首都圏からほど近い茨城県南西部のまちで
「食と農と健康の産業団地」を開発
常総市は茨城県南西部に位置する自治体で、同市を中心とする常総都市圏を形成している。東京都心から約50㎞と近く、電車や自動車だと1時間程度の距離。県庁所在地の水戸市からも約70㎞と遠くない。平坦な土地が広がり、市の東には小貝川、中央に鬼怒川が流れ、鬼怒川を境に東部地域には市役所と水海道駅、石下駅を中心とする市街地や水田、西部地域には水田、畑、森林、工業団地などが広がっている。
他の地方自治体と同じく、常総市も少子高齢化に直面している。かつては7万人に迫ろうとしていた人口は6万人を切り、高齢化率は31.4%と高い水準。こうした中、同市と戸田建設が地方創生・地域活性の場として取り組んでいるのが「アグリサイエンスバレー常総」だ。
同所は、2017年に供用され始めた圏央道の常総インターチェンジ(IC)の周辺にある約45haの土地を使い、「農業の6次産業化」をテーマにPPP(公民連携)で開発する「食と農と健康の産業団地」。最先端の技術を取り入れた農業施設や物流拠点など各施設が順次オープンし、5月26日にはまちびらきも行われた。
直近だと、4月28日に「道の駅常総」が新たに誕生した。地元特産品を中心に扱う物販店やレストラン、カフェを備え、1階の情報ラウンジにはデジタルサイネージを導入。市は年間100万人の集客を見込んでいる。施設は地盤のかさ上げなどで浸水対策を施し、毛布や救急セット、非常用の飲料水などを保管する防災倉庫も。浸水に備え電気設備は2階にあり、災害時は一時避難所としても利用されるなど、防災機能も備えた。
5月27日には、茨城県初の「TSUTAYA BOOKSTORE」として、「TSUTAYA BOOKSTORE 常総インターチェンジ」もグランドオープン。スターバックスコーヒーのコーヒーなど飲み物を片手に購入前の本を選べる「BOOK & CAFE」を中心に、施設の内外には親子で遊べる遊び場、飲食店なども用意した。
敷地はホンダ技術研究所の技術実証実験用のテスト基地・技術情報発信ベースである「Honda ASV-Lab.」もあり、ブース内には搭乗型マイクロモビリティなどを展示。敷地内を自動で走らせる試みも始まっている。
このように、多世代が集まる場が整備されつつある「アグリサイエンスバレー常総」。2026年には温浴施設もオープン予定で、さらなる充実に向けて開発は続いている。
先述したように、常総市は首都圏から近く市を縦断する国道294号もあることから交通アクセスはよく、さまざまな企業が操業し、工業団地が育っていった。こうしたなか、平成初期には圏央道のインターチェンジの準備が始まり、さらに広域交通性が高まることから、周辺における土地利用について関心は高まっていたという。
一方、国道294号沿いには農地が広がり、市の基幹産業を支える農業を支える上でも重要な土地であることから、完全に農地から工業・産業計用地へ転換する従来型の開発ではなく、農業を活かすための土地利用を検討してきた。その流れで生まれたのが、アグリサイエンスバレー構想だったそうだ。
具体的には、同市の地権者が所有する農地を集約、大区画化すると同時に、生産・加工・流通・販売までの一貫した事業施設を整備。第1次から第2次、第3次産業までを合わせた場所にすることから、これらの数字を掛け合わした「農業6次産業化」と命名した。
常総市は2015年9月、鬼怒川の堤防が決壊して大きな被害に見舞われた。そんな地に誕生した生活拠点・観光スポットは復興のシンボルとしての役割も期待されている。同事業によって約2000人の雇用や、税収効果も見込まれる。官民が連携した新たなまちづくりとして注目度も高く、これまでに約100の自治体・企業が見学に訪れたそうだ。もともと首都圏に近い好立地だけに、にぎわいの拠点ができると、定住人口の増加につながるかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))