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徹底的したアーティストファーストのアトリエ賃貸が大人気。相場+2万円で満室に

賃貸経営/技あり・話題の賃貸物件 ニュース

2024/04/08 配信

外観はいたってシンプル。入口や階段幅など、すべて作品の搬出搬入を想定して作られている
外観はいたってシンプル。門扉は観音開きにし、廊下や階段幅を広くするなどすべて作品の搬出搬入を想定して作られている

武蔵野美術大学のお膝元、西武国分寺線鷹の台駅から歩いて12分。新築アトリエ賃貸「earthmore(アースモア)」(以下アースモア)が完成を待たずに満室になった。

徹底的なアーティストファーストの作りが高く評価されてのことだという。どこに一般的な賃貸と違いがあるのか。オーナーの株式会社アースモアの清水さんご夫妻に聞いた。

F200号の絵画が搬入搬出できることが基本

アースモアが建っている場所は元々古いアパートが建っていた場所。それを解体、新築するにあたり、近くに武蔵野美術大学があることから清水さんご夫妻が考えたのはアーティストを対象にしたアトリエ賃貸。以前のアパートにも同大学の学生などもいたそうで、同地ではアーティストは身近な存在なのである。

完成したのは2024年2月末。その時点で全6室は満室になっていたというから、企画がみごとに当たったといえる。

では、どこがポイントだったのか。清水さんにお伺いすると実にたくさんのこだわりポイントがあるのだが、もっとも大きな点はF200号サイズ(非常にざっくり言うと2.56m×1.94mほど)の絵画が入ることを想定、すべてをそれに合わせて設計していること。

全体の外観。周辺と比べて何か、違うぞということが見た目からも分かる
全体の外観。周辺と比べて何か、違うぞということが見た目からも分かる

そのため、建物を見た時点で天井がとても高いことが分かる。1階が約3.2m、2階は約3.3mあり、玄関の扉は大手サッシメーカーに特注で高さ2.8mを確保。この玄関扉は重さが100㎏近くあり、扉自体が市販されているもので最大サイズであるだけでなく、それを設置するためには扉枠自体もその重さに耐えるものでなくてはいけない。

廊下幅も広い。ドアも天井近くまであるトールサイズ
廊下幅も広い。ドアも天井近くまであるトールサイズ

もちろん、それだけのサイズのものを搬出、搬入することも考えて室内だけでなく、物件入口の門扉は観音開きで広く取られているし、階段幅は140㎝、共有廊下幅は120㎝と普通の賃貸物件に比べるとすべてビッグサイズ。

人が入らないとサイズが分かりにくいだろうと、人物を入れた内部写真。人のサイズと比較するとドア、天井の高さなどが分かる
人が入らないとサイズが分かりにくいだろうと、人物を入れた内部写真。人のサイズと比較するとドア、天井の高さなどが分かる

それにそもそも、この天井の高い部屋を作るためには構造から考える必要があったとアースモアの清水則和さん。清水さんは不動産会社の建築部門に勤務されており、建築に関しては知識も人脈もある。妻の梓さんも建築会社勤務歴のある人で、だからこそ、アースモアを企画、建築できたともいえる。

2階の図面。アトリエ部分を最大化できるようにキッチン、水回りなどはきわめてコンパクトに作られている
2階の図面。アトリエ部分を最大化できるようにキッチン、水回りなどはきわめてコンパクトに作られている

「木造でこれだけ天井の高い建物を作るためにはそもそも柱のサイズから変えなくてはいけません。一般には3寸角(105㎝)の材を使いますが、ここでは4寸角(120㎝)を使用。それでも天井高が3mを超えると居室部分はそれほど広くはできません。現状、各室は30.17㎡となっていますが、これがぎりぎりです」と梓さん。

「構造部分は設計・大工・大手プレカットメーカーの協力があり、形にすることができました」と則和さん。

作品を掛けられる壁、使いやすい照明も

しかも、搬出搬入できるだけでなく、室内にそれだけのサイズのキャンバスを掛けて制作できるようになっている。南側の壁である。

南側の壁。これだけのサイズがあれば制作もやりやすいというもの。意外に人気の高かった入口近くの水場の照明
南側の壁。これだけのサイズがあれば制作もやりやすいというもの。意外に人気の高かった入口近くの水場の照明

「絵を掛けても大丈夫なように合板が入っており、南側の壁は3㎝までの釘ならOK。それ以外の壁もプロに頼む限りにおいては改修は可能。部屋の広さは限られていますが、高さがありますから、それを生かして収納、ロフトベッドなどを組み立てれば立体的に広く使えるのではないかと思います。相談いただければ施工その他に当たってくれるプロは私たちから紹介できます。壁面のクロスについては南側だけでなく、すべての面で汚損に関しては原状回復は不要です。

窓は一面にしかないが、その分サイズは大きく、光はたっぷり入る
窓は一面にしかないが、その分サイズは大きく、光はたっぷり入る

南側の壁を作品用に充てたため、窓はバルコニー側に一面しかありませんが、大きなサイズの作品を制作したい人にとって高さのある壁にある窓は歓迎されないものなのだとか。その分、バルコニーに面した窓は逆に通常より大きくとってあり、幅2.58m×高さ2.2m。十分光は取り込めます」と則和さん。

