■日本語が話せなくても食べていける外国人たち
谷浩さん
ちなみに、ソーリムさんって、基本的には自主管理ですか?
ソーリムさん
戸建てと店舗は自主管理、自主契約でやっていますね。保証会社は入れます。自分で契約もして。でも自主管理は日本語を話せない人は入れていません。
谷浩さん
確かに自主管理だとそうですよね。僕もスリランカのシンハラ語しかしゃべれない人が来たときは、どうしようかと思いました(笑)。
でもね、シンハラ語しか話せなくても日本でやっていけるんです。ブラジルの日系三世の人とか、ポルトガル語オンリーで、日本語が話せない人、結構いるじゃないですか。でもそれでちゃんと大工をやっている人たちがいて。
そこのコミュニティだけで成り立っている世界があるんです。ただブラジルの日系人は、バブルの頃から入ってきている歴史があるから、それが成り立っているのかなと思ったら、スリランカ人でも成り立っているのを見て。
その人はスリランカ人向けのフードデリバリーで、月15万円くらい稼いでいるらしいんですよ。そのコミュニティだけで回るという。
ソーリムさん
それって結構大きなコミュニティがないとだめですよね。
谷浩さん
でも、足利市のスリランカ人の人口って4,000人なんですよ。4,000人で食べていけるのであれば、これからいろいろな地方で外国人が増えてきたときに、母国語でしか話せなくても全然食べていけるような世界ができてくるだろうなと思います。
■2019年のテロに始まるスリランカの悲劇と移住者の質
谷浩さん
でもスリランカ人は苦労しているんです。2019年にあの国で大きなテロが起こったのはご存じですか?それ以来コロナに入って、国家破綻みたいなことになったんです。
事件以前に日本に入ってきた人たちと、それ以降に入ってきた人たちって、クオリティに差があるように思えます。それ以前に入ってきた人は普通の人たちなんですが、それ以降に来た人たちには問題ある人も多くて。
ソーリムさん
それはどうしてそういう違いになったんですか?
谷浩さん
以前は、例えば北関東の専門学校の生徒は90%スリランカ人だった頃があるんです。そういう施設がちゃんと管理をしていて、就職先とかも斡旋していました。現地にも日本の学校を作りましょうという話があったんです。
当時はスリランカもそこそこ経済が発展していて、これからグイグイ観光立国みたいなことをやろう、としていた矢先にテロが起こりました。それで、観光立国とか海洋資源立国というブランドがかなり吹っ飛んじゃったんです。
ソーリムさん
そんなにひどいものだったんですね。
谷浩さん
はい。決定的にクリティカルだったんです。そこに入ってきたのが、国家破綻に導いたラジャパクサという大統領。テロが起こった6カ月後くらいに彼が大統領になって、酷い利権政治を行うようになったんです。
スリランカ人は、その期間はコロナであまり来日できなかったんですが、その後に来ている人たちというのは、国が破綻して不安定な状態でやってきているんですよ。どこからも管理されていない個人としてやってくるわけです。
彼らは国から逃げている人たちという感じです。それ以降、僕のところに来るスリランカ人は、トラブルが多いんです。3日で契約を切るとか、前回お話ししたゴキブリが嫌だという人とか、夜逃げとか。それから「来る来る詐欺」もありました。
ソーリムさん
来るって言って結局来なかったんですか?
谷浩さん
そうです。その人が来るという話をもらったから、部屋を仕上げておくことにしたんです。最初6月15日に来ると言っていたのに、ビザをミスりましたと連絡が来て。
足利に住んでいるその人の友達が中継になってくれていて、いろいろ連絡は取ってくれていたんだけども、7月上旬に来ますって言ったきり、そこから連絡がとれなくなったんです。
友達の方も連絡が取れなくなって、期限までに日本に来ることができなかったので、自動キャンセルにしました。
ソーリムさん
気の毒ですね。自分の国から逃げなきゃいけない状況で。
谷浩さん
ロヒンギャの人もそうです。こういうことは本当にあります。スリランカ人、ロヒンギャに限らず、国家が破綻したり、国家から虐げられたりしている人々が、ギリギリの状態で、国外に脱出するのはよくあることです。
最近の事例だと、シリア難民が押し寄せて欧州で問題になっていると、話題になりましたよね。
ソーリムさん
ちなみにスリランカとかベトナム系の方、あとバングラデシュ人が多い印象ですが、これからはどこの国からやってくる人が多いんでしょうか?
