今は家賃保証会社が普及してきたので、家賃滞納など、入居者の支払いに関するトラブルは減ってきたように思います。
しかし、やはり人間が住む以上、すべてスムーズに行くとは限りません。私も先日、裁判を経験しましたので、その時の経験をシェアさせていただきます。
■築古戸建で起きた不具合と短期間での退去
舞台は地方の築古戸建です。購入金額とリフォーム代は合計約260万円で、全て現金で払いました。
入居付けはスムーズに進み、順調に行けば利回り20%弱での運用が見込まれました。ところが、入居が始まると小動物が作った巣を撤去したり、トイレの下水配管をやり直したりという工事が発生しました。
数か月で一年分のキャッシュフローが出ていきました。さらに残念なことに、入居1年で「退去」の連絡が届きました。管理会社さんと協力して不具合には都度対応していただけにショックでしたが、仕方ありません。
そして入居者さんが退去した後で、管理会社さんから、「退去時の清掃費用の約5万円が振り込まれていない。元入居者の方に電話を入れても返事がない」という連絡がありました。
家賃保証会社に加入していたのでそれでカバーできるだろうと思ったのですが、管理会社さんは、「保証会社に確認したところ、退去後の清掃費用は保証の対応外と言われた」と言います。
困りました。管理会社さんが何度電話をしても折り返しはありません。引越し先の住所へも何度も行ってもらいましたが、会えませんでした。私は管理会社さんにこれ以上の対応をお願いするのは難しいと判断しました。
こういった事を後回しにすると、ずるずると時間だけが過ぎて、うやむやになってしまいます。そこで、すぐに裁判所の準備を始めました。
■5万円の未払いがある元入居者に「支払い督促」を申し立てる
トラブルが生じた際は、当人同士が話しても、感情的になってこじれがちです。そういった時は、きちんとした手順を踏んで、裁判所などのプロに判断を任せることが大事だと思っています。
いずれにせよ、大家としては素早い判断をして、打つ手を決めることが大切です。実は以前、別件の家賃滞納トラブルで、「民事調停」を申し立てた事があります。
民事調停は手続きは簡単でしたが、お互いの話し合いで解決を目指すもので、簡易裁判所はサポートするような形でした。相手が裁判所へ出頭しないことや、話し合いがまとまらないケースもあります。
そんな時に、裁判所の窓口の担当者さんから、「支払い督促」という方法を勧められました。詳しく聞いてみると、支払督促は民事調停と違い、申立人(私)の申し立てに基づき、簡易裁判所の書記官が金銭の支払いを先方に命じてくれるとのこと。
そして、相手方がそれでもお金を払わず、異議申し立てもしない場合は、強制執行を申し立てる事も可能。つまり、何らかの解決を図れる可能性が高いと判断しました。
そこで早速、支払督促を申し立てることにしたのです。用紙への記入方法は窓口の方が丁寧に教えてくれました。
数週間後、簡易裁判所の書記官の方から電話がありました。被告(元入居者様)から異議申し立てがあったと言います。内容は、「金銭を支払う意思があるが、分割払いか指定した期日まで待って欲しい」というものでした。
書記官の方は、「被告の携帯電話番号を伝えるので、この先どのようにするかは直接話し合ってみて下さい」と言います。まさか直接話すように言われるとは思ってはおらず、驚きましたが、従うことにしました。
裁判になるまで、相手は約束したお金を払わずに連絡もよこさなかったことを考えると、腹立たしい気持ちもありましたが、絶対に冷静に話すという事を決めて、伝える内容をまとめてから、電話をかけることにしました。
伝えられた番号にかけてみると、しばらく呼出が鳴った後、「誰?」という感じで応答がありました。私が、以前住んで頂いた戸建の家主であることを伝えると、一気に相手が身構えた様子が電話口から伝わってきました。
これまで数か月間、管理会社からの連絡も一切無視し、民事訴訟にまでなっている相手方からの、いきなりの電話です。どんなことを言われるだろうと相手も警戒したのでしょう。
自分は真っ先に、入居中に様々な不具合を起こし、快適な住まいを提供できなかった事に対してお詫びしました。そして、これまで入居頂いた事への感謝を伝えました。
普通は、訴えを起こしている原告から被告に謝るのはおかしいのかもしれません。対応としては間違っているかもしれません。ただ、その時の自分は、そうしたかったから自然とそのような言葉になりました。
すると、相手の態度が軟化したのを感じました。そして、電話に出た時の態度とは打って変わり、向こうからも謝罪の言葉を聞く事が出来ました。
■簡易裁判所から届いた「和解」の通知書
結局、相手が期日を決め、それまでに一括で支払ってもらうことになりました。その内容を担当書記官へ伝え、話し合いは終わりましたが、形式上、簡易裁判所の指定した期日に裁判所へ出頭し、法廷で口頭弁論を行う必要があるとの事です。
これも初めての経験です。ニュースなどでよく目にするあの法廷に、自分が原告として立つ日が来るとは、不動産投資家を目指していた時には夢にも思いませんでした。少なくとも会社員を続けていたら、こんな経験はしなかったと思います。
ただ、事前に書記官の方から連絡があり、被告は指定した期日には予定があり来られない事、話し合いも済んでいる事から、原告(私)ひとりが出頭する形になるとの事でした。
当日、緊張しながら法廷に入ると、私と同じように原告の面々が同時に入廷しました。いくつもの事件を順番に行うようです。周りを見ると、どうやらほとんどの人が家賃保証会社の社員さんという事が分かりました。家主は恐らく私だけで、どの事件も被告は来ていない様子でした。
順番に法廷証言台に呼ばれ、内容を読み上げられ、次々に処理が進みます。私の番も無事に終わり、後日簡易裁判所から「和解」の通知書が送られてきました。
そして、その数か月後には、元入居者様からも入金がされ、このトラブルは解決に至りました。
今回の事をキッカケに、家賃保証に加入する際には、保証される内容だけでなく、保証されない内容についても、きちんと理解することが重要だと実感しました。
また、建物不具合はその都度対処して解決したつもりでも、入居者様の不満は積もっているという事も忘れないでおこうと感じました。同時に、どんなトラブルも大家が自分事として向き合うことの大切さも噛み締めました。
未払いの金額は5万円でしたが、「支払い督促」を行ったことで、たくさんの学びを得ることができました。
5万円の請求に対して労力をかけるのは割に合わないという考えもありますが、この時はまだ支払い督促をした経験がなかったので、「一度、どういうものか経験してみて今後に生かしたい」という気持ちが強かったです。
そして実際に、経験してみて良かったと思っています。
今後とも、何かあった時は諦めずに、解決に向けて行動していきたいですし、その前に、トラブルを未然に防ぐ経営を心掛けていこうと誓いました。