前々号の「全国の築年別賃料格差を調査。 新築の家賃が「30年で4割減」に?)」の記事のように、新築の家賃相場が非常に高い。その高い家賃相場を支えているのが、「ネット無料」物件の存在だ。市場ではどのくらい、ネット無料物件が浸透しているのだろうか
■新築93.4% 築1-5年84.4%がネット無料
賃貸物件に「インターネット無料」が登場したのは、つい最近のこと。10年前は、「ネット無料で募集」といったことは、賃貸経営ではピンと来なかったのが実情だ。
どのくらい浸透したのだろうか。全国1道1都2府43県の県庁所在地最寄の単身物件について、SUUMOに掲載されている物件がインターネット無料かどうかを、プリンシプル住まい総研で調べた。(2023年7月13日スーモ掲載物件・一戸建てを除くRCおよびアパート)。各地域で、実際に検索して調べたのだ。単身物件の定義は、ワンルーム・1K・1DKに限った。
新築では、93.4%。築1-5年84.4%がネット無料と、ここ5年以内の賃貸物件の建設では、当然のように、インターネット無料が採用されていることがわかる
■築5-10年では52.5%
一方で、築5-10年の物件では、52.5%であった。エリアによってバラツキが出ているが、思い起こすと、10年前ぐらいは、「ネット無料で建設」というとかなりの先駆者。私自身、毎月のランニングコストが発生するネット無料での新築建設は、相談されると利回りに影響するため、やや躊躇する設備であった。
「自宅にモデムを用意すれば十分では」あるいは「スマホやiPadで、携帯電話の電波で十分では」といった意見も当時はあった。
実際には、スマホは「パケットし放題で通話代がかかる」というメニューから、「通話し放題でパケット代を請求」と移行。いわゆる「パケホ」と呼ばれるパケットし放題は、かなり月額料金負担が上がっている。
Amazon PrimeやYouTubeなど動画配信サービスもこの10年で加速度的に増えたが、当時はここまで普及するとは考えられなかった。
■子供たちが、動画配信を見る時代
今日では、TVアニメのキャラクターグッズと同じように、YouTubeのキャラクターグッズがおもちゃ屋さんで売られていたりする。
もはや、戦隊ものや変身美少女よりも、小学校ではユーチューバーの話で盛り上がるそうだ。親たちも、料理中で子供から多少目を離したいとき、あるいはレストランで食事が運ばれるまでの時間や新幹線の移動時間などで、Amazon PrimeやYouTubeなど動画配信サービスを見せていたりする。
最新のTVのリモコンでは、Amazon PrimeやYouTubeのボタンが付いているぐらいである(もちろんネット回線経由でないと視られない)。
■背中を押した、コロナ禍
こうした背景で、ネット無料物件が新築を中心に普及していったが、そこにコロナ禍という変化が訪れた。
政府は「7割のテレワーク」を企業に要請し、一気にZoomなどでの会議・会合が浸透し、築古物件でもネット無料が空室対策として有効性を増した。
特に、大学生は、必須となった。各大学はオンライン授業にかなり移行し、バイトも部活も自粛。下宿先からネット接続で授業を受ける事ととなった。大学周辺の物件は、ネット無料物件でないと入居が決まらなくなり、急速にネット化にシフトした。筑波大学周辺・金沢大学周辺・新潟大学周辺など、各地でオーナーセミナーを開いたが、セミナー前に調べると、7-8割、時には9割の単身物件がネット無料となっている。
アフターコロナで、オンライン授業の比率が減り、キャンパスに活気が戻っている。しかし、その一方で、就職活動はオンラインで会社説明会や面接。相変わらず、学生も社会人もネットは生活の必須アイテムである。
就職活動では、オンライン面接が当たり前に。アフターコロナでも遠隔地の企業の受験が可能と学生から評判がよく、企業としても会場の手配などの手間が削減できている。
カメラ目線が「上から目線」にならないように、パソコンを上にあげたり、写真のように自撮りカメラを別に設置したりと学生は工夫している。
■築10-20年では ネット無料は23.4%、築20-30年で30.2%
築古物件は、もちろん、建築時にはネット無料ではない。物件によっては、ネット回線を引っ張るための配管すらないものもある。そんな中、オーナーがネット代を負担して、「ネット無料」として、空室対策をしている物件が増えているのだ。
20%~30%の物件で「ネット無料」に、このゾーンの物件が空室対策をしていることは、大きな変化である。おそらくは、かつての「バストイレ別」「室内洗濯機」のように定番化していくことは間違いない。
考えてみれば、分譲マンションには、「ネット無料」はない。負担するオーナーがいないからだ。そう考えると、住宅設備は、「賃貸」と「分譲」では別の道を歩み始めているともいえる。今後は普及したネット回線を活用した、例えば見守りやネットワークカメラなどのIoTは、賃貸のほうが普及しやすいかもしれない。
■ネットを無料にして「家賃が上がる」エリアと「決まらない」エリア
さて、「入居者がネット無料」ということは、オーナーがネット代を負担している。こうした際は、全部屋分をオーナーがまとめてネッ会社と契約する「全戸型」となっており、かなり格安になっている。
入居者個人がネットをひけば、5-6,000円するインターネットが、全部屋まとめてであれば、工事も一括であり、1,000円-2,000円/月・戸あたりとなる。
この分を「オーナーが負担している」が、最近はインフレ。この分は次の募集賃料をあげているオーナーが多い。
入居者にしてみれば、5万円の家賃+自己負担のネット3,000円なら、生活費は5万3000円。だったら、5万1,000円の家賃のネット無料物件ならば、2,000円の得。オーナーは1,000円のネットであればランニングの出費はゼロであり、WIN-WINということになる。
一方で、「この辺りの物件は、ほとんどがネット無料だよ」となると、「ネット無料にした」からといって、ほか物件との優位性があるわけではなく、家賃を上げるどころか、それだけでは空室が埋まらない、ということも発生している。
すなわち、「空室対策はネット無料にすれば万全」でもなく、エリア毎の浸透度によるのだ。
全国各地の調査を行ったが、「大学の前はこうだ」「あの工場の周辺はネット無料が多い」などミクロで戦略は異なってくる。
まさに空室対策は新時代を迎えていると言える。
執筆:
(うえののりゆき)