皆さんお久しぶりです。2020年12月に「DIY大家さんに知ってほしい安全対策」を書かせて頂いたシアンです。その後X界隈では大きなケガのポストも見ることなく私としては執筆してよかったと思っております。
さて、土木屋の私が今回、再び筆を執ろうと思ったのは、「擁壁」に関して専門的に聞ける人が身近に居ない事で、絶対に買ってはいけない物件を買ってしまっている人が見受けられたからです。
土木と建築は同じ建設業として一括りにされがちですがまったく違う分野です。地面より上が建築・地面より下が土木と棲み分けしていただけたら分かりやすいかと思います。
今回取り上げる擁壁は地面より下の話なので土木の属性がより高い内容です。
その前に、初めましての方も多いと思いますので自己紹介をさせて頂きます。高卒から建設業(土木)に従事して22年が経過しましたシアンと申します。
1級土木施工管理技士の資格を保有しており、現在は地場建設会社から独立して大手ゼネコンの施工管理業務を担う仕事をしています。その他、趣味が高じてコーヒーの焙煎屋もしています。
保有している不動産物件は、築古戸建てがメインで事業利用が2戸・賃貸3戸(売却予定1戸)です。起業して本業の方に注力していますので、不動産の購入ペースは遅いです。
ファミリー向けの戸建てを主軸に、本業売り上げの底支えを狙ってやっています。事業として10年生き残れば一つの形になるかと思い、気長にやっています。
今回のコラムも写真・図説も交え長文になりますが、お付き合いいただけたら幸いです。
それでは本題ですが、
第1章 擁壁を見るポイントの実例
第2章 なぜ擁壁を作らないといけないのか?
第3章 擁壁の種類・特性・安全性の見極め方
第4章 コンクリート構造物の点検と異常の見極め方
の4項目で書かせていただきます。
■第一章 擁壁を見る時のポイントの実例
突然ですが問題です。
第1問)
写真の擁壁は、一見異常がない擁壁に見えますが重大なリスクを抱えたまま現在に至ります。それは何か考えてみてください。
正解は・・・・
赤の範囲はすべて擁壁の構造として不適合です。
建築ブロックで土留めをするなど、土木屋の視点で見ればありえません。
100歩譲って基礎の根入れを直高の1/3埋めているもしくは、この土留めの最下段から建物の基礎までの離隔が安息角30°内にあれば、何かあったとしても住む家は守れるでしょう。
しかし、緑の位置で建物との離隔を見ると60°ぐらいはあるでしょう。崩れれば建物も一緒に被災します。左の家に崩壊した擁壁が被さるのは時間の問題です。その兆しとして黄色のラインにクラックが入ってきていて変状が表れています。
絶対に購入してはいけない擁壁物件の1つです。(安息角については後で図面を利用して説明します。)
第2問)
このブロック積みは緊急性の高い異常が見られます。
それは何か答えてください。
正解は・・・・
赤の範囲は間知ブロック積みがズレて、いつ倒壊してもおかしくない状態です。その原因は黄色の立木の根がブロックの背面から押してきているのが原因です。またこのブロック積みに近づき割れたところを点検してみたところ・・・
胴込コンクリートが充填されていませんでした。この擁壁は作られてから30年ぐらい経っていそうです。この工事はかなりずさんな管理で仕上がっています。現在の公共土木はずさんな管理をしていませんからご安心ください。(後で図面を利用して説明します。)
第3問)
最後の問題です。
次の擁壁は対策を打たないと危険な状況となっています。
どこが問題でしょうか?
答えは・・・・
重力式擁壁が土圧で押されて2㎝ほどズレていますね。そして、水抜き穴の数が少ないです。
構造的に手堅い「重力式擁壁」が傾いてしまっています。
これは、想定されている地盤の反力(地耐力)が得られていない(施工ミス)、背面土圧の摩擦角の設定ミス、山の高さ(Ho)の設定ミス(設計ミス)、水抜きの本数が3㎡に1か所しかない事による地下水位の上昇による内部摩擦角の低下(施工ミス)、と複合的な要素が重なってしまったからでしょう。(下の図面をご参照ください)
外観で擁壁を見るポイントは限られてますので、写真で説明したような「擁壁の異常」を洗い出せれば、擁壁物件のリスクが減らせます。
淡々と点検して、異常が見つかったら購入の土台から除外していくことで擁壁物件も怖くない、ということになるでしょう。
明日の第2章では、「そもそもなぜ擁壁を作らないといけないのか?」について説明します。ここを理解していくと擁壁を見る目が鍛えられると思います。ぜひご覧になってください。