以前のニュース記事で「札幌の不動産投資で成功する地下鉄駅はどこだ!キーワードは「地域交流拠点」。」という記事を書いた。
この話の趣旨は「駅周辺エリアが再開発されて整備されると、人が集まり、商業も活発化し不動産の価値もエリアの価値も上がり、それによって開発に直接関係のない不動産投資家も、この開発によるエリアの発展に乗ることができると、資産価値の向上を図れる」という事だ。
その時に紹介したのが、札幌市の「地域交流拠点」に指定された「地下鉄平岸駅周辺地区での取組」である。
この「平岸」は札幌市の中央を流れる豊平川から南東側、豊平区の中心エリアである。
「平岸駅」は「札幌市営地下鉄南北線」で、大通駅から5つ目で乗車7分の位置にある人気の街である。
LIFULL HOME’Sが提供する「まちむすび」でも、買い物のしやすさや交通の利便性などで豊平区で最高得点の街である。
地下鉄平岸駅周辺地区での取組の例


今回はそこから更に平岸地区の地域活性化が進んでいる事を取材してきた。
■地下鉄平岸駅周辺地区での取組の例
札幌市のHPの案内によると、平成29年度より、地下鉄平岸駅周辺地区において、地区の住民や事業者の方々とまちづくりの方向性を共有するため、「平岸の未来づくりワークショップ」を開催しながら指針作りに向けて取り組みを進め、令和元年5月に「平岸まちづくり指針」を策定した。
そして令和2年度には、平岸中央商店街振興組合と連携し、誰もが自由に休憩できるベンチを設置する取組として、「平岸GOGOベンチプロジェクト」を開始した。
そして地域の企業が主体となって行う取組として、令和2年11月3日に開催された「平岸マルシェ」について記載された。
この平岸マルシェは、平岸の人たちにとって楽しい場所を作り、まちの活性化につなげたいという想いから、地域企業である「平岸ハイヤー」が主催となり、地域密着の取組としてイベントを行ったものだ。
平岸のシンボルである「りんご」にちなんだ物販をはじめ、野菜や果物、手作りのクラフトなどの販売や、キッチンカーの出店、リノベーションした「柳田家住宅旧りんご蔵」での飲食の提供、子どもの遊び場の提供、お下がり交換会の実施など、多彩な催しで地域を盛り上げた。
当日は晴天に恵まれ、多くの人が来場しマルシェを楽しんだようだ。
このマルシェは1回だけのイベントにとどまらず令和3年春以降の定期開催を計画しており、平岸まちづくり指針に基づく地域のにぎわいづくりの取組として、札幌市も応援していると記されている。
この平岸マルシェを仕掛けたのが、平岸で創業63年を迎えた平岸ハイヤー株式会社を2018年に引継いだ神代晃嗣(くましろてるつぐ)社長(44歳)である。

平岸ハイヤー株式会社は、1958年にリンゴ園を経営していた創業者が、まだ札幌市になっていなかった、平岸地域に住んでいる住民から「私たちも、交通手段が欲しい」という願いを聞き、リンゴ園を売却し車2台を購入しタクシーを始めたのが始まりだ。

平岸マルシェの拠点となっている「柳田家住宅旧りんご蔵」は、国の登録有形文化財になっているレンガ作り2階建ての倉庫だ。
100年ほど前の大正時代後期に建てられた札幌に現存するレンガ倉庫では最古のものである。
明治の初期より開拓使の方針もあって果樹づくりが奨励され、平岸の丘陵地一帯にはりんご農園が広がり、北海道でも有数の「平岸りんご」の生産地となり、ウラジオストックやシンガポールなど海外にも多く輸出していのだ。
そのりんご蔵を所有者が手放したいという情報が入ってきて、「マンションにでもなって、地域の宝が失われたら大変」と購入したのが始まりだ。

■平岸マルシェの開催まで
2019年10月ぐらいに蔵を取得して2020年8月ぐらいまでにレンタルスペースとして活用する事を考えてリノベーションをかけていた。
マルシェをやってみようと思ったのは、倉庫のリノベーションが完了する頃だった。

「せっかく素晴らしいものを所有することになったので、ここを地域の人たちにもっと知ってもらって、もっと集まってもらえるのか考えました。
地域のタクシー会社として楽しい場所を提供できたり、安心に繋がるような運用ができると、この街がより一層楽しくなるし「住む理由を作る」のがうちの会社のミッションになるということを考えました」と神代社長は話してくれた。
平岸マルシェを開催する事を決めて、すぐに全国的にマルシェ作りで活躍している「脇坂真吏さん」にサポートを依頼し、開催まで約2ヶ月という短期間で、このイベントを立ち上げたのだった。
またマルシェ沿いの道路を止めたのも開催1週間前にお願いしたそうだ。
「急遽お願いしても行政も警察もすごい理解をしてくださいました。」
最初のマルシェの会議には、札幌市の文化財の担当や豊平区のまち作り政策担当など10人くらい参加し、行政の期待も非常に高いことがうかがえる。

