新型コロナウイルス、ロシア・ウクライナ戦争、アメリカやヨーロッパではインフレ経済が止まらずに各国が利上げに踏み切った。2022年は波乱で始まり混沌とした1年だったが、2023年も明るい社会経済が待ち構えているとは言い難そうだ。
目下のところ日本で一番注目を集めているのが金利情勢だ。昨年は、アメリカがインフレ抑制のために利上げを実施したことで、低金利政策をキープする日銀との金融政策の違いにより、ドル=円相場は昨年10月に150円台まで急落した。
この円売りにより、海外の不動産投資家の資金がさらに流れやすくなった。シンガポール、香港、台湾といった東アジア圏からの個人投資家は、コロナの入国制限が緩和されて来日しやすくもなったことで実物不動産を見にやって来るインバウンド需要を引き付けた。
ちなみに華僑系の個人投資家によると、中国本土の人は、外国に資金を持ち出せるのが5万米ドルと制限があるため、日本の不動産を購入したくても買えない。
そこで暗号資産(仮想通貨)を日本に移して現金に換金して物件を購入する人がいたが、そうした人は限られているし、そうした動きを中国当局も監視していると指摘する。中国本土の人が香港に銀行に口座を開くことも難しくなっているという。
話を戻す。現在のドル=円相場は130円台まで上がっている。これは、昨年末に日銀の黒田東彦総裁が長期金利の変動許容幅を0.5%に引き上げたことが影響している。
ただ、アメリカはドル安を望んでいるわけではない。ドル安になれば、海外からの輸入品が高くなることで輸入インフレにつながり、インフレ退治が長期間におよぶことになりかねないからだ。輸入によるインフレは、海外要因であるので、はるかに対応しづらいことからも嫌われる。
もっとも、外資系の不動産会社は、「長期的に円は安くなっていく」と述べる。円安の背景にあるのが日米金利差だけでなく、貿易赤字が続くなど日本の経済力の弱さを反映しているからだ。稼げる体質に生まれ変わらないと日本売りは断続的に行われることになる。
金利上昇は限定的、短期金利は据え置き続く
今回の突然の利上げ修正については、日本銀行の黒田総裁の動きを想定できた専門家はいないだろう。プロの金融マンたちは口々に「想定外」と発する。
それに加えて、マーケットと対話をせずに、従来の黒田発言を翻意するような政策変更にオオカミ少年≠ニ揶揄する声も聞かれ、日銀が大規模金融緩和の縮小に踏み出したと受け止めている。今年4月に黒田総裁退任後に金融緩和の出口戦略を本格化するのではないかとの見方が出始めている。
利上げ局面ともなれば不動産市場にはネガティブに働く。不動産開発にはお金がかかる。つまり借入金の多い業界であることと、住宅ローンの金利が上がると住宅が売れなくなるからだ。
個人投資家が投資用物件を購入する際に組むアパートローンについても、実需の住宅ローン以上に跳ね上がる可能性が高い。不動産マーケットに警戒感が漂うが、「このまま一気に金利が上昇する状況にはならない」との見方が実は多い。長期金利は既に上がっているが、政策金利をマイナスに据え置いたままで短期金利は落ち着いている。
住宅・不動産業界をウオッチする金融マンは、「2023年は上限0.5%いっぱいの水準で10年国債を買い続けて、買える分はすべて買い上げる。景気の悪化につながらないように配慮するのではないか」との見方をしている。
東アジアからのインバウンド客を得意とする不動産仲介会社からは、「変動金利はこのまま低い水準でいくのではないか。変動金利を動かせば不動産市場は大きく落ち込むことになるため政府・日銀は上げづらいのではないか」との見方である。
また、「そもそも変動金利を上げるためには、働き手、サラリーマンの賃金が上がらないと無理ではないか」との声も上がる。
国内外リスクとコロナ支援は大半終了
利上げのみならず、引き続きインフレ経済の動向が注目を浴びる1年となりそうだ。ロシア・ウクライナ戦争が終結する雰囲気はまったくない。石油、天然ガス、穀物などあらゆるものが上昇している。足元の緩慢な経済成長の中で賃金上昇を上回るインフレが続けば家計を圧迫するだけだ。
雇用調整助成金の特例措置や実質無利子・無担保のゼロゼロ融資など新型コロナに関連する支援策も終了しており、返済に窮するところの破綻が増える可能性もある。政府支援策の大半は2023年初めまでに終わる。
コロナ太りの企業は急速に耐力を奪われる場面を迎える。倒産が増えそうだ。日本のGDP成長については見方が分かれる。緩やかな成長が続くとの見方と、今後2年間低下が続くとの見方が併存する。
不動産投資家たちにとっては、国内や海外の経済状況と地政学リスクなどを総合的に俯瞰すると、今年は少なくともウサギのようなスピード感をもって疾走するよりも、石橋をたたきながらカメのように慎重な推進力で大きなケガをしない慎重な姿勢が問われそうだ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))