■もしもウォーターフロントに地震が来たら
川村龍平さん
すみません、今回はちょっとやまっけが強い話から始まります。私は都心3区、5区で、ハザードマップを見ながらずっと地震情報を集めているんですよ。江東区、墨田区、江戸川区、荒川区近辺の要注意エリアをウォッチングしているんです。
中でもウォーターフロントが危ない。とくに晴海フラッグは危険だと思います。僕の周りで買っている人がたくさんいるんですが、地震が来たら被害は大きいですよ。
首都直下型地震と南海トラフ地震は、今後30年以内に70%くらいの確率で来ますからね。あと富士山。いつ噴火してもおかしくないんですよ。それらが来たら、結構荒れるんじゃないかなと思っています。
今、火災保険の値段がものすごく上がっているじゃないですか。保険が出なくなって、火災保険を使った自主管理の手法が、結構崩れてきているんですよね。
岡元公夫さん
「電気的機械的事故特約」が通らない事例もあって、昔に比べて厳しくなった感じがしています。
川村龍平さん
そうなんですよね。地震保険も火災保険も保険料が高くなっているし、都心3区とか5区でも、そういう「まさかの坂」が、口を開けて待ち構えていると思っています。
日本人って、みんなもやっているからいいじゃないか、なんて言って、赤信号みんなで渡れば怖くない方式で、危ない土地を買う傾向があるじゃないですか。そういう人がハマるんですよ。
私が銀行に入った頃はちょうどバブル期で、銀座とか日本橋のお金持ちを担当していたんですけど、その中でイケイケどんどん系のお金持ちは(典型的なキャピタル狙いの)みんな一斉に崩壊しましたからね(笑)。
岡元公夫さん
そうですね。私も平成10数年まで融資課で不良再建処理をやっていましたから、まさに最前線からそういう人たちをたくさん見てきました。
地震について投資家さんにいつもアドバイスしていたのは、都心でも武蔵野台地、山の手を買えと言っていました。元々日比谷あたりも江戸時代の前は海でしたから。
川村龍平さん
そうそう。日比谷って昔は海だったんですよね。霞ヶ関が海の境目みたいな感じで。太田道灌が江戸城を作った頃って、あそこは湿地帯だったから、地盤が弱いんです。
岡元公夫さん
ただ晴海フラッグにしても、私たちの知り合いは大体長期保有しませんから。短期転売向けと考えていて、当たったら宝くじっていう感覚みたいですよ。
川村龍平さん
でもたとえ短期だとしても、まさに今「来る」時じゃないですか。短期で持っていても来た時点でもうおじゃん。意外とそういうことってあるんですよ。
岡元公夫さん
でもそれを言ったら関東より東海、東南海の方がよっぽど確率と被害が大きいような気もしますけど(笑)。
川村龍平さん
確かに東南海もそうなんですけど、晴海フラッグは埋め立て地だから、同じ地震が来ても、内陸部と比べて建物に対する影響度が強いらしいんですね。
東南海でも海辺には津波の危険性はありますが、海から何キロか内陸に入れば、木造2階建てのしっかりした建物だったら助かるようなんです。
岡元公夫さん
私、そこについてはちょっと違う意見があるんですよ。ベイエリアのタワマンは、そこら辺を考えてしっかりした杭を入れているから、建物自体はしっかりしているんです。
東日本大震災の時も、昔の江東区、江戸川区の下町、つまりもともと軟弱地盤で江戸時代から適当に土増ししていたところが、ことごとく液状化したようなんです。
もちろんそういうベイエリアのタワマン本体は残ったとしても、下水やら上水やら周りのインフラが崩壊したらダメなんですが。東日本大震災でも崩壊していましたからね。
川村龍平さん
百歩譲って建物が何とか崩壊せずに残ったとしても、インフラが崩壊すると、タワマンは陸の孤島になって、そこに上水も下水も通じなくなり、トイレも使えなくなりますね。
それを直す費用を1人当たりいくら出せと言われても、そんなお金は出せないですよね。そういう恐ろしいことが起こるかもしれない。だから私、ベイエリアはなるべく買わないようにしているんですが、実は唯一江戸川区に1棟持っているんですよね(笑)。
