アートが街の価値を高めた事例は多い。
有名なところではニューヨークのSOHOだ。1950年代までは空き家や零細工場などが目立つ荒廃した地域であったのが、賃料の安さに注目した芸術家たちが住まいやアトリエを構えだし、街は徐々に変化。
かつてはあまり人が訪れる場所ではなかった街が今では高級ブティックやレストランが並び多くの観光客が訪れる街へと変貌を遂げた。
そんなエピソードを思い出したのは京都駅南東エリアに劇場建設のニュースを聞いたからである。
京都の演劇関係者らが設立した一般社団法人「アーツシード京都」は京都市南区東九条に新たな小劇場「Theatre(シアター)E9 Kyoto」を開設すると発表した。
場所は、地元不動産会社株式会社八清が作業場兼倉庫として現在使用する建物で、リノベーション実施後、来年秋のオープンを目指している。
約100席の劇場空間に加え、アーティストの滞在スペースやギャラリーを併設した複合的施設となる予定だ。

観光客で賑わう京都、とりわけ、その玄関口であるJR京都駅は、連日人で溢れ、周辺のゲストハウスや飲食店も活況を呈している。
しかし駅徒歩圏内であるにもかかわらず南東エリアは人の気配も少ない。今回劇場建設が予定されている東九条と呼ばれるエリアだ。
中高層の住宅が周辺エリアと比べて極端に少なく、その多くは市営住宅。分譲マンションはほとんどない。
駅から10〜15分程度の距離だが商業施設は極端に少なく、地元の人が家庭的に営む韓国料理店が5〜6軒ある程度。
古くから京都を知る人にとっては「住宅地としては不適」という考える人がほとんどで、今も空家や空地が多い。今回、活用される建物もそうだ。
だが、このエリアは平成29年3月に京都市が「京都駅東南部エリア活性化方針」を策定したことからも分かるように、今後、市が力を入れて開発しようとしている地域である。

2023年度に京都市立芸術大学の移転が予定されており、京都市はこれを核に世界を視野に入れた新たな文化行政、文化交流を推進していくうえでの拠点エリアと捉えているのだ。
「Theatre E9 Kyoto」が立地するのは、まさにその拠点エリア。文化芸術という視点を取り入れることで、若者を中心とした新しい人の流れが生み出そうとしている地域なのである。
実際、駅から近いという理由もあり、このところ、ゲストハウスが進出し始め、地元を中心に注目を集め始めている。
現在の状況をSOHOになぞらえるなら、東九条は今、
「1 荒廃している →2 家賃が安いため芸術家が注目 →3 芸術家たちが拠点を移す →4 感度の高い人が集う →5 街が活気づく」
の流れのうち、2から3へと移行する段階だろう。
市の活性化方針は平成29年度から平成36年度のおおよそ、今後8年間を想定しており、10年弱で街を変えようとしている。
すでに九条駅近くではここ数年で商業施設、宿泊施設が相次ぎ誕生しており、変化が始まり出せば、一気に街が変わる可能性もある。
賃料、住宅・土地価格が上がってしまった京都では穴場とも言える場所である。注目したい。
健美家編集部(協力:田中和彦)