大家をやっていると、賃借人(借主)を、法人から入居者さん個人に変更したいという連絡がたまに来ます。つまり、賃借人(借主)の名義変更です。
たいてい、法人を辞めた社員さんがそのまま住み続けたいというケースです。こういう時、個人の収入が安定していれば継続して住んでもらいますが、そのような人ばかりではありません。私は無職になるとか、これから仕事を探すという場合にはお断りしています。
今回のコラムは、昨年9月から本年3月にかけて起きた、名義変更の依頼を断って、その入居さんが退去された後にフルリフォームをした時のとても辛い経験談です。
■賃借人(借主)の名義変更の連絡
令和5年9月に、昭和荘(仮名)の102号室を借りている法人から、管理会社さん経由で連絡がありました。
・賃借人(借主)を法人から70代の男性入居者の個人に名義変更したい
・入居者の70代の男性はその法人を退職する
・家賃は法人で借りていた時と同額にする
という事でした。
管理会社の営業さんは、「いいですよね」と軽く言ってましたが、私は大反対でした。70代で退職という事は、おそらく無職になります。それ以上に心配なのは、この70代の男性入居者が、20年以上住み続けている102号室を廃墟のようにしていたことです。
■102号室の現状
この昭和荘は、オーナーチェンジで平成元年12月に購入した物件です。昭和荘を購入した時から、この102号室の70代の男性入居者の行動には不思議な点が多く、自然と目に入りました。
・電気、水道、ガスなどの生活インフラはすべて止められている
・土足で102号室に出入りしている
・アパートには泊まっていない(夜はどこに行っているのか不明)
・仕事が休みの日は駐車場の車の中でラジオを聴いていて、トイレと喫煙時に102号室に戻る
・玄関ドアのカギをかけない(後にカギは全て紛失していたと判明)
・中は廃墟のようになっている
当時の102号室の写真を消去してしまったので、お見せできないのが残念です。
■入居者が部屋の片付けを開始
管理会社さんはこのような事情を何も知らないので、私が名義変更に大反対する理由を理解できませんでした。
そこで、「102号室は玄関のカギが開いているから中を見て欲しい。玄関先から見ただけで、部屋がどんなにひどい状態かわかる」と伝えました。
数日後、管理会社の担当さんから、「パスカルさんが名義変更に大反対している理由がわかった」と連絡がありました。そこで、管理会社さん経由で、賃借人(借主)の法人に次のことを伝えてもらいました
・名義変更の前に法人の責任で部屋の中を片付けて欲しい
・部屋の片付けができれば名義変更も考える(本当は考えません)
その後、1ヶ月以上たったある日、管理会社さんから、102号室の入居者は部屋の片付け中で、片付けが終わったら退去する連絡があったと報告がありました。法人が責任を持って片付けさせると事でしたが、大きな不安がありました。
・退去後のゴミを撤去した部屋の状態はどうなっているんだろう?
・原状回復費用はどのくらいかかるんだろう?
・法人は、原状回復費用の負担分を支払ってくれるんだろうか?
正直、中を見るのが怖かったです。
■片付けが終わった102号室
102号室のゴミの片付けが終わったという連絡があったので、内部を見に行きました。写真を見ると床が腐っているのがわかります。しかし、102号室をゴミ部屋状態を知っている私にはキレイに見えました。
床を拡大したところです。
腐っていたので、床の張り直しを行いました。
建具に数ヶ所焦げがありました。どうして焦げたんでしょうか。
入居者は風呂には入っていないと言ってました。電気もガスも水道も止まっていたので、本当だと思いますが、それならなぜこんなに汚れるのか。。。
トイレもひどい状況でした。
令和5年11月に、20年以上住んでいた70代の男性入居者が、102号室から退去していきました。管理会社さんに退去立ち合いをしていただき、法人の原状回復費用の負担分は約43万円で確定しました。
私は43万円で原状回復ができるとは思っていませんでしたが、20年も住んでいた部屋なのでやむを得ない部分もあります。それ以上に法人が本当に43万円を支払ってくれるのかという不安がありました。
■リフォーム内容の分かれ目
102号室は、天壁床を全面フルリフォームする計画でした。クリーニング屋さんは、ユニットバスはクリーニングできれいになるという事でしたが、昭和荘の1Kには洗面台がなく、新たに設置するスペースもないため、困ってしまいます。
今の時代に洗面台は必須です。そのため、昭和荘では退去があると、ユニットバスを撤去してシャワーブースと洗面台を設置するというのが定番のリフォームになっていました。リフォーム費用は高額になりますが、満室運営の為の必要経費です。