谷浩さん
母数はやっぱりベトナム、インドネシアじゃないですか。あとはフィリピン。そこでASEAN人口の大体6~7割くらいを占めます。大体、その辺の平均年齢って20代なんですよ。
要は労働者階級の人たちは、自国ではまだまだ稼ぎが少ないので、日本に来るっていうのが基本の流れです。家政婦さんとか、昔からフィリピン人が出稼ぎに来るパターンがありますよね。最近聞いて面白い事例だなと思ったのが、在留海外大使館の運転手にフィリピン人が多いそうです。
だからそういう形で、彼らも政策的に労働者を輸出して、それで国にお金を戻したり、家族を養ったりしているんで、そこの人口のボリュームが大きいんです。
■アフリカ系労働者が日本に来る可能性
ソーリムさん
やっぱり日本に来るためには、多少のまとまったお金が必要ですよね。今まで経済的に豊かになった中国の方が、訪日外国人としては多かったじゃないですか。今もそういう状況だと思うんですけど。
東南アジアが経済発展していって、ASEAN系のインドネシアとかインド周辺国から来る人が増えて、それが今後経済発展が見込めるアフリカ系にシフトしていく、ということはないでしょうか?
谷浩さん
アフリカの人たちがどこを目指すかというと、やっぱり旧宗主国のフランスとか、ポルトガルやイギリスなどの欧州各国とアメリカですよね。まずはそこの労働市場に来るっていうのが一番考えられると思います。
僕が知っている限り、日本にアフリカ人が来るケースはあまりないです。一応ASEANの労働力で満たそうと思えば満たせてしまうからかな。
一部解体業者さんとかでアフリカ系の従業員の方がたくさん在籍している会社さんがいますね。あとは私の物件を従業員向けに法人名義で借りていただいている経営者の方いらっしゃいまして、その方がナイジェリア人です。
彼の会社は、広大なヤードを持っているんですよ。要は廃品回収で、何でも回収してくるヤードです。
物を持ってきて、それを全部アフリカ人の同国人を従業員として使うと、同じ国の中で別の民族の上下関係があるとかで喧嘩になるらしく、ガーナ人とか、アンゴラとか、どこか南アフリカ系のエンジニアを雇って使っています。
ソーリムさん
違う民族を入れてバランスをとっているんですね。
谷浩さん
機械なら何でもバラせたり組み立てたりできる、現場叩き上げの何でもできるエンジニアがそういうところにいて、選り分けができるんですよ。
彼はそれで、横浜港からアフリカや中東に物を送って、お金をたくさん儲けています。今はベトナム人のエンジニアにまで手を伸ばして雇っているそうです。
これはそういう中古市場や解体屋さんにアフリカ人の経営者がやってきて、その人が筆頭になって人を雇うっていうパターンですね。だから日本の労働力を満たすのとは、また別の次元の話です。
彼らも日本の労働力不足を補うために日本に来るかと問われたら、それは彼らだって、給料はいいし、人権が保障されていて言葉も通じるヨーロッパを目指しますよね。そういうことです。
■外国人の受け入れは根本的な原因を考えて対処する
谷浩さん
そろそろまとめに入りましょうか。ソーリムさんは、経験の浅い大家さんに外国人入居者の相談が来たら、何て言ってあげますか?
