日経平均株価が29年半ぶりの高値圏となっている。新型コロナウイルス感染拡大で給与カットや解雇・雇止めなど企業のリストラが進む中で実感が沸かないのが国民の実感だ。
日経平均2万6000円台を新型コロナ当初に予想しえた専門家はいないであろう。むしろ、景気の落ち込みを心配して株価の下落予想が大勢を占めていたはずだ。しかし、世界的に財政ファイナンスが始まったことで株価は大きく反転上昇を始めた。
金融緩和により市中に溢れたマネーが株価を押し上げている。コロナ不況でリモートワークや電子商取引が活発化したことに伴いハイテク株中心に活況だ。いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)やEコマースを連想させる企業に資金が流入して実体経済と大きく乖離した歪な株式相場を生み出している。

経済の底割れを防ぐために市中に大量にお金を供給し、世界中の投資家がそれを株に注ぎ込んでいる。コロナ対策で各国は財政出動し、それに伴って増税をするわけにもいかないので国債発行を連発して対応する。日本では、その国債のほとんどを実質的に日銀が引き受けている。
お金を刷りすぎてハイパーインフレになってしまった過去の歴史から、世界中の中央銀行は政府から独立し、財政ファイナンスを禁止している。中央銀行が政府の一機関となれば、政府の都合でお金を刷ってしまって、今回のような危機時にお金が必要となったときにすぐに刷るようなことを避けるためだ。
すでに政府の2020年度予算は、第2次補正予算後で過去最大の160.3兆円の歳出となっており、新型コロナ3波に見舞われる中で第3次補正予算の編成も現在進めている。その財源も今年度の予備費の残金と国債の追加発行で賄う。
◎ハイパーインフレの警鐘も鳴る
このまま財政再建の緩みが続くことに警戒感を示す専門家は少なくない。自民党財政再建推進本部(本部長・下村博文政調会長)では、財政危機により外国為替市場で円の急落を招く懸念があると指摘し、中央銀行による国債の買い支えが円の信認に影響が及ぶと警戒感を示している。
内閣府の経済財政試算によれば、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が黒字化するのは3%以上の高い経済成長でも2029年度としており、政府が目標とする2025年度の達成は難しい。
新型コロナ以前に、すでに相当量の財政ファイナンスを日本はしてきただけに、諸外国でインフレに済むところをハイパーインフレになる可能性が高くなっていると指摘する声も聞かれる。
仮にハイパーインフレに見舞われたとするとどうなるのか。現在発行されている紙幣が紙切れになり、世の中は混乱し、昭和21年のような預金封鎖であったり、かつてドイツが実施したように中央銀行を潰して新しい中央銀行を作る、といったドラスティックなことをすることになるかもしれない。
つまり、今の日銀と今の円を一度放棄するという大混乱に見舞われて日本がクラッシュするシナリオ。株も、円も、国債も、不動産も、あらゆる市場が崩壊へと向かう。
ハイパーインフレという現象の特徴は、それがいつ訪れるのかが読めないのが特徴。デフレからインフレ、ハイパーインフレという順を追っての現象ではなく赤字の大きさによって突然訪れるサドンデス。需給バランスでは読めない現象である。
◎日銀の債務超過はカウントダウン?
一方で日銀が潰れることがあるのかという疑問もある。その点について、ある元外資系証券のトレーダーは、「米国の銀行は中央銀行といえども、国といえども倒産する確率をはじいて取引額を決めている。日本の銀行は(主要先進国の)中央銀行が潰れることはないと青天井で取引枠を定めることがないが、米国の銀行は国ごとに中央銀行ごとに取引枠を設定している」と説明するとともに、時価評価で日銀を評価したときに長期金利が上昇すると債務超過に陥ってしまうと警鐘を鳴らす。
仮にそうなった場合、米国の銀行はどうするか。日銀の取引枠を削るか、もしくは最悪ゼロにする。取引枠ゼロを意味するところは、日銀口座のクローズで為替取引ができなくなることだ。
銀行間の為替売買は、中央銀行の当座資金を通じて実施するが、例えば、三菱UFJ銀行とJPモルガン・チェースが取引するときに、三菱UFJがドルを買って円を売る。このときにJPモルガンはドルを三菱UFJに売って円をもらうことになるが、ドルを売る側は米国の中央銀行(PRB)を通じて銀行間取引をする。
JPモルガンと三菱UFJはFRBに口座を持っているが、そのドル口座を三菱UFJはFRBに返さなければならない。円という通貨がドルとのリンクを失うことになり、円の価値が暴落するシナリオ。日銀が債務超過に向かっているとの判断で将来FRBが為替スワップ協定の見直しを持ち出したり、協定継続の前提として増税など内政干渉で財政再建を要求してくる可能性もある。
新型コロナ禍での異様な株高。国の財政出動規律の緩みと、それを支えている日銀の脆弱性から判断すると、砂上の楼閣に過ぎないように見える。
(鹿嶋淳一)