少し前のことになりますが「空室を埋めるためには毎週、管理担当者を電話で詰めれば良い」というSNSの投稿が話題になりました。あえて“うるさい大家”になることが不動産管理会社のプレッシャーになり、空室を埋めることにつながるという趣旨でした。
この「毎週鬼電する」というやり方については、不動産管理会社のみならず、不動産投資家サイドからも思いとどまるよう促す声が寄せられていました。
空室が埋まらない理由には、オーナーの家賃設定が高すぎたり、物件の魅力が低かったりする可能性もあるのに、考え方が一方的過ぎるという理由でした。
空室の長期化で焦る気持ちはわかりますが、私も「毎週鬼電する」という方法はやめた方がいいと思います。長期的に見ると不動産会社との関係を悪化させてしまい、かえって空室を長期化させる可能性があると思うからです。
実は私も初心者時代に空室の長期化に苦しんだ時期があるます。ヤキモキしつつも、管理担当者に「今週は動きありましたか?」と電話をかける以外、何もうつ手を知らなかったので、不甲斐なく感じていました。
そして空室が長びくにつれ、私の中で不動産管理会社に責任を転嫁するような気持ちが強くなってきました。担当者さんに語気を荒げてしまったようなことも全くなかったとは言えません。
その後、縁あって準大手の不動産会社に転職した私は、リーシング(空室を埋める営業のこと)の責任者になり、空室を埋める仕組みを学ぶ中で、管理担当者を責めることにはほとんど意味がないことを知りました。
そこで今回のコラムでは、不動産管理会社のリーシングの仕組みに触れながら、空室が長引いた時に不動産投資家として取るべき行動について、言及したいと思います。
■ 管理担当者と賃貸営業は組織として分かれていることが多い
「空室を埋めてください」と管理会社の担当者に毎週電話をしてもあまり意味がないという理由ですが、その前に不動産管理会社の組織体系や仕組みという背景を知っておく必要があります。
私が勤めていた準大手の会社のように、ある一定の規模の管理会社になると、オーナーに相対する管理担当と、入居者を客付する店頭のスタッフやリーシング担当は別の組織に属することが多いです。
評価基準も異なります。管理担当は主に、「オーナー」からの管理委託料やリフォームの売上に責任をもち、店頭スタッフやリーシング担当は、賃貸仲介料など「入居者」から得られる売上にフォーカスがおかれています。
オーナーから客付強化の申し入れがあった場合、管理担当が客付側に入居者に提案を強化するように社内的な働きかけをすることになります。しかし、入居者の反応が悪い場合、客付側はしつこく入居者に迫るわけにもいきません。
客付側には当然、入居率を向上させたい気持ちがあります。しかし、そのために管理担当に家賃の減額や人気設備追加の提案をしても通ることばかりではありません。
ネットのなかった時代と違い、入居者は簡単にたくさんの部屋を比較できます。無理やり、狙った部屋に決めさせることなどできません。そうなると、ネットに物件情報を上げておくくらいしかできることはありません。
そんな時、その部屋のオーナーが「なぜ満室にならないのか?」と威圧的に頻繁に連絡をしてきていたらどうでしょうか?
居丈高な態度のオーナーに家賃の減額や設備追加費用の提案など耳障りが悪いことを言えるはずもありません。それで埋まらなければさらに詰められるからです。
そんな状態が続くと、オーナーや各担当者は相手への不信感を募らせます。その結果、空室はいつまでも埋まらず、最終的にオーナーが「管理解約」を申し出る、そんなことも珍しくはありませんでした。
中には、あちこちの管理会社に同じことをして、「気難しいオーナーだ」と評判が立ってしまい、物件周囲の全ての不動産会社から敬遠されるようになった大家さんもいました。そうなれば、ますます空室は長期化します。
■自分の物件を客付側の「決め物(キメブツ)」にしてもらう
それとは対照的に、空室が出ると瞬時に埋まる物件もありました。退去予告があった1ヶ月前から周囲の不動産会社にファックスで情報を流しておくだけで、退去日を迎えた直後には内見が入り、そのまま申し込みになるのです。
これらの物件には、「客付するのが毎回同じ担当者であることが多い」という特徴があります。その担当者は必ずしも自社の店舗スタッフばかりでなく、他社の店舗スタッフも物件のお得意さんになっているのです。
彼らは過去に客付した経験から、その物件をどのような客層に、どのような順番で案内すれば申し込みを得られるかを心得ています。つまり、毎回同じ流れで売上を稼げるので楽なのでしょう。
客付け営業のスタッフには、月ごとのノルマがあります。そして、こういった物件は彼らがノルマを達成するための「決め物」リストに入っており、退去が出るいなや「決めにかかりたい」営業マンによって案内が入るのです。
私は不動産会社に勤務している間、このような事象を多く見てきました。退職した後は、自分の物件をどのようにしたら「決め物」として扱ってもらえるだろうと考えながら、不動産会社さんと接してきました。
その結果、今では平均空室期間(退去日から次の入居者の契約開始日まで)は約2ヶ月、年間通じての入居率は98%を維持できています。自分の物件が店頭スタッフさんの「決め物」になれたら怖いものなしという実感があります。
■自分の物件を決め物にするには?
それでは、自分の物件を決め物にしてもらうためにはどうすれば良いでしょうか?
大前提となるのは、その店頭スタッフの人に一度、入居を決めてもらうことです。そうしないといくら菓子折りを持ってあいさつに行っても、決め物にはなり得ません。
では、どうしたら一度、自分の物件に入居付けしてもらうことができるのでしょう?
そのために、私は管理委託先ではない賃貸仲介店舗も含め、近隣の不動産会社全てを訪問し、スタッフの方に「どんな条件なら決めやすいか」を聞いて回りました。
そして、「初期費用を負担してもらえないか」、「設備を追加してもらえないか」などの要望があれば、素直に応じました。それが短期的な負担になったとしても、決め物になる可能性があると考えればお安い御用だと思っていました。「損して得取れ」の考え方です。
その中で出会ったTさんという女性の店頭スタッフさんは、私の保有しているアパートを大変気に入ってくださって、原状回復工事をしている段階で内見や申し込みを入れてくれるようになりました。
退去日前に、以前撮った写真を使って、申し込みを獲ってくださったこともあります。今では、年間で退去が10件ある内、実に7件がTさんからの申し込みです。おかげで、空室がほとんどない状態が続くようになりました。
直接ご本人に確認したことはないのですが、これはTさんの決め物にリストに私のアパートを入れてもらえているからこその結果だと思います(笑)。
ちなみにこのアパートは最初に一度決めてもらうため、初期費用も家賃も低めに設定したのですが、今では初期費用も相場並みに回復し、家賃も値上げしました。「損して得とれ」の結果、空室期間の短縮と同時に家賃の値上げまでできたことになります。
ところで私は、Tさんがどのようにして私のアパートにいつも入居者さんを付けてくれているのかを良く知りません。忙しいと思うので、私からあまり連絡を取らないようにしているのです。
そんなある日、Tさんから嬉しいメールが届きました。「店長に昇格した」という内容です。その店舗では女性初の店長、20代前半での昇格は最年少記録だそうです。
メールには、「モーガンさんの物件を自分が案内する機会は少なくなるけれど、部下に必ず決めさせるので安心していて欲しい」という言葉がありました。これからもお互い良い関係でいられそうです。
このように、オーナーは最初に申し込みの入りやすい動線を作ることに努め、その後は必要な時に各所と連絡をとりあうくらいの関係性が良いのではと思っています。
読者の皆様が、客付スタッフさんや賃貸仲介さんと素敵な関係が構築できることを祈っております。