2023年度の不動産市場を知るうえで興味深いイベントが1月25日、個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションを行う「さくら事務所」と同社のグループ企業である「らくだ不動産」によって開催された。
「プロが解説!2023年、不動産市場の行方」と題されたメディア関係者限定のオンラインセミナーで、登壇者は、不動産コンサルタントであり、健美家コラムニストとしてもおなじみの長嶋修氏、らくだ不動産の副社長で不動産エージェントの山本直彌氏、司会を両社の代表取締役社長である大西 倫加氏が務めた。
健美家読者に関係が深そうなトピックスを中心に、今年度の制度改正が与える、不動産市場へ影響を紹介する。

日銀総裁が変わり、多少の政策変更があっても
日経平均株価が大きく変わらなければ不動産への影響は軽微
今年に入り、長期金利の上昇などで、一部報道などでは、今後、ローン金利も上がり、活況だった不動産市場が冷え込むのではないかと危惧するムードも漂った。しかし長嶋氏は一気に不動産市況が冷え込むような状況ではないと語る。
「住宅ローンを利用している人の7割以上が変動金利を選択しているため、長期金利の上昇による直接的な影響はありません。また、コロナ以降、ここ数年は都心離れが顕著だと言われていましたが、実は都心部のニーズは顕著で、物件価格の高騰が続いています。
一方で、郊外や駅から遠い物件は敬遠され、この傾向は今後もつづき、2極化がより進むのではないでしょうか」(長嶋氏)
データを見ると、23区のなかでも、千代田区、港区、渋谷区といった都心エリアは、冒頭のグラフの通り、成約価格が直近1〜2年で急上昇しており、たしかに都心を敬遠しているとは考えにくい。
長嶋氏は興味深いデータとして、「日経平均株価と都3月には日銀総裁の退任が予定されている。総裁が変わり、多少の政策変更があっても、株価に大きな変動が見られなければ、住宅市場には大きく影響しないと考察する。
こうした大きな流れを踏まえたうえで、今後の税制改正や新制度がどのような影響を与えるのか、以下、ピックアップしてみていきたい。
区分マンション投資に影響するか?
中古マンションの減税やタワマン節税の見直し
今年度の税制改正で注目の1つは、「大規模修繕工事を実施した中古マンションの建物部分の固定資産税を3分の1減税」することである。詳しくは、先日の健美家ニュースで解説しているが、対象期間は2年で、大規模修繕工事を行っていることなどが条件となる。
マンション事情に詳しい山本氏は、次のように考えている。
「大規模修繕のタイミングは竣工年によって決まり、優遇期間の2年間で対象になるマンションは限定的。税の優遇があるから、大規模修繕工事をやろうという流れにはならないのでは。
税を軽減するより、修繕費を抑えたほうが、インパクトが大きく、業界的には、大規模修繕のコストを抑えようといった流れがあります。
たとえ今までのマンションのガイドランでは、12年に1回、大規模修繕が必要でした。しかし15年に1度のサイクルに変更した場合、築60年であれば、12年周期の場合、大規模修繕は5回。15年周期なら4回ですみ、大幅に修繕費を抑えられます。
そのため、よりいい部材を使って、大規模改修工事の回数を減らしていく流れが予測されます」(山本氏)
昨年4月からマンションの管理に関する新制度が相次いで始まっている。国の新制度となる「マンション管理計画認定制度」と、一般社団法人マンション管理業協会による「マンション管理適正評価制度」である。制度については、過去記事を参照。これらによって、どのような影響があるのだろうか?
山本氏はまず「『マンション管理計画認定制度』は各自治体によって、進み具合に違いがあり、立地によって差がある」と問題点を指摘したうえで、次のような変化を感じている。
「中古マンションの取引の中で、大きな変化は、各管理会社が発行している、重要事項調査報告書に『マンション管理適正評価制度』の認定の有無が記載されるようになったことです。
この評価が、今後売買価格に影響を及ぼすことが考えられます。ただし意識の高いマンションは、よい評価をえようと意欲的ですが、そうでないマンションもあり、制度がどこまで浸透していくかにも注目です」(山本氏)
これまでマンション管理の世界では、自分達が住むマンションが住みやすいように管理していこうという考えが主流だった。それが相次ぐ新制度によって対外的な評価が高くなるようであれば、資産価値の上昇につながるため、管理を見直そうといった動きも顕著になるかもしれない。
山本氏は、認定制度に合わせて、管理規約の見直しなど行う場合、理事会や総会に上げ、結果がまとまるまでに1年ぐらいかかることもあるため、制度が広がるまでもう少し時間がかかると考えている。
もう1点、マンション業界で注目すべきは、相続税評価額が市場価格よりも低いことをついた「タワマン節税」の見直しである。

2023年度の税制大綱に検討課題として盛り込まれた。今後、税評価の見直しが行われるようになれば、高層階を節税目的で購入する動きは、減るだろうか?
「現時点では、タワマン節税にどうメスが入るのか詳細は決まっていませんが、仮にタワマンの固定資産税が倍になったとしても、それを大きく上回る、キャピタルゲインやインカムゲインがえられるようであれば、あまり影響はないのではないでしょうか。
たとえ税制改正があっても、その影響は限定的で、売買価格にまで影響を及ぼすものではないでしょう」(山本氏)
4月開始の「相続土地国庫帰属制度」、
東京都で新築戸建てに太陽光パネルの設置義務化の影響は?
今年4月から「相続土地国庫帰属制度」が始まる。相続した不要な土地を、一定の要件を満たし、負担金を納付することにより国に帰属できる制度である。
たとえば活用に困るような、駅から遠くて、古びた空き家などは、この制度を利用しようと考える人が増えるだろうか? 長嶋氏は、次のように語る。
「一般的な住宅地であれば、取引がすでに終わっているはずで、本当に活用のアテがなく、どうしようもない土地なら一部、適用されるぐらいの影響に留まるのではないか」(長嶋氏)
東京では2025年から新築戸建てに太陽光パネルの設置をメーカー側に義務化する計画である。京都や川崎でも同様に太陽光パネルの設置義務化を推進する動きがみられる。
「東京では、大手メーカーに限定され、京都では300u以上の建物だけなど限定的です。とはいえ昨今、多くの人が感じている光熱費の値上がりが続くようであれば、なるべくエネルギーコストがかからない家がいいと、省エネ性の高い住まいを選ぶ流れが加速するかもしれません」(長嶋氏)
中古戸建で今後、注目すべきは
住宅省エネ基準のレベルアップ
昨今では、住宅の省エネ性能が重視され、住宅省エネ基準の等級が新設されるなどの動きが続いている。2022年4月には「耐熱等性能等級5」が、10月には「耐熱等性能等級6,7」が新設されている。今後2025年、2023年のタイミングで、断熱性能等級4や5が義務化されるのではないかと山本氏は考察する。

「断熱等性能等級の義務化により、条件を満たした住宅は金利優遇等が実施されることが考えられます。今後、中古戸建を選ぶ場合は、断熱等性能等級の基準を満たしているかどうかが行く末の資産価値につながります」(山本氏)
中古戸建を投資目的で買う場合、今後は、「省エネ性」も視野に入れるべきかもしれない。
こうしてみると、不動産業界では今後、様々な制度変更があり、多くの変化の兆しが感じられる。
今のところ、制度変更による影響はどれも「限定的」だと考えられるが、不動産投資を行ううえで、これらの変化についても覚えておきたいところである。