床は汚れても良いようにクッションフロアになっており、こちらも原状回復は不要。思う存分制作に打ち込めるのである。

天井に設置されたレール。高さがあるので脚立は必要だが、ロフト利用時にも必要なため、あらかじめ用意される
天井に設置されたレール。高さがあるので脚立は必要だが、ロフト利用時にも必要なため、あらかじめ用意される

天井には四角くライティングレールが用意されている。普通の部屋だと照明を設置できる場所はあらかじめ決められているが、ここでは自分の好きな場所に設置できるのである。また、電源が天井からとれるのでグルーガン(接着のための道具)など電気を使う道具も場所を限定せずに使える。

「南側の壁を全面使えるようにしたのでコンセントがありません。天井のライティングレールにはそれを補う意味もあります。モノをひっかけても使えますね」と則和さん。

学生や関係者に要望を聞き、実現度は8~9割

ちなみにコンセントは陶芸の電気窯も使えるよう、全室200Vのものが設置されている。エアコンも15畳ほどの広さに対して200Vのコンセントを使う18畳用。天井高があるので容量の大きなものでないとという配慮だ。それに加えて断熱材も一番高価なものが使われており、快適に制作に励めるようになっている。

設備では入口近くのシンクが目を惹く。これは絵筆などを洗うためのもので、キッチンとは別にある。脇には照明が設置されており、手元を確認しながら洗えると見学に来た人には好評だったそうだ。

「この物件を作るために武蔵野美術大学に協力を要請、その後関係者を交え2~3時間かけてブレストを行って様々な意見を聞きました。そのうち、用途地域の制限からできなかったこと、木造なので重量のあるプレス機などが置けなかったことを除けば8~9割は実現できたのではないでしょうか」(梓さん)。

防音にもこだわり、壁、床を厚く

防音にもこだわった。2つ理由がある。ひとつは制作するものによっては音が出ることがあり、入居者間で気になるのではないかという配慮から。もうひとつは小平市に独自の騒音規制があるためだ。

「小平市では騒音に関して細かい規制があり、条例違反にならないよう、近隣からクレームが来ないよう、建物の性能を高めると同時に入居者の方にも事情を説明、理解を求めました」と則和さん。

具体的にはミシンや掃除機などの作動音である70㏈がひとつの基準になっており、このくらいの音を出す際には時間が限定される。たまたま、今回、入居者の中に服飾デザイナーがおり、その方にはミシンが使える時間について説明したそうだ。

建物としては界壁が17㎝、2階床厚も10㎝となっており、いずれもかなりの厚さになっている。

独自の作品保管サービスも利用可能

これまでは高さのあるスペースを借りようとすると倉庫くらいしかなく、暑くて寒い場所で制作をしていた人達からすると冷暖房はもちろん、居住環境の整ったアースモアは大きく進歩した物件なのだが、それに加えてさらに独自のサービスもある。

それが作品保管サービスだ。これは近くにある武蔵通商株式会社の美術倉庫に作品を保管してもらえるもので、オーナー負担で床面積1坪(高さ270㎝)を確保済み。

それを6部屋の入居者で按分、利用できるというもの。単純計算で一人1.45㎥を無料で使える計算になる。この上限を超えて保管を希望する場合には別途1坪あたり月額1万5000円(税別)の費用がかかる。

搬入搬出時に車を止められるスペースも用意されている。EVコンセントも設置されている。奥のモノ置きは掃除道具などが入った共用部
搬入搬出時に車を止められるスペースも用意されている。EVコンセントも設置されている。奥のモノ置きは掃除道具などが入った共用部

作品の集荷・運搬は武蔵通商に委託、費用は集荷希望者で按分する。集配に要する車のサイズで費用は異なり、2t車で35,000円(税別)、Lバン26,500円(税別)など。それ以外に入庫料2,500円(税別)も必要。費用は集荷希望者で按分ということになる。

単身向け7万円が上限の地域で9万円台で満室

これだけ条件が揃っていれば人気が出るのも当然。前述した通り、完成を待たずに全室が埋まったが、気になるのは賃料。

「この地域の単身向け相場は7万円が限界ですが、ここは9万円台で決まりました。ただ、少し反省した点もあります。というのは一般の賃貸住宅では1階より2階のほうが人気があり、賃料も高めということが多いのですが、ここでは1階が先に決まるほど人気でした。

それは搬出入には1階のほうが便利だから。今後、同種の物件を企画する時には1階を高めに設定しても良いのではないかと思います」と則和さん。

また、意外に人気だったのはシャッター。1階、2階ともに設置してあるが、制作内容によって光が入らないほうが良い場合があったり、モデルさんが来ての作業時には外から見られたくないというニーズもあるそうだ。

見た目の派手さはないが、ニーズをしっかり聞き取り、住む人が欲しいという住まいに徹したアースモア。細部にまで評価されるだけの仕様になっているわけだ。また、今後は違う点かいもあり得るという。

「今回は新築2階建てで作りましたが、天井の高さ、1階でも良いという点を考えると古い昭和の家を改装、アトリエにする手もあるということに気づきました。床、天井を剥がして高さを確保すればよいのです」。

新築となるとそれなりに予算が必要になるが、古い家を利用してのアトリエ賃貸もあり得るとなれば可能性が広がる。もちろん、専門知識が必要になるので誰にでもできるというわけではないが、まだまだ必要としている人は多いジャンルである。

清水さんは今後、アトリエ物件のような特殊企画を目指す法人へのアドバイスも展開していく計画でもあり、他と違う物件を施工したいなら問い合わせてみても良いのではなかろうか。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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