■地球温暖化による洪水のリスクにも注意
岡元公夫さん
地震も怖いですけど、洪水も怖いですね。温暖化で水位が2~3m上がって、そこに集中豪雨が来たら危険です。
数年前にも実際に荒川が決壊して、江戸川区あたりが水没するギリギリのところまで行ったので、これは全く夢物語じゃない、もう今まさに迫っているリスクなんです。
川村龍平さん
10年くらい前に攻めぎ合いがあったんですよ。今は間氷期で、これから氷河期に向かうんじゃないかという氷河期派と、京都議定書に基づくCO2排出規制派が議論を戦わせていたんです。
でもここ3年くらいの全世界の異常な酷暑の影響で、完全に京都議定書派が強くなっているんです。そういう流れから、ここしばらくはさらに日本は暑くなると言われているんですよね。
岡元公夫さん
温暖な縄文時代には埼玉の大宮、浦和あたりも海でしたからね。
川村龍平さん
そう。だからあのあたりには貝塚がたくさんある。かつてはウォーターフロントだったんですよ。だからバブルの時にあのあたりにたくさん住宅地ができたんですが、東日本大震災の液状化現象で影響が出ちゃったんですよね。
千葉の浦安もしかりで、そういう昔の古地図で海になっていたところって、理屈としては家やアパートを持ってはいけないところなんだと思います。
でもそんなことを言っていたら、不動産なんてやっていられないし、経済活動がおかしくなっちゃいますよね。でもこれから結構いろんなリスクが出始めますよ。リスク元年といってもいいでしょう。
■銀行は60%強しか貸し出しに回していない
岡元公夫さん
さて、今後の植田日銀総裁について話を戻しましょうか。
川村龍平さん
やっぱり今まで本当の意味で日銀の金融政策はうまくいってなかったわけですよ。長期のイールドカーブコントロールと短期のマイナス金利政策、これを正常化に戻すということが今まさに求められていると思うんですよね。
それから金融機関もにも問題があって、この表を見ても分かるように、ほとんどの銀行の預証率が3割を超えているんです。
岡元公夫さん
預証率っていうのは、預金残高に対する有価証券残高の比率ですね。
川村龍平さん
はい。国債や地方債を買ったり、一部危ない仕組み債を買ったりするんですけど、私が都市銀行のディーリングルームにいたときは、そういうのを金融機関相手に10億円単位で売り付けていました(笑)。
でもそれはあくまでおまけの部分であって、銀行が本来やることは貸し出しなんですよ。貸し出しをしなくてはいけないのに、メガバンクでさえこの預証率です。60%強しか貸し出しに回っていないんですよ。
今は銀行も担保主義が徹底しているから、登記簿謄本を取ってそれを担保に融資をしたり、社長の保証を取ったりして融資をします。
そういう融資が基本で、そのビジネスモデルに溺れて、少ない担保で貸し出すというような、信用創造する役割をやっていないんです。悲しいことに、そこまで銀行員のレベルが高くないんです。
私も人のこと言えないんですけどね(笑)、でも銀行はもっと勉強して融資しなきゃいけないと思います。
岡元公夫さん
逆に長期金利が上がってくると、今の国債で運用しているから、含み損が発生してしまいますよね。
川村龍平さん
そう。そうすると、銀行の財務内容が悪くなるんですよ。
岡元公夫さん
1年前だと、金融機関も長期金利が低いから0.2%の国債を買っていました。金利が今0.8%とか0.9%になっていますよね。金利が上がるということは、マーケットでその国債を売買するときの価格が下がっているんですよ。
だから含み損が今どんどん発生しています。預証率が高い背景には、こういうこともあるんです。
川村龍平さん
そうです債券の利回りが上昇するということは、債券の価格が下落するということなんです。
私が作成したイールドカーブコントロールの表では1%のところにバーを引いているんですけど、それは現時点での日銀のYCCのコントロール上限が1%だからなんです。
