住宅・不動産業界はインターネットの発達により、不動産事業者と顧客の情報格差が徐々に縮まりつつある。不動産業者としては、この情報格差を一定程度キープしておきたいのが本音だ。
国土交通省は2022年の春に「不動産ID」を本格的に導入した。不動産IDとは、国内の不動産に識別番号を割り振るもので、分譲マンションや戸建て住宅、商業などのあらゆる不動産を17桁の番号で識別する。例えば、分譲マンションの場合、13桁の「不動産番号」と、各住戸の部屋番号など 4ケタの「特定コード」で識別する。
不動産テック業界との温度差
各社の不動産ポータルサイトには同じ物件が掲載されることが多いが、不動産IDで物件情報を整理しやすくなる。国が「不動産ID」の普及を目指す背景としては、中古住宅市場の拡大傾向が挙げられる。スムーズな情報のやりとりが欠かせない。
住宅の間取り図や広さ、リフォーム・リノベーションの修繕履歴などの情報をIDにひも付けることで精度の高い情報の検索・閲覧がスムーズにでき、名寄せによる物件情報の集約がしやすいことで「おとり物件」も排除しやすいことなどに期待している。
しかし、不動産事業者側のノリは今ひとつである。昨春の本格導入から1年近くが経過するが、普及に弾みがつかない。あらゆる情報が不動産IDにひも付けられ、独自情報を含めてオープンになりすぎると競合他社との差別化が図りづらくなるのではとの懸念が少なくない。
不動産IDで不動産事業者も情報収集のスピードが格段に改善されるという利便性よりも情報のオープン化に対する危機感が強いのが現状である。
こうした不動産業界の体質に阻まれ、遅々として進まない改革を受けて、一般社団法人不動産テック協会では、独自に「不動産共通ID」を運用している。住所や物件名など、各社で管理方法や管理表記が異なる不動産情報に同一の物件を示す共通のIDを付与し、不動産会社に限らず、不動産にかかわる全ての業界との情報連携を目指している。不動産業界と不動産テック業界での情報の取り扱いに対する温度差は明らかである。
そもそも情報開示に閉鎖的な姿勢が強い
不動産情報の透明性の向上は消費者にとって最重要事項だが、その透明性の評価は世界的に低いのも現状である。J−REITでは売買取引価格や賃料水準の推移など高い透明性を世界から評価を受けているが、そこの評価とは対照的な立ち位置に置かれている。
情報の閉鎖性はレインズでも同じだ。レインズの中古住宅の取引データにアクセスできるのは不動産事業者(加盟会社)のみで、一般消費者はアクセスできない。
既得権益を守る姿勢が指摘されているが、その既得権益とされる情報内容を見ると、物件の売り出し価格や専有面積といった基本情報は載っているが、米国のような売買価格の推移や修繕履歴、税金関連、学区、防災・治安などの内容と比べると大きく見劣りする。言ってみればレインズ情報は隠すほどのものではないのに業者間データベースとして運用されている。
ただ、不動産業界を取り巻く環境はDX化の進展により、大きく変わりつつある。国土交通省では2023年度に「不動産ID」の活用に関する検証に着手すると報じられており、幅広い活用に向けての議論が進むことに期待したい。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))