新築の家賃が高い。その一方で築古の家賃は下がり、格差が拡がっている。
そこで、どのくらい格差があるのかを、全国県庁所在地の単身物件で比較してみた。すると・・・
■築古は人口減少で空室増を反映し、家賃下落。
新築は、建築費高騰を反映し、家賃高騰。
「新築の家賃が高くてなかなか決まらない」という声を聞く一方で、「築古はもう家賃を下げて募集しないと難しい」という声も聞く。
では新築と築古ではどれくらいの家賃の差があるのだろうか。
うなぎの特上・上・並や、牛丼の特盛と並の価格差は、「材料の量」と「価格差」の違いではあるが、倍はしない。
しかし、全国で講演をしていると、家賃は、「新築」と「築古」でかなり価格差が拡がっている。「この地域では、築30年になると、新築の半額の家賃になってしまいます」ということがよくある。
まさか、30年前に建てた時に、半額の賃料まで下がるという計画をハウスメーカーから提示されたとは思えないが、昨今はそれほど賃料差が激しい。これは、人口減少で「築古が下がった」という要因に加え、建築費高騰で、「新築が高い」ということも影響している。
■1道1都2府43県の県庁所在地の
単身物件の築年別家賃
では、どのくらい格差があるのだろうか。調査は、物件数ナンバーワンサイトの募集賃料をベースに、アパート・RCのワンルーム・1K・1DKに限り、県庁所在地を最寄り駅とする物件で比較した。調査結果が下記である。
札幌のみ築年との相関関係がみれなかったが、それ以外の地域では、見事に、「築年が古くなる」と「募集賃料が顕著に下がっている」傾向がみられる。
■「平均賃料」のマジック
新築が多いエリアは平均賃料が高くなる
これだけ、「築年」と「家賃」の相関が激しいと、「平均賃料」という概念があまり意味を持たない事にも気が付く。
「新築が高く、築古が安い」という現象が激しいので、「新築が多ければ平均賃料が高く見える」し「築古が多いと平均賃料が低く見える」のだ。例えば、金沢の平均賃料3.7万円に対して、福井は4.2万円で「高い」ということも出来るが、実際には、金沢の新築は6.4万円・福井の新築は5.9万円。金沢のほうが築古物件が多いことで平均数字が下がって見えるというわけだ。
■「新築」と「築30年以上」では、
全国平均42.3%の価格ダウン
「新築」と「築30年以上」で、どのくらい差があるのだろうか。
ここまで述べたように、「最近の新築がこれまでの相場よりも高い」ことと「築年を経ると競争力が落ち家賃が下がってしまう」というふたつの要因があるので、両者を単純に比較して、「今の新築も30年後はこんなに下がりますよ」と言ってはいけない。とはいえ、この格差をシンプルに比較してみた。
すると、山形・福島・水戸・前橋・金沢・甲府・岐阜・津・奈良・高松・松山では、新築の半額の賃料で築30年の物件が募集している。
新築の募集賃料が「高すぎる」という声はこうしたエリアで多く聞かれる。建築費は全国どこでも高い。となると新築が強気の募集賃料となっていることがうかがえる。
また、東京(便宜上、東京駅・新宿駅・渋谷駅最寄り物件で算出)は確かに高い賃料設定であり、他のエリアの倍の家賃という特殊な相場であるが、千葉埼玉横浜、あるいは名古屋や大阪は、他の県庁所在地と比較するとそこまで家賃設定に差はなく、むしろ「築30年以上の物件の家賃下落が地方ほど大きくはない」ということもわかる。
■築30年越え物件の
空室におけるシェア
この調査の過程で、「平均賃料」に対して、「家賃の低い、築30年越えの物件の多さ」の影響力が強いことがわかった。そこで、築30年以上の物件が、各エリアでどれだけあるかも調べてみた。
全国平均では、35.1%が築30年越え。30年前といえば、バストイレ一緒が当たり前。バブル絶頂で建設された物件が今、空室となって空いており、家賃を下げて募集をせざるを得ないのだ。
札幌・長野・下関では、なんと募集物件の過半数が築30年以上の物件となっている。当然、平均賃料を引き下げる要因となっており、北海道・長野・山口は闘い方の難しいエリアである。
一方で、関東・関西・東海圏では、築30年以上物件の募集比率が少ない。人口流入が多く、空室が少ないという事と、物件の建て替えなど新陳代謝も進んでいることが推察される。
■平均賃料より
4割高い、新築の賃料
ここまで述べたように、「平均賃料」は「築古の比率の影響値が大きい」ので単純比較すべきではないが、ともあれ、新築の募集賃料との差を見てみた。
すると、この表のとおり、全国平均では「平均賃料よりも41.9%も高いのが新築の賃料」ということになる。倍とは言わないが、1.4倍は賃料差がある。
■では、対策は?
全国で、新築は平均の1.4倍の家賃。そこから、築10年・20年・30年で、1万円単位で家賃相場が下がっている。一方で、世の中はインフレ。下げて募集するだけでなく、なんとかこのダウントレンドは食い止めたい。
新築~築5年の築浅物件は、主要な人気設備はもうついている。これまでは「新築である」ことが魅力のひとつであったが、もう一工夫の設備強化が必要だろう。例えば、ネットワークカメラやTVモニタフォン、あるいは防犯システムやIoTなどの新しい設備強化策である。顔認証のような利便性の高いものかもしれない。
築5-20年の物件は、新築時にはなかった「インターネット無料」「宅配ボックス」などの設備強化が必要だ。逆に言えば、今、新築についている設備をアドオンすれば、新築の相場が高いので、そこまで家賃を下げなくても入居が決まる事が期待される。
築20-30年の物件は、温水洗浄便座の設置が望ましい。このあたりの物件は、建設時にさほど温水洗浄便座付の賃貸が普及しておらず、トイレの電源の問題もあり、普及が遅れている。
築30年以上の物件は、バストイレ一緒の物件が多い。畳の部屋も多く、物件設備は見劣りする。「バストイレを別にする」「2DKを1LDKにする」「キッチンの入れ替え」など、設備だけでなく、リフォームリノベーションの必要があり、場合によっては、外国人・高齢者・生活保護受給者など、幅広く募集を受け入れる事も視野に入れていく必要がある。さもなくば、大規模リノベや建て替えなども、ここまで家賃が下落していれば検討すべきである。
空室対策は、物件の築年と賃料相場を予測しながら、人口動静も鑑みて慎重にすべきタイミングなのだ。
執筆:
(うえののりゆき)