ですから、イールドカーブコントロールで債券の価格が下落していくってことは、1.05とか1.1とか1.2とかどんどん利回りが上がる一方で、価格が下がっていくことなんです。
これは債券市場において、利回りと価格は反比例の関係にあるからなんですね。国債の利回りが上昇すると銀行の財務内容が一気にやられるわけです。
岡元公夫さん
含み損で、銀行の通信簿が悪くなってしまうということですね。
■銀行は新規ビジネスへの融資には消極的
川村龍平さん
今まさに、そういういろんな悪影響が起きる危ない感じになっています。日銀は市中の銀行にいろんなオペレーションで資金を提供していて、本来は銀行から会社とか個人、大家さんとかに、色々貸し出しをしなきゃいけないんです。
でも新規ビジネスなどそういうものにはあまり融資しないんですよ。
日本は、国自体が既得権益者を守っているような、そういう歪んだ体質になっているんです。新規ビジネスをつぶすような、いろいろな圧力があったりして、新規ビジネスの創出を阻んでいる。
だから銀行は本来なら新規ビジネスを育てなければならない立場なのに、金融庁の圧力に負けて、そういうリスクを取らないように見えます。
例えば、私は来期も営農ソーラーを作るんですよ。10年くらい前に比べFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の買取価格は四分の一に下がりましたが、パネルやパワコンの価格も大幅に下がったおかげで実質利回りはむしろ上昇した感じです。
今後も電気料金は上がるでしょうから、こういう設備を作って電気を売れば、儲かるわけです。インフレヘッジにもなりますね。
川村龍平さん
利回りも、税引き後経費控除後の手残りベースで11.8%もあるので良いビジネスなんですが、こういう新規ビジネスには都市銀行や地銀は融資しないんですよ。
一部、日本政策金融庫が融資に動いてくれていますが、どうなるでしょうね。結局現金とかでないと、なかなか買えないんですよ。これは一例ですが、こういうものに融資すれば、銀行もしっかり利回りも取れて儲かるわけです。
東京電力からの売電収入に質権を設定すれば、銀行もリスクの軽減に繋げることが出来ると思うのですが。
岡元公夫さん
とても良さそうなビジネスに見えますね。いろんな新規事業に比べれば、そんなにリスクもなさそうに思えます。
■法定耐用年数から経済耐用年数にそろそろ変えていく必要がある
川村龍平さん
銀行って新築には綺麗に融資を出すんですよ。利回り3%だろうが、全然儲からないのが分かっているのにね。それはそのビジネスがもし5年後ぐらいに行き詰まっても、抵当権を行使して全部もらってしまえば、リスクがないからです。
そんな融資をやっていたらおしまいですよ。相手もちゃんと儲けさせてあげて融資しないとダメじゃないですか。
だから昔から言っているのが、担保市場主義からの脱却。担保力がなくても、収益力がある良質な案件には、積極的に融資してほしいです。
それには法定耐用年数から経済耐用年数にそろそろ変えていく必要があるんですよ。今は技術が上がっていますから、普通のメーカーが建てているものは、法定耐用年数内で壊れるわけがないんです。
岡元公夫さん
私も本当にそう思います。ちゃんと建てていれば、築20年でも新築とあまり変わりがないですよね。ちょっと直せば新築同様になります。
川村龍平さん
重量鉄骨とかRCだって、中を直せばピカピカになるし、そういうものにちゃんと融資をしなきゃいけないと思うんです。
そういう物件は若干高めでもいいし、融資をすれば活性化する。だけど、そういうようなものにも銀行は融資しないんですよ。困ったものです。
これからは地球温暖化もからんでくるので、洪水や地震のリスクには注意が必要ですね。法定耐用年数から経済耐用年数に変えるべきというお話には、深く首肯しました。第3回は明日配信です。どうぞお楽しみに!(担当:T)