タクシーの足りない地域や時期・時間帯限定で認める
普通免許のドライバーも可能 運行はタクシー会社担う
一般のドライバーが料金をとって客を車で送迎する「ライドシェア」が今年4月、部分的に解禁される。
運行管理を担うのがタクシー会社であるなど、本来の意味での全面解禁にはまだ遠いが、これまでタクシー業界の猛反発でなかなか実現しなかった改革が、ようやく緒についたといえる。
今後、ライドシェア解禁の範囲が広がれば、ドライバーの人手不足に悩む地方でも交通の利便性が良くなり、人が住みたいというニーズが高まる可能性がある。不動産投資の戦略にも影響が出てくるので、今後の改革議論に注目していきたい。
4月から解禁されるライドシェアは、タクシーが足りない地域や時期、時間帯に限って認める。対象エリアは、配車アプリへの対応車両が70%を超える地域とする。運賃はタクシーと同じにする。需給によって運賃が変動する「ダイナミックプライシング」は導入しない。
運行の管理はタクシー会社が担い、海外のようにアプリ事業者などの参入は認めない。ただし、アプリ事業者がタクシー会社を買収するようなケースは認める。ドライバーの教育や事故が起きた時の責任もタクシー会社が負う。タクシー会社以外の業者の参入を認める全面解禁については、引き続いて議論を進め、6月までに結論を出す。
都市部は急な雨天や大型イベントの開催を想定
過疎地では今の自治体などが行う有償旅客制度を拡充
タクシー不足の地域や時間帯などは、タクシー会社の配車アプリのデータなどをもとに算出し、一定の基準を超えた場合に認める。
都市部では、急な雨天のときや公共交通機関が止まったとき、大型イベントが開かれるときなどを想定。観光地においては、観光客が多いシーズンを見込んでいる。
ドライバーは、普通免許を持つだけの人が担うことを限定的に認める。現在は原則、道路運送法により、第2種普通免許をもっている人しか有償で客を送迎できないので、この例外を認めることになる。
ライドシェアのドライバーとして働きたい人は、前もってタクシー会社に働ける日時を伝えておき、要請が暮れば働く仕組みとする。
一方、過疎地については、現在、例外的に認められている「自家用有償旅客制度」を拡充する。
この制度は、バス、タクシーだけでは十分な移動サービスが提供されない過疎地域などで、住民の日常生活における移動手段を確保するため、国土交通相の登録を受けた市町村、NPOなどが自家用車を用いて有償で運送するというもの。
すでに、兵庫県養父市や京都府京丹後市で導入している制度で、これをいくつかの点で拡充する。
たとえば、この制度では、運賃はタクシーの約半分としているが、これを8割程度とする考えだ。また、運行を株式会社に委託できるようにもする。
海外では早くから普及 日本はタクシー業界が抵抗
大阪府は万博時の実施求める 本格導入へ自治体後押しか
こうしたライドシェアは、海外ではアプリ事業者などが手広く手掛け、早くに普及した。筆者の知人も5年ほど前、ブラジルに出張へ行ったとき、空港で簡単にアプリでライドシェアの車両を呼べ、目的地にもスムーズに行けて驚いていた。
しかし、日本では、乗客を奪われることなどを危惧するタクシー業界の猛反対でなかなか導入されなかった。
今回は、新型コロナウイルス禍の収束で起こるであろうインバウンドの急回復や、地方の過疎化が進むことで予想されるタクシードライバーの人手不足に対応するため、ようやくライドシェアが一部解禁されるものだ。
ただ、運営主体が基本的にタクシー会社とされるなど、タクシー業界は必死で、できるかぎりのみずからの権益を守った。今後、本格解禁され、タクシー業界以外からの新規参入が進むのか、議論の行方が注目される。
なお、大阪府は来年4月から10月までの大阪・関西万博期間中のライドシェア解禁を求めており、1月29日の政府の規制改革推進会議の作業部会には吉村洋文知事が出席して、目指すライドシェアの概要を説明した。ドライバーは雇用される形に限らず業務委託も可能とし、府内全域で時間を限らず行うという。
こうした地域限定でのライドシェアを求める動きは、今後、いろいろな自治体から出てくる可能性がある。政府がこれを認める動きが相次げば、全国的な本格解禁の弾みになるだろう。
今後、ライドシェアの導入がすすめば、人口が少なく住宅需要が少ないとみられていた地域の人の流れが変わり、需要にも変化が生まれてくる可能性がある。
都市部でも、ライドシェアの普及が後押しになり、インバウンドや国内からの旅行客が増えれば、やはり人やお金の流れが拡大して、不動産投資の追い風になるはずだ。
賢く不動産投資戦略を展開するため、一見縁遠さそうなライドシェアの行方などにも気を配っていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)