こんにちは、半沢大家です。今年もよろしくお願いいたします。
無事去年一年間、健美家コラムニストとしての活動を継続し、今年を迎えることができました。
ただし、すでにネタ切れの魔の手はすぐ後ろまで来ているため、今年も存分に不動産活動に勤しみ、健美家コラムでいろいろな出来事をご報告できるよう頑張りたいと思います。
さて、今日は新年にふさわしくない銀行の怖~い話から書いていきたいと思います。(当時の嫌な記憶がよみがえりますが、たまにはこういう感情を思い起こし、今の恵まれた環境に感謝するのも大切なことですね・笑)
以下、この物語はフィクションと思って聞いてください(笑)
■期末に他行から1億円の振り込みが!
忘れもしません、初めての転勤をして迎える最初の期末です。
私が担当していた「A建設」はうちの銀行をサブメインとする建設会社でした。
社長は多忙からかめったに事務所にいないため、社長の奥さんとの面談がメインで、経営陣の高齢化もあり、最近は新しい資金ニーズは無い先です。
当行での借り入れはアパート資金1本のみ、他ほとんどの大きな融資は第二地銀であるメインバンクのB銀行から借りていました。
そんなA建設の銀行口座に3/31の朝、突然1億円という資金が振り込まれます。(銀行は大口の資金移動をチェックしており、特に期末は1日のうちに複数回チェックするのです)
これが何を意味するか。
そうです。他行からの「借り換え」です。
1億円の入金に気づいた預金係はすぐさまその事実を役席に報告します。
「A建設の担当者は誰だ!!!」
営業次長が叫びます。
「はい、私です!」
入行4年目の私は答えます。
「被肩(被肩代わりの略。他行から借り換えをされることを指す)だ!すぐに社長に電話しろ!」
と上司からの指示が飛びます。
すぐさま社長に電話をすると、社長はこう答えます。
「すまないけどB銀行で借り換えることにしたよ。今そちらに向かっているから手続きをよろしく」
社長が支店へ到着後、次長と私で応接室に入り、必死の説得を試みるも社長の意志は固く、振り込まれた資金で1億円の繰り上げ返済が実行されました。
・・・さて、これで私がどれほど詰められたかはご想像にお任せします。
ともかく、このイベントの発生により銀行で一番気にするノルマ「末残(期末時点の融資残高)」を計画から1億減らしての着地となってしまったわけです。
(こういうイベントを繰り返し経験することも要因となってか、「銀行員の寿命は一般人より10年程度短い」と先輩に教わりました。)
とにかく、融資の取引先は限られるため、限られたパイを取り合うように金融機関同士の競争は苛烈です。地方は特に顕著かもしれません。
■振り込まれた金は振り込み返す!金利引き下げだ!
やられっぱなしの話ばかりではありません。
先ほどのケースでは社長の意志が固く、逆転はかないませんでしたが、被肩も慣れてくるととっさに反撃を行うこともできます。
「社長、C銀行の借り換え金利は1.0%ですよね。当行の金利を0.8%へ下げます。本日中に審査部の承認を取るので、承認となったら振り込んだお金をC銀行に返送してもらえますか?」
こういった説得により、「数字」を見て借り換えをしてきた社長は再びこちらに傾くことも多々あります。(ただし、0.8%まで下げられるかは担保による保全、決算書の格付け、総合取引など様々な要因である程度評価されている必要がありますが)
極端な話、こっちの銀行の黒字がほぼ0でも他行に取られるくらいなら金利引き下げを行う、というケースもありました。
■やられたらやりかえす!倍返しだ!
私は普段セミナーなどで「現実の銀行には半沢直樹はいません。銀行員は上司に逆らったりしません。」と伝えていますが、ある場面においては「倍返し」は頻繁に発生します。それは銀行間の戦いです。
先の「A建設の借り換え」においては支店のダメージも大きかったので、4月からは支店長の命令によりあるキャンペーンが行われました。
それは「B銀行限定★春の借り換えキャンペーン★」です。
当行の既存取引先、かつ優良先の決算書を全て洗い、金利の高いB銀行の借入を全てリストアップし、借り換えの店内協議書を支店全員で作成しました。
10年前くらいの記憶なので正確には覚えていませんが、3~4件くらいの肩代わり提案は成立したような気がします。(念のため繰り返しますが、この物語はフィクションとして聞いてください)
■借り換えを行うステージについて
思い出話が多くなってしまいましたが、この話を通じて認識していただきたいのは、
・銀行間の競争が苛烈であること
・期末でのノルマに対する執着が凄まじいこと
・審査において特別な熱意(反撃など)が結果を変える可能性があること
つまり、いずれの話においても、生かすも殺すも自分次第ということです。
不動産賃貸業の経営者としては少しでも良い条件で資金調達を行ったほうが良いわけですから、こういった銀行側の事情を理解しておくに越したことはないと言えるでしょう。
また、当時の入行4年目の私はそこまで考えが回っていませんでしたが、今自分が融資を受ける立場になってみると、借り換えって経営者のカラーが出るなあと感じています。
A建設の事例は、後継者である息子たちに向けて、少しでも良い融資条件を残すと同時に取引行のスリム化を図ろうとした社長の気持ちの表れと言えるかもしれません。
不動産賃貸業として規模拡大を図るうえでは、借り換えなど行わず、取引銀行の数を広げたほうが有利であることが多いでしょう。金利を下げたければ、借り換えまでは実施せず、既存借り入れの金利引き下げが落としどころとしてはベストだと思います(借り換えをすると諸費用もかさみますから)。
いずれにしても、借り換えは諸刃の剣です。「取引行を一つ無くす」というリスクを十分認識したうえで、戦略を練ったほうが良いと思います。
今回は以上です。
また来月お会いしましょう!