そんな時に、福祉関係の方から生活保護者の入居の話がありました。生活保護の住宅扶助は31,800円です。シャワーブースと洗面台を新設した場合、厳しすぎる家賃です。この場合、洗面台を付ける工事は難しくなります。
102号室は内見ができる状態ではないので、数年前にリフォームを実施した同じ間取りの空室にご案内して、「風呂以外はこの部屋と同じリフォームをします。風呂だけは古いままです」と説明させていただきました。
福祉関係の方と生活保護の方は、前向きな返事をして帰って行きましたが、その日以降、連絡が取れなくなりました。しばらく102号室のリフォームの開始を遅らせて連絡を待っていましたが、動きはありません。
そこで、「他の物件に決まったのだろう」と思い、当初の計画通り、予算をかけてユニットバスを撤去し、シャワーブースと洗面台に変更するリフォーム工事を行いました。
■リフォーム開始
102号室のリフォームが始まると、プロパンガス屋さん、水道設備屋さん、内装屋さん、塗装屋さん、大工さんが一気に作業に入ってくれました。1Kの部屋で6人が作業をしていることもありました。この人口密度の高い作業のおかげで、短期間でリフォームは終わりました。
工事が終わった頃、連絡が取れなかった福祉関係の方から、「やっぱり102号室に入居したい」という連絡がありました。既にシャワーブースと洗面台を設置してあったので、31,800円では部屋を貸す事はできません。この方には、別の3点ユニットのアパートをご案内し、入居いただきました。
■リフォーム完了
腐った床はこのようにきれいになりました。
建具の焦げは、ダイノックシートを貼って補修しました。
流し台も新品に交換しました。内装屋さんがよく使う桜色のアクセントクロスは、女性の営業さんに評判がいいようです。
ユニットバスがあった場所には、洗面台とシャワーブースを設置しました。(バスタブはありません)
トイレの便器も交換しました。便器、ウォシュレット、洗面台、照明等は施主支給で工事していいただきました。ご協力していただいた業者さんには感謝です。
クロスやダイノックシートの色は、いつも内装屋さんにお任せしています。量産クロスを組み合わせて、いい感じに仕上げてくれるので助かります。ちなみにトイレのアクセントクロスは在庫の商品、建具に貼ったダイノックシートも在庫を使ったという事でした。
■まとめ
話を戻します。支払期限を過ぎても、退去清算費用の43万円の振込はありませんでした。管理会社さんが何回か督促をして、退去清算費用の43万円が振り込まれたのは、リフォームが終わった3月下旬でした。ホッとしました。
今回のリフォーム費用は、まだ請求書が届いていないので正確にはわかりませんが、以前に昭和荘で同じようにリフォームした時の費用は約130万円でしたので、今回も同じくらいになる見込みです。
私の負担分は、退去清算費用の43万円を引くと87万円程。私は今後の入居募集の為に必要な出費と考えました。この出費をどうとらえるかは、それぞれの考え方によると思います。
このコラムを書いている時点では、まだ申し込みは入っていません。でも、よくわからない入居者に退去してもらい、廃墟のような部屋をキレイにできたことで、気持ちがとても楽になりました。
■余談:とても穏やかな名義変更
全くの余談ですが、数年前、私の別のアパートで名義変更に関する面白い出来事がありました。
管理会社の営業さんが、部屋を探している男性を空室予定の部屋に案内したのですが、アパートに着くと、その男性は、「娘の引っ越しで、このアパートに来た事がある」と言い出したそうです。
偶然とはいえ、そんなことがあるなんて驚きです。さらに驚いたことは、空室になるのは娘さんの部屋でした。そして、娘さんが退去した後、名義変更で父親であるその男性が入居しました。
賃借人(借主)の名義変更なので、男性に対しては仲介手数料が発生しません。(管理会社さんがこの男性から仲介手数料を取ると宅建業法違反です)。娘さんには、原状回復費用も退去清掃費等もかかりません。お父さんが最後に支払います。
管理会社さんは私からも仲介手数料はとれません。結局、私はADを1ヶ月分支払う事になりました。抜け道的なアイディアですが、お付き合いですからお支払いしました。毎回、こんな穏やかな名義変更だったら良いのですが、実際には色々なケースがありますね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆様の参考になれば幸いです。