今年も猛暑とともにゲリラ豪雨、河川氾濫などに見舞われた地域が多く報道された。台風シーズンに突入したが、今のところ直撃を受けた地域はないが予断は許さない。昨年は台風14号や15号などによる自然災害が発生した。
これらを受けて火災保険は毎年のように値上がりする。損害保険料率算出機構は、今年も住宅総合保険の参考純率を全国平均で13.0%引き上げている。地域性や建物の構造にもよるが、群馬県や宮崎県は20%以上も値上がりする。保険各社は同機構の改正を基に値上げする。
巨大地震などへの備えだけでなく、台風や線状降水帯に伴う河川氾濫での水災が身近なリスクになっている。戸建て住宅では床下浸水、床上浸水が発生し、マンションでも機械設備がやられてエレベーターが止まってしまい往生したタワマン住民がニュースに取り上げられた記憶は語り継がれている。
しかし、住まいへの耐震補強や台風・浸水対策を実施している人は1割程度と過ぎないのが実態だ。YKK APが9月1日の防災の日に合わせて「住まいの防災・減災についての意識調査」では、そんな危機意識の薄さが浮き彫りとなっている。同調査では、「自然災害への不安を感じている」は64%と半数を超えており、地震、台風・竜巻、豪雨、猛暑などを不安材料に挙げている。

約1割にとどまる台風、浸水への対応
自宅が「安全・安心だと思う」が44.9%、「安全・安心だと思わない」が20.3%にとどまった。安全・安心だと思う人は、ハザードマップで危険度が低い土地であることを確認したり、過去に災害実績が少ないなどの立地条件を裏付けにしている。一方、安全・安心だと思わない人は、建物の築年数が古く耐震性への不安を挙げる人が多いのが特徴だ。
食料・飲料水の備蓄、生活用品の備蓄、非常持ち出し品や防災グッズの用意など、なんらかの防災対策をしている人は約70%に上るものの、住まいの耐震補強や住まいの台風・浸水対策を実施している人は10%程度にすぎない。
そうした中でYKK APでは、地震に強い家づくりのポイントとして、耐震補強のほかに外壁材は軽いモノを選ぶことで建物の総重量を抑えて住まいの減震化が図れるとしている。
割れても飛散しにくい窓ガラスを選ぶことや、古いブロック塀を軽量なアルミを材料とするフェンスに改修することで歩行者の避難経路を妨害する危険を防ぐことにもつながるという。台風に強い家づくりのポイントでは、強風で飛ばされた飛来物がぶつかる衝撃を緩和するために、窓にシャッターや面格子を取り付けることで窓ガラスを割れにくく、割れても飛散しにくくするとアドバイスしている。

平時に使える有事可能なユニットハウス
こうした対応策のほかに災害時のためだけに備えるのではなく、その備えを平時にも使えるような対策も広がりを見せている。ミサワホームは居住環境を備えるトレーラーハウスを9月1日から売り出した。
同社は南極の昭和基地での建物建設技術を持つ。2019年に「南極移動基地ユニット」を設計し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などと共同実験を昭和基地で実施し、そこで培った持続可能な住宅システムを生かしている。平時では宿泊施設やカフェ、ワーケーション、リモートワークといった多様な目的に対応できる施設とし、有事の際には応急仮設施設などに転用できる。被災による停電や電気・水道・通信の不通などを想定し、薄型軽量の太陽光発電システムや蓄電池、電気自動車から電気の供給を受けられるシステムを用意し、使用した水のほとんどを再利用できる水循環利用システムや衛星通信の設置もできる。
復旧対応を焦点に当てるシステムも
パナソニック ホームズでは、地震被災リスク推定システムの運用を今月から始めた。地震発生時にオーナー宅への支援・復旧の迅速化を目的にしたもので、国立研究開発法人防災科学技術研究所が地震発生後に公開する強震観測網の強震記録(加速度波形データ)を基に震災地域における建物被害レベルを判定する。同社の顧客データベースと連携して画面上に表示する。オーナー宅の建物被害の重度に応じた復旧対応が可能になるとしている。
住宅・不動産業界では、さまざまな自然災害に対応する商品やシステムの開発を進めている。今年は関東大震災100年という節目の年であっただけに防災への意識は高まっている。個人の不動産投資家にとっては、入居者に安全・安心を感じてもらえる取り組みを進めることで、安定したキャッシュフローで資産を守ることにつながる。自然災害に備えるコストは、必要なコストとして考えて対応する時代になった。
ちなみに冒頭の火災保険料については、来年以降も値上げが続く見通しだが、保険各社の値上げを注意深く見る必要はある。カテゴリーは違うが中古車買い取り大手のビッグモーターの保険金の水増し請求では、損保ジャパンにも疑惑の目が注がれている。
これが保険業界の本質的な体質ならば、火災保険でも、例えば自然災害を理由に便乗値上げ的な要素はないのかなど毎年上がる保険料を仕方ないと片付けずに、保険業界に詳しい専門家に相談しながら保険商品を選択する必要性が高まるかもしれない。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))