平岸マルシェは、2020年11月3日(火・祝日)に開催された。
マルシェ開催のタイミングはちょうどコロナが少し収まって来た時期。タイミングも良く10時から15時までに1500人ぐらい来場した。
地域の37の町内会にビラを回覧板で回した事とタクシーの車内広告だけの告知で、約1500人が来場し、TV局の取材も複数入った。
■次の平岸マルシェ開催計画
次の平岸マルシェの開催時期は2021年ゴールデンウイーク明け、5月9日(日)か16日(日)を予定している。
「マルシェは、今はまだイベントみたいな感じですが、今年からは定期的に開催していき、ライフスタイルに取り込まれるようにしていきたい」と抱負を語っていた。
平岸マルシェのHPでもこのように書かれている。
いつか賃貸情報に「平岸マルシェ」と書かれ、「地域の特典」として捉えられるようになる事を目指していると語っていた。
■平岸マルシェ 将来の進化
@地域公園の活用
平岸マルシェを開催場所のすぐ裏には公園がある。今後は行政と折衝し利用を目指している。この公園も使えると更にマルシェが良くなるのだ。
「市の後援をもらっているのでいろいろと仕掛けられます。そのためには市の許可を取れば大丈夫です。前例があるのでできると思っています」
A音楽ホールの実現
そしてもう一つの目玉が「音楽ホール」の構想だ。
ただしきちんとした施設ではない。平岸ハイヤーの古い車庫を利用するものだ。
「全部施設が40年50年経っているが、その古さを生かしてできる物はないか考えると、僕の中ではすごい場所があります」と語るのが、車庫を利用する予定の「音楽ホール」である。
「ゆくゆくはここで屋台村を出しながら、音楽イベントをしたい」という抱負を語っていた。
神代社長は「マルシェの良いところはコミュニティーが生まれること。出店のお店はエリア外から来るので、この繋がりもできますし、もちろん地域内でも繋がりができる。」と語る。
今後の計画では、実行委員会という組織を作って、その大部分を北海学園大学の学生に運営をしてもらう計画も考えている。
神代社長が地域の宝だという大学の若者たちが、「どんどん運営に入ってきて運営を任せられる別会社を興せたらいい」と夢を語っていた。
B他地域マルシェの立上げ
神代さんはここを成功させて、将来は「地名マルシェ」を更に立ち上げる事を構想している。
「この平岸マルシェの定期開催を軌道に乗せられれば、どこのエリアでもできるようなります」
そして他の地方都市のタクシー会社も同様の取り組みができると考えているのだ。
「タクシー会社はもっとできることいっぱいあると思います。特に地方のドライバーは地域で顔見知りばかり。お客さんを「乗せる」仕事だけではなく、乗せてない時間にもサービスできる。例えば見守りサービスなどもできる。日本はどこもタクシーがあるので、とても可能性はあると思う。何とか形を作って他のタクシー会社にも提案したいと思っている」と先の構想まで話してくれた。
■地域密着起業が本気で地域振興を
このマルシェ構想を考えた時に地元のビルオーナーや地主にも協力をお願いし直ぐに協力を得られた。
これも地域で長年事業を営んできた信用があったからのものだ。
このように平岸エリアは地元企業や地元の大家、地主が協力しあいながら地域を盛り上げている。
「街に活気がないとタクシーに乗ってくれる人もやっぱりいない」
平岸ハイヤーの拠点から、3キロ範囲で10万人、5キロ範囲までで30万人住んでいる。
地域活性化は、経済が生まれないと活性化しない。このように地域密着企業や大家、地主が本気で地域振興に取り組んでいる平岸エリアは将来有望なエリアの一つのように映った。
不動産投資をするものとして、その地域で何がどんな経緯で行われて、その歴史や経緯を知って投資することは、不動産オーナーとして必要な事ではないかと感じる。
今年の5月に開催予定の平岸マルシェ。平岸地区に不動産を所有するオーナーは行ってみることをすすめる。
執筆:J-REC教育委員 原田哲也
【プロフィール】
2010年より、一般財団法人日本不動産コミュニティー(J-REC)の北海道支部を立上げ、不動産実務検定の普及に尽くし、多くの卒業生を輩出。2018年よりJ-RECのテキスト編集、改定などを担当する教育委員に就く。
また自身が主宰する北海道大家塾は既に62回の開催を数え、参加人数も述べ3700人を超える。