会場建設費は当初予定の1.5倍に
暑さ対策などで320億円、大屋根の設計変更で170億円
昨年12月に公表された2025年大阪・関西万博の基本計画では、「空飛ぶ車」「自動翻訳」「ロボット」など、夢のような未来技術が会場で展開されることが示された。
多くの客を国内外から呼び込み、大阪の賑わいを実現できれば、不動産投資家の新たなビジネスチャンスが広がることになる。足元では新型コロナウイルスの影響で建設費が膨らむ問題も出ているが、関係者は困難を乗り越え、万全の態勢で25年の開幕を迎えたい考えだ。


昨年12月11日、井上信治万博担当相は、万博の建設費が当初予定されていた1250億円から1850億円へと600億円増額されると発表した。実に1.5倍に膨らむことになる。
内閣府のサイトにアップされている井上大臣の会見要旨によると、発言は次のようになっている。
「会場建設費は最大で1850億円ということです。可能な限りコスト縮減を行っておりますが、改めて精査をした結果、当初の想定より600億円の増額となります。この中で、大阪・関西万博の成功に向けて全力で取り組んでまいります。会場建設費は、国、大阪府・市、民間がそれぞれ3分の1ずつ負担をすることになっています。大阪府・市、経済界にも御理解をいただきたいと考えております」

そして、会場建設費が増える理由は、主に次の3つあると説明した。
1つ目は「来場者の快適性、安全性、利便性向上のための施設整備ということで、様々な施設整備の分」に320億円。
2つ目は「参加国、事業者の多様な参加を促進するための施設整備」に110億円。
3つ目「(大屋根の)設計変更」で170億円。
この3つを合計して600億円が新たにかかるとしている。
そして、施設整備の内容として以下を挙げた。
「コロナ対策もありますけれども、そのほかにも、例えば暑さ対策としてのドライミストとか、単独トイレ等の整備とか、あるいは雨よけ、日よけのための来場者の入場ゲートの屋根とか、いろんな観点から来場者の皆様のための施設整備ということになります」
国、大阪府・市、民間で3分の1ずつ負担
関経連会長は1970年万博の基金活用に言及
当然、費用の負担者は苦しくなる。
もともと万博会場の建設費は、井上大臣の言葉にあるように、国、大阪府・市、民間で3分の1ずつ負担することになっていた。総額1250億円のときは、それぞれが約417億円ずつの負担だ。
ちなみに民間417億円のうち、約100億円を経団連、約200億円を関西財界、約100億円を住友グループの主要な企業からなる「白水会」が負担する予定だった。
今回の建設費のかさ増しで、国、大阪府・市、民間の負担分もそれぞれ約617億円に拡大する。

民間は経済界が企業に寄付を呼び掛けるが、新型コロナで業績が悪化しており、どこまで寄付金集めがスムーズにいくかは不透明だ。
この点について、関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)が12月17日の会見で、1970年の大阪万博の収益を集めた基金も活用すれば達成できるとの考えを示した。何としても万博を実現させるという、強い意思のあらわれだ。
鉄道の延伸や都市再開発は投資家に恩恵
地元は「コロナで苦しい。早期収束して開発加速を」
前回も見たように、万博にあわせて都市の再開発や鉄道の延伸などが行われるので、人や企業が大阪近辺に流れ込み、大きな賑わいが生まれるのは間違いない。不動産投資家にも、新たなチャンスが増えるだろう。

問題は、新型コロナウイルスの感染拡大をいつ収束させられるかだ。
海を挟んで夢洲(ゆめしま)の万博会場予定地から直線距離でわずか約5.3キロの位置にある大阪メトロ中央線・朝潮橋駅。電車やバスの便が良い上、コンビニエンスストアやスーパーが揃い、すでに「住みやすい」と評判の街だ。万博をきっかけに、さらなる賑わいが予想される。
だが、朝潮橋駅近くの飲食店の関係者はこう話していた。
「まだ万博どころではない。それよりも新型コロナだ。コロナで客が減り、毎日の生活で精いっぱいだ(会場の周辺エリアでも)万博が盛り上がるようになるのは、(今夏の)東京五輪がうまくいってからではないか。いずれにしても、コロナが早く収まるのを期待している」
ワクチンや治療薬でいつコロナを抑え込めるか。それが万博工事が進むことへの期待感を高め、都市開発の加速と、不動産投資家への恩恵につながることになる。
取材・文 小田切隆
【プロフィール】 経済ジャーナリスト。長年、政府機関や中央省庁、民間企業など、幅広い分野で取材に携わる。ニュースサイト「マネー現代」(講談社)、経済誌「月刊経理ウーマン」(研修出版)「近代セールス」(近代セールス社)などで記事を執筆・連載。