築25年住宅物件の取得に関連して、銀行融資の条件として「インスペクションレポート」が要請される事例を最近経験した。改正宅建業法に制度が加えられて6年、建物についてのエビデンスがローンの前提となる時代になったのだ。

インスペクション(建物状況調査)について
インスペクション(Inspection)とは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場から、また専門家の見地から、住宅の劣化状況、不具合事象の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行なう専門業務を指す。
もともとは、中古住宅流通が住宅流通の9割と日本の6倍のシェア率のあるアメリカにおいて、売買取引の前に買主が専門家(インスペクター)に依頼して行っていた住宅調査の、取引におけるメリットを日本の中古住宅流通にも取り入れ、ストック活用に結び付けようとして導入されたものだ。
考え方としては個人レベルのデューディリジェンスであり、大事なことは売主に対して買主の情報の非対称を解消するための専門家委託という考え方だ。
一品物の中古不動産については、新築時の瑕疵担保保証という制度はないため、基本的に買主は自分で判断したことについて自分で責任を取るということになる。
しかしこれまでの不動産取引の制度では、権利、評価などについての公平性は担保されていたものの、建築そのものについての状態については、不動産事業者の専門外という扱いであった。
自分の判断に自信がないために、良い立地にある中古住宅の購入に二の足を踏んで、立地をあきらめて新築住宅を選択する、という行動が結果として住宅付き土地の価値を下げていた要因にもなっていた。
一方でアメリカの中古住宅流通においては、流通時の評価としてインスペクションがあるため、良い状態の中古住宅は土地の価値に価値向上をもたらすということが不動産の常識であるため、住宅付き土地の住宅と土地との価値は相乗効果をもたらすことになり、結果として地域価値を上げることになっている。
インスペクションが融資要件になる時代
中古住宅の改修取得を支援するフラット35リノベでは2016年から取得時インスペクションが条件の一部となっていたが、先日出会った事例では改修ではない通常の中古住宅の購入の相談の中で銀行側から融資要件としてインスペクションが求められていた。
建設時の確認申請、検査済証などの書面、また個人ワンオーナーのため履歴も明らかではあったが、銀行窓口が建築の現況についてのエビデンスデータを求める、それが融資を左右する時代になったということなのだ。
土地だけが融資対象の価値ではなく、そこに建設されている建築の価値も含まれる、ということは、居住者、利用者にとっては当たり前のことだったのだが、ようやく不動産金融がその現実と接近してきたということなのだ。
現状では、インスペクションは構造耐力上主要な部分[基礎、壁、柱、小屋組、土台、斜材、床版、屋根版、横架材]と雨水の侵入を防止する部分[屋根、外壁、開口部]についてのみ状況を調査しレポートするものである。

現在の基本は、建造物としての安全性、経年耐久性に関するエビデンスデータという考え方だが、将来的にはよりポジティブなレポートとして、性能表示や耐力などが記載されたまさにデューディリジェンスレポート的なものが、不動産取引に用いられるような時代になる予感がある。
特に新築の建築が省エネルギー性を社会的にワンランク上げようとしている中、中古建築が取り残されて格差が広がることは社会全体としても望ましい事態ではない。長寿命化改修などの手段によって、中古であっても新築の性能へキャッチアップしていく動きを支持するならば、その性能向上がきちんと記録され、また取引の中でも評価されることが大事だ。このシリーズで何度か紹介したBELSなどのラベリングシステムが重要なカギとなる。
建てた後でも手をかけていくことが、さまざまな形で評価されるというこの流れは、建てたらおしまいというこれまでの日本の建築事情はそろそろ終わりを告げているということではないだろうか。

執筆:
(しんぼり まなぶ)