かつての公害を乗り越え、
低炭素社会に向けた取り組みがスタート
「あの頃はろくに外に出られなかった」
人々の生活が豊かになり始めた戦後の高度成長期を尼崎市で暮らした人は口々にこう話す。
工場からは有害物質を含むスモッグが排出され、廃水が河川に垂れ流し状態だったため、尼崎市は大気汚染や水質汚濁をはじめとする深刻な公害に見舞われていた。
当時を知る人の中には「尼崎=公害の街」というイメージを持つ人もいるだろう。
そんな尼崎市が一転、今では国から「環境モデル都市」に選定され、低炭素社会の実現に向けて動き始めている。
消費電力を見える化し、EMSを導入した
「ZUTTOCITY(ズットシティ)」
その取り組みの一つが、JR塚口駅前に2017年に誕生した複合開発都市「ZUTTOCITY」だ。
ZUTTOCITYとは、「快適で暮らしやすい低炭素まちづくり」を掲げ、市と民間事業者が構築したスマートコミュニティのこと。

注目すべきは、「ZUTTOCITY」のエリア内に導入したエネルギーマネジメントシステム(EMS)。
共用部に設置されたデジタルサイネージにエリア全体の電力消費量がリアルタイムに表示され、ひっ迫時には共用スペースの電気使用を制御したりすることで、省エネにつなげる。
このムーブメントは、阪急電鉄塚口駅前にも広がっている。「塚口さんさんタウン」の商業ビル前に、エネルギーの見える化システムを全戸に導入した商業施設一体型のマンションが2022年に完成予定だ。

市はこのマンションを「尼崎版SDGsスマートマンション」の第1号と認定した。
これら特定のエリアだけでなく、市全域でも節電に取り組むため、地域通貨「ZUTTO・ECOまいポ」の活用も2016年にはスタートしている。
夏と冬で電力需要がピークに達する時間帯に、市内の商店や駅ビルでショッピングするとポイントが2倍付与される。
出掛けるだけで省エネに貢献することができ、地域経済の活性化にもつながる画期的なシステムだ。
加盟店舗数の伸び悩みが課題のようだが、貯めたポイントは市内の飲食店などで利用することができるのもうれしい。
街の玄関口の印象が良くなり、
ファミリー層が拡充
こうした環境に配慮した取り組みが功を奏し、尼崎市はエコでクリーンな街に生まれ変わった。
梅田に10分ほどでアクセスできる立地も相まってか、2019年に関西のテレビ局が行った「関西の住みやすい街ランキング」では芦屋に次いで5位となった。
かつては治安においても悪名が高かった尼崎市だが、近寄りがたいオーラを放っていた阪神電鉄尼崎駅周辺も再開発によって整備され、「尼崎城」というお城まで築かれている。

街の玄関口である各鉄道の駅周辺をはじめ、市全域で「あま」のイメージアップに向けた動きが続々と進んでいる。
商業施設や新しい住戸が増えたことで、ファミリー層も拡充しているようだ。公害に苦しんだ街が今や「住みたい街」に変わっているのだ。
ますます魅力的になる「あま」から目が離せない。
健美家編集部