定期的に競売セミナーを開催し、日々、競売の相談を受けているドクターKである。毎月、競売で公開されていた物件の競売事例をシリーズとしてご紹介している。
今回、紹介する物件は中部地方の店舗物件である。裁判所から公開された資料では、家賃が215,000円の収入がある物件であり、落札後も継続して賃貸頂ければ、利回り30%。
さらに空き店舗も賃貸できれば、利回り70~80%も実現可能なハイリスクハイリターンな物件である。
但し、今回、競売対象の建物が2つあり、合計9店舗がある。そのうち、賃貸中は3店舗であり、6店舗が空きである。この空きの6店舗を賃貸することができれば、かなりの高利回りになる。
しかし、立地や賃貸ニーズを考えるとこの空室を埋めるためには、かなり難しい物件だと思う。このような物件も公開されていることをご参考に頂ければと思う。
1.物件概要
(1) 所在地
この物件がある市町村は、中部地方にあり、人口は約4万人、東京までの電車の移動は約2時間である。近辺には複数の温泉施設やスキー場が多数あり、スキーやスノーボードなどのウインタースポーツが好きな人はベストな地域だろう。
都心から移住してきた人々の中にはスノーボードが好きで移住してきた方もいる。過去、「住みよさランキング」の調査では、県内で1位(全国43位)であり、住みやすさの評価は非常に高い。
(2) 物件概要
物件は、2棟あり、1つ目は土地が263平米であり、床面積が325平米である。築38年、2階建ての鉄骨造の建物である。外観はタイル張りであり、1階と2階が全て店舗がある。
表の通りから少し裏に入ったところにあり、飲食店などの店舗向けである。最寄りの駅からは600メートル離れたところにある。
2つ目は、土地が253平米であり、床面積が257平米である。築33年、2階建ての鉄骨造の建物である。外観はタイル張りであり、1つ目と同様に1階と2階に全て店舗がある。
(3) 間取り、室内
間取りは以下の通りである。1つ目の建物は1階が3店舗、2階が2店舗であり、合計5店舗である。広さは場所によって異なるが、35平米~70平米ぐらいである。
2つ目の建物は1階が1店舗、2階が3店舗であり、合計4店舗である。広さは1階は130平米、2階は各店舗で40平米ぐらいである。
1つ目と2つ目の建物を合わせると、合計9店舗が入るかなり大型な建物である。
以下、室内の写真である。上段の写真は1つ目の建物、下段の写真は2つ目の建物である。各写真ともにカウンターがあり、水商売や飲食店向けの写真である。
2.物件詳細
(1) 賃貸契約の内容、関係者のコメント
裁判所の公開資料には賃貸契約の内容、賃借人のコメントが記載されている。以下、1つ目の建物の賃料である。5店舗のうち、3店舗が賃貸中であり、月額の合計賃料は215,000円である。2つ目の建物はすべて空き室である。
(2) 関係者のコメント
裁判所の公開資料には、通常、債務者、賃借人の関係者のコメントが記載されている。入札時点では、物件の部屋の中まで立ち入ることができないため、公開された写真や住んでいる方々からのコメントを参考に物件の状況を確認する必要がある。
重要な記載がされているケースもあるので、必ず確認しましょう。
(3) 執行官のコメント
裁判所の公開資料には、通常、債務者などの関係者のコメント以外に、裁判所の執行官のコメントも記載されている。執行官とは、競売などの裁判を進め、書類作成などを行う。
執行官は競売物件を確認した際、自らの意見も記載されているため、必ず確認しましょう。
(4) 物件評価の金額
裁判所から依頼された不動産鑑定士による競売の基準価格は以下である。
5,040,000円
上記の金額は、裁判所から依頼された不動産鑑定士によって、査定される。この金額は、一般流通市場の価格よりも安く設定される。理由は、この金額が一般流通市場よりも高いと誰も入札せず、競売自体が成り立たないためである。
3.落札結果
(1) 落札結果
落札金額は以下である。入札件数は1件であり、個人が落札していた。個人が落札しているため、転売ではなく、賃貸で運用していくのだろう。
8,200,000円
(2) 利回り
以下、利回りを計算する。また、修繕などのリフォーム費用は含めていない。満室時は、9店舗が全て賃貸できれば、利回りは70~80%以上になるだろう。
現賃料(裁判所からの公開資料)の利回り
落札金額 8,200,000円
月額家賃収入 215,000円
諸費用 300,000円(登録免許税や不動産取得税などの概算金額)
表面利回り 30%
4.最後に
本物件に関して、利回りだけ見れば、30%であり、優良な物件に見える。但し、難しい物件である。9店舗のうち、3店舗が賃貸中であるが、6店舗の空室を埋めることは苦労するだろう。
最寄りの駅から徒歩600メートルのところに位置し、駅近であることは長所である。しかし、裏道にあり、地元の人ならわかると思うが、観光客や県外から来た方にはわかりづらい。
例えば、店舗をやめて、貸倉庫や事務所など、幅広く賃貸ニーズに応えるような工夫が必要となるだろう。
貸倉庫だと、トラックの出入りを気にする方が多く、表の道幅が狭いので、難色を示す方がいるかもしれない。事務所だと駅近なので、家賃を抑えれば、賃貸できる可能性がある。
それでも空室が埋まらないなら、更地にして、土地として売却するという手段もあるが、建物がかなり大きいので取り壊すだけでもかなり費用が要するだろう。
上級者向けの物件に思え、このような物件もあることをご理解頂き、ご参考頂ければと思う。
過去の競売事例のシリーズはコチラから
執筆: