのような事故が多く発生している。特に入居者の不注意で室内を破損・汚損した場合に、「時価」基準でしか賠償できない家財保険との差額を補填することができる。
「特定機械設備水災補償特約」
浸水による損害の程度にかかわらず、電気設備やガス設備などの特定の機械設備に対する被害を一定額まで補償する特約。1階または地下にエレベーター、自動ドア、給湯設備、発電設備など、浸水被害を受けやすい高額な機械設備が多い物件は付帯していれば安心だ。
「建物付属設備等電気的・機械的事故補償特約」
建物内に設置された付属機械設備等の電気的・機械的事故による損害を補償する特約。設置から概ね20年未満の付属機械設備が多い物件、かつ居室数が多い物件などは検討の余地があるだろう。
「水災不担保特約」
文字どおり「水災」に遭う可能性が低い物件であれば、特約を付帯することにより保険料を割引く効果がある。プランの選択によって水災補償の有無を分けている保険商品もある。
※「水災」の認定基準
台風、暴風雨、豪雨等による洪水、融雪洪水、高潮、または土砂崩れ、落石、土石流の家屋への流入などによって建物の再取得価額の30%以上の損害が生じた状態、および床上浸水または地盤面から45cm以上の雨水または高潮によって建物が浸水して損害が生じた状態。
「屋外明記物件担保特約」
建物と同じ敷地内に設置してある屋外設備を、予め保険金額を定めて補償の対象に含める特約。保険商品によっては自動的にすべての屋外設備を補償するものもあるが、そうではない場合にはこの特約を付帯していないと補償の対象に含まれないので、注意が必要。
「施設賠償責任特約」「建物管理者賠償責任特約」など
建物の管理不備などに起因する偶然な事故により、入居者などの他人にケガをさせたり、財物を壊したりした場合の法律上の賠償責任を補償する。単独の保険商品としても契約が可能。
(B群)
「地震火災費用特約(拡大補償)」
地震等を原因とする火災により建物が半焼以上となった場合に、保険金額の5%(300万円限度)を支払う自動付帯の特約があるが、この支払い割合を30%または50%(限度額なし)まで引き上げることができる特約。
これにより、地震による火災被害に限っては、地震保険と合わせて補償を最大100%に拡大することが可能となる。一部の保険商品でこの設定が可能だ。
「臨時費用特約」「事故時諸費用特約」「事故付随費用特約」「災害緊急費用特約」など
損害保険金に対して一定割合(10〜30%)の費用保険金を上乗せする特約。
名称の違いと支払う条件、および上乗せ割合、限度額が異なるが、損害保険金に上乗せして支払われる性質は同じだ。類似の特約が自動付帯されている場合もあるので、重複させて無駄な保険料を支払わないよう注意が必要。
・賃貸物件専用特約は、火災保険とは別分類
「賃貸建物所有者賠償特約」「マンション居住者包括賠償特約」「家賃収入補償特約」「家主費用・利益特約」。
これらはいずれも賃貸物件にしか付帯できない、賃貸物件専用の特約だ。その性質は火災保険のように有形資産を補償するものとは異なり、いずれも賠償責任や利益を補償するという、別分類のものなのだ。
「賃貸建物所有者賠償特約」
施設賠償責任特約と同様に、賃貸物件の所有・使用・管理上発生した偶然な事故によって、法律上の賠償責任を負った場合の賠償金を補償。
施設賠償責任特約では補償しない「雨漏り」による賠償責任も補償するので、老朽化が進んだ賃貸物件には必要性が高い。
「マンション居住者包括賠償特約」
賃貸物件に居住している入居者の個人賠償責任を包括的に補償する特約。
家財保険に未加入の入居者がいた場合でも、入居者が負うべき法律上の賠償責任の補償を、家主側から万全にすることができる。
「家賃収入補償特約」
その名の通り、災害によって得ることができなくなった家賃の損失を補償する特約。補償範囲は、火災保険の基本補償(主契約)で担保される補償と同一の事由に限られる。
「家主費用・利益特約」
孤独死、自殺、殺人などの発生により心理的瑕疵を抱えたことによる家賃損失や原状回復費用、遺品整理費用、訴訟費用などを補償する特約。
火災保険の破損・汚損補償の対象にならない清掃・消毒・脱臭費用も補償する。損害保険会社の他、少額短期保険会社にも家主費用・利益保険と同様の、通称「孤独死保険」がある。また、家賃保証会社が一部同様の補償をしている場合もある。
これらの特約は、保険会社・保険商品によって付帯の可否が異なるため、希望する火災保険に設定がない場合には別途単独で契約、またははじめから設定が可能な保険商品を選ぶ必要があることを念頭に置くべきだ。
執筆:
(さいとうしんじ)