品川-名古屋間の開業は2027年から「2027年以降」に変更
東京都と大阪府を、時速500㎞で走行する超電導リニアモーターカーで結ぶ「リニア中央新幹線」。現在は品川-名古屋間(286㎞)の工事を進めているが、静岡県の川勝平太知事が県内の着工に難色を示しているのは、周知のところ。
昨年12月にJR東海は、2027年としていた同区間の完工時期を「2027年以降」に変更すると決め、国土交通相に認可を申請した。これにより、開業時期は実質的に延期する見通しだ。
工事に伴うネガティブなニュースが目立つが、リニア中央新幹線が開業することで移動時間の短縮など、プラスの効果があることはまぎれもない事実だ。
それを示すため、国土交通省交通局は静岡県内駅の停車頻度の増加や経済波及効果などについて調査分析を行い結果を報告。東海道新幹線が静岡県内の駅に停車する回数を増やした場合、10年間で1679億円の経済効果が生まれるとの試算をまとめた。
国土交通省によると、リニア中央新幹線が開業した場合、東京-名古屋間・大阪間の直行輸送需要の多くはリニアにシフト。従来の輸送量は約3割程度減少する可能性があり、東海道新幹線の輸送力に余裕が生じると見込んでいる。
そして、この輸送力の余裕を活用し、東海道新幹線静岡県内における列車の停車回数が現状を約1.5倍に増加した場合、利用者利便性が大きく向上すると指摘している。
例えば、列車停止回数が増えると新幹線の待ち時間が短縮され、同じ時間内でより遠くまでに移動が可能に。新幹線駅における在来線と新幹線との乗り継ぎ利便性も改善される。
来訪者・利用者の増加により10年間累計で1679億円の経済波及効果
利便性の向上だけではなく、地域にもたらす経済波及効果にも言及している。
列車の停車回数の増加によるアクセス利便性が向上すると、観光客など静岡県外からの来訪者の増加が見込まれ、その数は1日当たり1830人、年間で約67万人にのぼると試算。
静岡県内を新幹線で移動する利用者も1日当たり1933人、年間約71万人増えると見込んだ。これにより、リニア中央新幹線が停車しない静岡県でも経済波及効果は2046年までの10年間で1679億円になり、のべ1万5600人の雇用効果もあると推計している。ちなみに、これらの試算は静岡県作成の経済波及効果分析ソフトによるものだ。
現状の計画では静岡県内にリニア中央新幹線の停車駅はなく、南アルプスの生態系に影響があることなどを理由に、静岡県は県内での着工を認めていない。
一方、リニア中央新幹線と東海道新幹線という2つの輸送ネットワークが形成されることで観光客や県内移動の利用者は増加し、交通の利便性が高まれば企業の新規立地なども考えられる。国土交通省としては、こういった試算を示すことで、静岡県側の理解を促したい考えだ。
静岡県はスズキ、ヤマハ、カワイといった企業が本社を構えることから第二次産業が発達し、農業や漁業、観光などのサービス業も盛んだ。
ただし、人口は2007年12月の約379万人をピークに減少に転じ、2022年2月には360万人を下回った。少子高齢化もあるが、就学・進学による東京圏への流出も課題で、政令指定都市の静岡市や浜松市も例外ではない。
リニア中央新幹線開業による東海道新幹線の停車回数の増加は、県の経済発展に寄与する可能性があり、これ以上の人口減に歯止めをかけ、増加に転じるにきっかけになるかもしれない。
リニア中央新幹線は国策だが、建設・運営はJR東海が担う民間事業。これが実現すると大都市がつながり国土強靭化を図ることができ、地震で大都市が分断され東海道新幹線が利用できなくても、東京-大阪を結ぶ代替的な移動手段として利用できる。
また、リニア中央新幹線のCO2排出量は航空機の約3分の1と環境に配慮した交通機関であり、浮力走行なので騒音・振動のトラブルも抑えられる。
静岡工区では水問題、生態系への影響、残土処理などに対する課題があり、とりわけ水問題に関しての議論はなかなか進んでいない。利便性の向上とそれに伴う経済波及効果が期待できるからと言って簡単に首を縦に振る問題ではないだろう。慎重に話し合いをして、少しでも早く解決のめどが立つことが期待される。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))