ソーリムさん
トラブルが多い外国人にしても、何か理由はあるんですよね。ゴキブリが出た時にどう対処するかっていうのもわかってないから、ゴキブリを倒すものを提供してあげるとか、教えてあげるのが必要かなと思います。
あと、我々って小学校の頃から掃除の時間があって、学校でちゃんと掃除を学ぶじゃないですか。掃除ができないっていうのも、多分国によってはそういう教育がないんですよね。
そういうところから教えてあげるために、ホウキとチリトリを用意しておくとか。そういうのも、実際にこうやってやるんだというのをちゃんと教えてあげると、わかってくれます。
谷浩さん
ソーリムさんはそういうところが本当にきめ細かいですね。
ソーリムさん
ありがとうございます。実際油固め剤とかを渡してから、配水管の詰まりのトラブルが起きなくなっているので。ゴキブリの話もブラックキャップを渡すようになってから、そんなにひどい話も出てないんですよ。退去の時どうなるかわからないですけど(笑)。
あと、除草剤を渡しておいたり。そうすると彼らも、それが切れたら渡した物と同じパッケージのものを買いに行くんですよね。
そして騒音。話し声がうるさいと近隣の方から言われて、なぜだろうと思って調べたら、エアコンがついていない部屋で窓を開けっぱなしにしているんです。それだったらエアコンをつけてあげるとか。
そういう、表面的な部分の問題だけを見るんじゃなくて、その原因になっているのは何なのかっていうのをちゃんと考えた上で、そこに対処していく、ということが外国人の受け入れでは必要なんじゃないでしょうか。
谷浩さん
今、ソーリムさんが大局的にすごくいいことを言われたのは、これら普通は管理会社が入って対処する話なんです。彼らは最前線でやっていますからね。結局、不動産屋さんとかからよく聞くのは、大家さんの理解があるかないかで、だいぶ変わるというところがあると。
ソーリムさんは自主管理でやっていらっしゃることが多いから、それは本当にすごいことです。自主管理で外国人を受け入れるって、僕自身もそんなに数はやっていないんですよ。
そういう意味で管理会社さんを立てるっていうのは基本だと思います。ただ大家さんができる領域って、すごく多いんですよ。逆に管理会社さんが知っていることってすごく少なくて。
そういうところを分かっている大家さんだと、外国人に手をかけてあげやすいですよね。管理会社さんはやっぱり忙しいから。
だからソーリムさんがおっしゃられたような問題は、事前に想定できますよね。油を固めないで、流しちゃうとか、ゴキブリが出ちゃうとか、転貸してしまうとか、騒音起こしちゃうとか、無断帰国しちゃうとか、大体問題って決まっているんですよ。
決まっているから、それを想定しておけばいいだけなんです。最初は空室対策として受け入れて、管理会社さんに任せればいいと思うんですよ。
でも大家さんができることは、手を入れてより良いサービスにできるということがありますし、そういう大家さんだと、客が口コミで勝手にこの大家はすごいよって言って、連絡先が勝手に他の人から出回って、入居付けが決まるというフェーズが来るんですよ。
だから多分ソーリムさんも、そういう風にやっていれば、口コミで勝手に広まって入居が決まっていきますよ。知らない外国人からどんどん電話がかかってきて(笑)。
ソーリムさん
そういうフェーズになれるよう頑張ります。
谷浩さん
このままやっていくと、多分半年後とか一年後にはそれが来ますよ。
ソーリムさん
覚悟しておきます(笑)。今日はいろんなお話が聞けて、とても勉強になりました。ありがとうございました。
谷浩さん
こちらこそ。おかげでいろんな気づきがありました。ありがとうございました。
アフターコロナで外国人が戻りつつあると言っても、外国人入居者の前にはいろいろなハードルがあるんですね。谷さんの専門家ならではのお話はグローバルな視点かつ具体的で、大変興味深かったです。ソーリムさんも、成功されている大家さんは、きめの細かい入居者対応をしているんだなと、あらためて思いました。お二人とも大変勉強になる良いお話をありがとうございました。これからもいろいろ教えて下さい。(担当:T)