米国でシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー・バンクが破綻して1カ月余りが過ぎた。この間に突如として、欧州でもスイスの大手金融機関UBSがクレディ・スイス・グループを救済することで買収に動いた。アメリカとヨーロッパで金融不安が高まっている。
ウクライナ・ロシア戦争に伴う資源高を受けて、世界的なインフレが問題となり、特に米国では利上げペースを加速させてきた。その結果、保有する債券価格が下落し、銀行が経営難に陥って取り付け騒ぎが起きた。低金利下で債券運用に偏りすぎたための事象で、この米銀1行特有の問題だとする見方が少なくい。リーマン・ショックのような米国発の世界金融危機は避けたいと米国は火消しに躍起だ。
資本市場に変調あれば暗雲へ
だが、本当に2行の特有の問題なのか、果たして本当にそうなのかかが今注目されている。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)を発端にリーマン・ショックにまで発展した経験が頭をよぎる。
当初、日本では対岸の火事としてしか見ていなかった。不動産業界でも危機感は薄かったが、実態は違い2008年から2009年かけて上場不動産会社が相次ぎ破綻するという惨事に見舞われた。業績不振だけではなく資金ショートにより黒字の不動産会社まで倒産に追い込まれた。
不動産市場は、金融資本市場とリンクしている。国内の不動産マーケットというよりも資本市場の側面からの懸念に注目が集まっている。つまり、資金フローが変調をきたして融資の厳格化などで資金調達環境が絞られはしないかというものだ。
実際、「米国において金融機関の融資姿勢が慎重になれば、日本の資金調達環境においても影響する可能性がある」とする専門家は少なくない。インフレ退治を優先して米国が利上げをし続ければSVBのような銀行破綻が今後も出てくるかもしれない。
日本としては、米国の急ピッチな利上げが債券価格の下落をもたらし、それによる銀行破綻は他人事ではない。日本の公的債務を膨らみ続けており、金利を上げてその利払いに日本はどこまで耐えられるのか、を突き付けられたからだ。日銀が新総裁の今後のかじ取りに注目が集まっているが、海外の景気減速により金融緩和は、しばらく続くとの見方も広がりを見せている。
懸念を払拭する材料見当たらず
そうした中で、不動産サービス会社のJLLによると、「世界の不動産市場は、利上げが続いたことで借り入れによるレバレッジ効果が得にくくなっている。借り入れコストの増加に伴う利回りの低下で2022年の不動産投資額はおよそ137兆4000億円余と前年比で約19%の低下を招いた」としている。
ただ、日本の不動産市場については、「長期金利が市場の期待値である1%まで緩やかに上昇したとしても、不動産のリスクプレミアム、利回り格差は十分に担保される。現時点では、不動産市場に大きな影響を与えるとは考えにくい」(JLL)とも指摘している。
リーマン・ショック級ではないにしろ、何らかの影響が波及する可能性を払拭できる材料はない。むしろ懸念材料が出ている。UBSによる欧州クレディ・スイスの救済では、「AT1債」と呼ばれる債券が無価値になったことが衝撃的に報じられたが、そのAT1債を日本の銀行も富裕層や法人に販売していたことが明らかとなっている。
リーマン・ショックでは、住宅ローン債権を束ねた証券化商品に10%のデフォルトが発生したとしても商品として成り立つ設計だとされ、その証券化の構造が試された出来事となったが、今回の米銀破綻と欧州金融不安を受けて日本の金融機関には何が試されているのかを探る局面が続きそうだ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))