歴史ある問屋街、横山町、馬喰町界隈でURが不動産を買い支えるという形での街づくりが行われている。その地域に誕生した小規模ビル利用の生活機能共有型SOHOを見学してきた。都心の小規模ビル再生のひとつの手として参考になるのではなかろうか。
問屋街の衰退にくさびを
東京駅まで車で15分。江戸時代から続く服飾関係の卸問屋が軒を連ねる日本橋横山町、馬喰町界隈が変わり始めている。JR馬喰町駅と都営地下鉄馬喰横山駅、東日本橋駅の3駅が利用でき、大手町のビル群が望める便利なエリアだが、卸問屋という一般の人には縁のない商売が中心だったためだろうか、街の一般的な認知度はそれほど高くはない。
そのため、昭和の建物が多く残り、街全体にレトロな雰囲気が漂う。ところどころにそうした建物をリノベーションした物件もあり、また、2000年頃からはマンションやホテルに建替えられる例も出るようになった。訪れる度に空き地、活気のない店舗が増えているようでもある。
当然、地元の事業者も危機を感じており、街の変化をデザインしようと自ら立ち上がってまちづくりのビジョンを掲げ、現在はその実現を支援する形でURが合流。まちづくりに取り組んでいる。
といっても従来のような大きく再開発をするというやり方ではない。今後の方針が決まるまでURが物件を買い支え、そこに街の変化を促すような人達を呼び込むという、これまでとは違う方法である。
2017年から関与し始めたURはすでに6物件を購入しており、このほど、活用の3例目となる物件を設計にあたった勝亦丸山建築計画の丸山裕貴氏の案内で見学してきた。物件名のSANGOは元々3号案件という意味で3号と呼ばれていたことに加え、サンゴ礁のように多様なものが集まる場になればという願いを込めてのことという。
店舗ビルをSOHOと店舗に改装
その物件「SANGO」は生活機能共有型SOHOだという。SOHO(Small Office Home Officeの略)は自宅とオフィスを兼用する物件や働き方を意味するが、SANGOはそれとシェアハウスを組み合わせたもの。
生活の場である個室と水回りなどの共用部で成り立っているのがシェアハウスだとすると、SANGOは個室が生活の場であり、仕事の場でもあるという点が異なる。自宅と仕事場の2つを借りなくても、1カ所でその2つのニーズを満たせる物件というわけである。
そのため、元々は服飾関係を扱う問屋ビルで店舗だった用途を寄宿舎+事務所に変更、どちらにでも使えるようにした。それに伴い、固定資産税、都市計画税が軽減されてもいるはずである。

建物は旧耐震の地下1階、地上6階建てで、改修前は公道側に地下駐車場もあった。だが、地下駐車場部分、5階の半分ほどは違法な増築だったため、改修時に撤去した。駐車場は埋めて使えなくなっており、5階は適法部分をキッチンに、屋上は入居者が共用スペースとして使えるようにした。


その上で1階は店舗、2〜4階の3フロアを1フロア1戸の住宅としても、オフィスとしても使える空間に仕上げた。広さは約25〜30uほどで仕切りのないワンルームとなっている。特徴は正面、公道側の大きな窓で特に2階、3階は全面窓といっても良いサイズ。実際の広さ以上に広く感じるのはそのためだろう。

内装は白い塗装にタイルカーペットと潔いほどにシンプル。内容によっては改装も可としている。
中小ビルならエレベーターは不要?
トイレは2階、3階に、洗面所は3階に、シャワー室は1階に設置されているのだが、面白いのはエレベーターを撤去、その空間をシャワー室、洗面所に利用していること。
「中小規模のビルでエレベーターは費用的にも空間的にも負担が重い。そこで最近はエレベーターを撤去する提案をする例をよく聞きます。この物件の場合、居住スペースは4階までなので、エレベーター無にしても、それほどマイナスにはならないだろうと判断しました」と丸山氏。

1階は店舗部分を上階住戸から切り離して設置。店舗の脇に通路を設けて住戸への入口とした。店舗の前には屋根のある小さな広場が生まれており、そこにベンチを置くなどすれば店舗の一部としても使えるようになっている。
地下、5階の違法増築部分、エレベーターと撤去部分が多いが、既存のものを活かした部分もある。特に印象的なのは入口に吊り下げられている、手の込んだ細工のゲート的なもの。
元々は上下動させて入口を塞ぐ役割を果たしていたそうだが、現時点では落下を懸念、1階と2階の間に固定してある。昭和の建物の中にはこうした、今では作れない、作らないようなデザイン、細工の品もあり、使い方によっては建物の個性になるというわけだ。

また、5階の減築した部分は屋上として入居者が使えるようにしたと書いたが、これもこの建物の魅力になっている。これまで屋上は使えないとするビルが多かったが、コロナ禍で増した開放的な空間を求める声を考えると、今後は建物の新たな魅力として使えるようにしていくのも手かもしれない。
建物内の階段、廊下は壁、柱の塗装が新しくなっているだけで、それ以外は既存のまま。意外に気にならないものである。
賃料は1階店舗が17.94uで18万4800円(税込)に管理費6600円。コンパクトな空間なのでスタンド式の軽食系やコーヒースタンド、バーなどの利用だろうか。この地域では最近、カフェが増えてきているので、違う業種のほうが面白いかもしれない。
2階以上の住戸は13万円〜13万9000円で管理費は4000円。別途光熱費は1万2000円。事務所使用の場合には賃料、管理費に別途消費税が加算される。
現時点では2階に会費制のオフィス、打ち合わせスペースとして使いたいという事業者が決まっており、1階、4階にも検討者がいる状況だという。都心近くの立地からか東京での拠点として複数人で借りたいという問い合わせもあったそうだ。最近の二拠点、多拠点で働く人の増加を考えると、この手の使い方にもニーズが増えているのだろう。
都心の中小ビルのこれからはどうなるか
見学の後、丸山氏の案内で周辺を歩いたのだが、目についたのはSANGO同様の小規模ビルの多さ。問屋街では後継者不足から今後、廃業する事業者が少なからぬ数出て来ることが予想される。ある程度の規模のビルなら建て替えもあり得るだろうが、中小規模では建替えても収支は合いそうにない。
とすると、手を入れて再生、使い続けるのが現実的。今後もこうした例が出て来るのではなかろうか。その時にどのような使い方で再生するか。SANGOはそれを考える際のヒントになりそうである。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))