鉄道の高架下と言えば、駐輪場や駐車場、さらには飲食店など、さまざまな形で活用されるスペースだ。
東京都内であれば、JR有楽町駅から新橋駅間には老舗の居酒屋などが建ち並び、今年9月には新たな商業空間「日比谷 OKUROJI(オクロジ)」がオープン。
東急なら東横線の中目黒駅、池上線の五反駅~大崎広小路駅間にオシャレな店舗、東京メトロ千代田線の綾瀬駅の高架下にもメトログルメ・ショッピングセンターが連なる。JR東日本は武蔵小金井駅~東小金井駅間に学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」を今春オープンした。
こうした利活用の進む高架下だが、東京・大田区にある梅屋敷近辺にも、ユニークな施設が昨年4月に誕生し、今後はますます進化するという。
同所と言えば城南地区のザ・下町で、商店街や工場、住宅が集積するエリア。単身者・ファミリーが多く暮らしていて、住民が集まりやすい施設が生まれたことで、地域の魅力は高まるに違いない。
京急蒲田駅の隣にある各駅停車駅
「梅屋敷」という住所は存在しない
梅屋敷駅は、東京都港区から神奈川県の三浦市に至る路線を運営する京浜急行(京急)のうち、本線・大森町駅と京急蒲田駅の間にある各駅停車駅。かつて、風邪薬と梅見で有名な「梅屋敷」という商家があったことからこの駅名になったそう。
駅のホームの壁紙は梅をイメージした薄ピンクで、梅の花のイラストが描かれている。周辺に梅屋敷の名を冠した住所はなく、駅の所在地は大田区蒲田2丁目だ。
1日の乗降者数は年々増えているが、およそ1万6000人。都内にある京急本線の14駅のうち、北品川駅、鮫洲駅、大森海岸駅に次いで、4番目に少ない(2018年度)。もともとは地上駅だったが、現在は周辺駅と共に高架化している。
駅前には商店街があり、普段の買い物なら十分な感じ。繁華街が広がる京急蒲田駅やJR蒲田駅方面へも歩いていけないことはない。周辺には個人商店、住宅、町工場が広がっていて、昭和の雰囲気がいまだ漂う感じだが、昨年4月に梅屋敷駅~大森町駅間の高架下で「梅森プラットフォーム」という、京急が運営する複合拠点がオープンしていた。
梅森プラットフォームは、京急沿線が潜在的に持つ、ものづくりの可能性を最大化し、新たなカルチャーとクリエイティブを生みだす拠点として誕生した施設だという。地域との関係を深めるプログラムや空間を提供することで、周辺エリアを活性化させるのが狙いだ。
同所では「クリエイター」「ファクトリー(工場)」「リテール(商業)」の3つのプログラムをひとつの単位としいて開発を進めている。
現在は、神奈川県拠点のパン工房や、地域の不動産会社が営む、地元名店のクリームモナカを提供するカフェ、コワーキングスペースやデジタル工房・スタジオ・シェアキッチンなどを擁するインキュベーションスペースがテナントとして入り、精密金属加工や産業用の純水装置を手掛ける会社も拠点を構えている。
こう聞くと、他のエリアの高架下と同じように買い物や食事を楽しんだり、オフィス用途として活用されているだけと思うが、梅森プラットフォームでは、親子で参加するものづくりのワークショップやアーティストと町工場がコラボした展示会、モノづくりを議論するトークセッションなど、人が集まり人と人をつなぐイベントを開催しているのが特徴だ。
単なる商業、ビジネススペースではなく、地域コミュニティとして活用することで、まさにエリアの活性化につながるだろう。
昨年4月に梅屋敷駅に第1ユニットが開業し、今後は大森町駅に向けた第2ユニット以降の計画が進められるという。テナントがさらに増えていくことで駅周辺の様子は変わり、昭和と令和の雰囲気が混在する街になっていくだろう。こうした施設が、訪れたい・住みたい人を増やす可能性がある。
さらなる進化が楽しみだ。
健美家編集部(協力:大正谷成晴)