残置物の処理等に関するモデル契約条項。わかりやすく書くと「60歳以上の高齢の入居者さんが亡くなった場合の残置物の処理等」に関して、勉強してみた。
入居者さんが亡くなった場合、賃貸借契約と部屋に残った財産は相続人に相続される。そこで、大家は契約の解除と残置物の処理について、相続人に意向を確認し処理する必要がある。
相続人がわからない場合は法に則って相続人を探さなければならない。これに結構な時間と多額の費用がかかることがある。大家が勝手に契約を解除したり、勝手に残置物の処理を行ったりした場合は相続人に損害賠償を求められることもある。
これは亡くなるリスクが他の世代より高い高齢者を大家が入居させたくない理由の一つともいえる。
そこで、令和3年6月国土交通省と法務省が共同で「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定した。これにより、「単身高齢者」の入居者さん(委任者)が亡くなった場合の「賃貸借契約の解除」「残置物等の処理」を第三者(受任者)に委託し、速やかに処理することが可能となった。
「60歳以上の単身高齢者」であれば、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することが可能で、高齢者の受け入れリスクを減らすことができる。高齢者でなくても入居中に亡くなることはあるので、「高齢者限定」のリスクヘッジともいえる。
■残置物の処理等に関するモデル契約条項の実際の使い方
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、わかりやすく書くと以下のような流れになる。
1)「賃貸借契約の解除」と「残置物処理」について入居者さんと受任者(契約の解除と残置物の処理を、入居者さんが亡くなった後に代行する人)の間で「委任契約」を結ぶ。
この時、入居者さんが亡くなった時の連絡先(委任者死亡時通知先)も指定することができる。受任者は入居者さんの推定相続人のいずれか、居住支援法人、管理業者等の第三者が「望ましい」。
2)上記1の委任契約があることを、入居者さんと大家の「賃貸借契約書」に記載する。
3)入居者さんが亡くなった後、賃貸借契約の解除と残置物の処理を受任者が実施する。
入居者さんが捨ててほしい家財(非指定残置物)は廃棄や換価(売却などでお金に換える)することができる。捨ててほしくない家財(指定残置物)は、換価した現金とともにそれぞれあらかじめ決めた「送付先(相続人等の家財等を送ってあげたい人)」に送る。
入居者さん「以外」の人の所有物が残されていた場合は指定残置物として、送付先に送る。
4)送付先が転居などで不明になった場合などで、家財や換価したお金を届けられない場合は「善良なる管理者の義務」の範囲で探せばよい(法的手続きまでは求めないし、相続人探しは原則不要)。
5)届けられない場合は、残った家財を換価し「供託」する。
これにより、次のような懸念が解消される。
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・大家が相続人を時間やコストをかけて探す必要はなくなる。
→「送付先」が相続人との間で、引き取るのか捨てるかなどを決めてもらう
・受任者が残置物の処理等で費用を受け取ることが可能となる。
→この場合は処理の費用を受け取る旨をあらかじめ明記する(例えば、2社以上の見積もりを取って処理にかかる費用を支払うなど)。
・廃棄は入居者さんが亡くなって一定期間(少なくとも3か月)経過し、賃貸借契約が終了した後に可能。搬出は搬出の2週間以上前までに、亡くなったことを通知して欲しい人(委任者死亡時通知先)に通知することが「望ましい」。
・受任者は、利益相反のある大家・サブリース会社・保証会社は「避けるべき」。
・入居者さんにお金がない場合、損害保険・少額短期保険等で対応することも検討できる。
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これらは「残置物の処理等に関する契約の活用手引き」に書かれているので参考にしてほしい。
参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001391723.pdf
また、国は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」としてPDF形式やWord形式のひな形を用意してくれている。これらをダウンロードし契約書を作成することができる。
参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html
さらに、単身入居者を受け入れる際の様々な工夫や取組を紹介する「<大家さんのための>単身入居者の受入れガイド」も開示しているので、これらを参考にして高齢者のリスクを考え、リスクヘッジをしたうえで高齢者を受け入れてはどうだろうか。
参照:https://www.mlit.go.jp/common/001338112.pdf
■高齢者のリスクをヘッジしながら、大家名利を味わう
そもそも、賃貸経営にはリスクが伴う。
高齢者以外でも孤独死は発生する。50代前後の男性の孤独死は実はかなり多い。また、夜逃げなどで行方不明になった場合は契約の解除と残置物の処理には相当の手間がかかる。
逆に言えば、高齢者は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を使うことで、他の年齢層では活用できない「契約の解除と残置物の処理」を第三者にあらかじめ依頼することができる。他の年齢層ではできないリスクヘッジが可能になる。
高齢者だから不安。その気持ちはわかるが、高齢者だからこそできるリスクヘッジもある。国も動き始めている。高齢者が安心して住める部屋の提供。そこで幸せに生活できる高齢者や、それを喜んでくれる家族。大家はそういう場を提供できる。
高齢者だからと敬遠するのではなく、リスクヘッジしながら高齢者に部屋を貸して、「大家冥利」を味わってほしい。
■セミナーのお知らせ
6月8日に、東京都 墨田区で「高齢者向きアパート。理論と恐るべき現実」というテーマでセミナーをします。講師は『高齢者向きアパート経営法』の著者、赤尾宣幸と鈴木かずやです。
時間は14時~17時、参加費5,000円です。終了後は懇親会も考えています。詳細はFBにあります。参加希望の方はコメントまたは赤尾宣幸へのメッセージをお願いします。
詳細・お申込み⇒コチラ(赤尾のFB)
もう一つお知らせです。5月25日に関西の「大家さんフェスタ」にブース出展します。11:30~12:00に「実はリスク回避がしやすい高齢者。対策をとって受け入れよう」というテーマでセミナーをします。こちらは無料です。ぜひいらしてください。
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