前回までの「これから不動産投資を始めようとする人のための経営戦略入門」の1回目では、経営戦略についての考え方の概略を、2回目では経営戦略の第一歩となる「経営理念」、「経営ビジョン」について解説した。
今回は、「経営理念」や「経営ビジョン」を策定した後の手順である内部環境分析および外部環境分析について説明する。

三太郎:紺先生、先日は有難うございました。先日のお話の中で、私の経営ビジョンとなる「Fireの実現」のためには約2億5,000万円の物件を購入し、2,000万円程度の家賃収入を得る必要があることを理解しました。
次は、どのような事を考えれば良いでしょうか。
紺:三太郎さん、こちらこそ先日は有難うございました。
約2,000万円の家賃収入を得るためにはきちんと戦略を立てて不動産投資を進めていく必要があります。
そこで次にSWOT分析といわれる内部環境分析と外部環境分析を実施していきましょう。
三太郎:SWOT分析ですか。何だか格好良いですが何でしょうか、それは。

紺:SWOTは強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の略です。強みと弱みは三太郎さん自身の強みや弱みです。
機会と脅威は三太郎さんを取り巻く周りの環境について、プラスとなる要因を機会、マイナスとなる要因を脅威として整理します。
三太郎:なるほど。例えば、私は手先が器用なのでD I Yが得意なのですが、それは強みといえるのでしょうか。
紺:仰るとおりです。
まさにそれが強みになります。
三太郎:そうすると、弱みは、貯金が少ないこと、不動産投資の経験がないことなどでしょうか。
機会は、私が住んでいる地域は高齢者が多く、中古戸建の供給が多いということですかね。
紺:さすが三太郎さん。飲み込みが早いですね。
脅威としては、不動産物件価格の高騰などでしょうか。
ざっくりいうと、自分で何とかできるものは強みや弱み、自分ではどうしようもないことが機会や脅威となります。
三太郎:なるほど。そういう整理ができるのですね。
SWOT分析のやり方は分かりましたが、これをどのように経営戦略の策定に活かすのでしょうか。
紺:定石としては、強みと機会を掛け合わせて経営戦略を練るというやり方です。
三太郎さんの強みは「手先が器用でD I Yが得意」、機会は「中古戸建の売出しによる供給が豊富」といったものでした。
これらを掛け合わせると、三太郎さんのこれから取り得る戦略として、「供給される多くの中古戸建の中から物件を厳選してD I Yによってバリューアップを図り賃貸に出す」という方向性が定まると思います。
三太郎:なるほど。SWOT分析をすることで自分の不動産投資の方向性が見えてくるんですね。
紺:三太郎さんの例だと、強みと機会がうまく噛み合いましたが、お互いの関連性が無い場合も多いです。
そのような場合は、複数の強みや機会を考えて方向性を決めていく必要があります。
それでもお互いが噛み合わない場合は、機会はとりあえず忘れて「自分の強みを活かして何ができるのか」を考えていきましょう。
三太郎:弱みや脅威はどのように活かしたら良いのでしょうか。
紺:弱みや脅威は「認識しておくこと」が重要です。
例えば三太郎さんの弱みは「貯金が少ないこと、不動産投資の経験がないこと」でしたが、「貯金がないこと」を意識することで、返済比率を保守的に低めに設定できるような物件選択を行うことを考えてください。
また、「不動産投資経験がないこと」から、初めから高額物件に手を出すことはリスクが高いので、安い物件から始めて経験を積んだうえで、本格的に投資をしていこうという意識が働くと思います。
三太郎:脅威の「物件価格の高騰」についても、意識をしているのとしていないのとでは物件価格の捉え方が違ってくる気がします。
今の相場だと、中古物件で表面利回りが7%〜8%などでも違和感が無いですが、数年前と比べるとこれはかなり低い水準ではないでしょうか。
紺:そうですね。実際、今の中古物件の相場だと新築物件と大きく差がでないという矛盾をはらんでいる場合があります。
その辺りの市場の「ゆらぎ」のようなものを意識しながら投資を進めていくというのも大事だと思います。
SWOT分析は、これから行うべき不動産投資の方向性を決定するうえの有用な材料となるだろう。次回以降では、方向性が決まった後に何をすべきかをオペレーション戦略について学ぶことで考えていきたい。
執筆:
(あきもと よしのぶ)