大家業をやりながらビジネスを営む、今回はそんなお二方にご登場いただきます。ホテル業をはじめ各種事業を経営している天野真吾さんと、不動産管理サービスCOSOJI( こそーじ )を立ち上げられた富治林希宇さん。ベテランと若手の大家・事業経営者対談をご覧下さい。
■ 使える時間は100%事業に集中したい!
天野真吾さん( 以下、天野さん )
富治林さん、今日はよろしくお願いします。
富治林希宇さん( 以下、富治林さん )
よろしくお願いします!まずは自己紹介させてください。僕は富治林希宇( ふじばやし・ねがう )と申します。京都の宇治田原町という、人口1万人未満の、学校まで歩いて1時間かかるような小さな田舎の町の出身で、先日33歳になりました。地方にいたせいか街づくりに興味があり、大学では建築都市デザインを学びました。建築を学んだ結果、不動産に流れたっていう形です。
不動産投資の実績としては累計で100室強、24棟ぐらいです。正確な数字は覚えていなくて、すみません。今は使える時間は100%事業に集中したいと思っているので、優先順位が下がっています。満室家賃は月250万~300万前後といったところです。
実は、最近は空室大家でして、ちょっとやばいです(笑)。今年6棟ぐらい買いましたが、入居や工事が全然進んでいません。工事が4~5か月も止まっています。「 放置プレー大家 」ですね(笑)。
富治林さんが今年買った物件
本業は、COSOJI( こそーじ )という不動産管理系のアプリサービスを運営するIT会社を経営しています。サービス内容としては物件の日常清掃や草刈り、消防点検やルームクリーニングなどを募集して、それらを得意とされる地域の方や個人事業主、工務店とマッチングできるようにしたものです。
COSOJI は2021年1月からスタートしまして、社内メンバーはいま35名。口コミや紹介といったたくさんの方の応援で順調に成長をしておりまして、エリアも全47都道府県もカバー。現在2万人を超える現場作業クルーが登録してくれています。
天野さん
今回の対談では大きく3つのテーマを考えているんですよ。1つ目は、これから事業を積極的に展開したいと考えている方向けへのメッセージ。2つ目は今大家をやっているけれども、これからどうやって生きていこうか、ということに悩まれている方向けのメッセージ。
そして3つ目。今、不動産もかなり高値になってきているし、苦しい時代が来ます。私と富治林さんは、そういう環境下でも自分はこれをやっていて楽しいし、これをやっていきたいんだっていうことを持っていると思うんですよね。
その熱い思いみたいなものは、どうやって生まれて、どうやってそれを成長させて今後に繋げるか、みたいなものを、若い世代の人たちへ伝えたいと思います。アドバイスというよりも、生き方そのものに触れていただいてそれをヒントにしてもらいたいのです。
富治林さん
初めて天野さんにお会いしたのは、福岡でした。僕が直接会いたいと言ったのに応えていただいて、すぐに会っていただけたんですよね。
天野さん
私、東京と福岡を拠点にして動いていますから、通常だと東京で会いましょうってなるんですよね。でもその頃の私は福岡にいるケースが多くて、「 福岡に来られるなら 」と言ったじゃないですか。すると、「 行きます!」って、即答で飛んでこられた。そういう方って多くないんですよ。随分とフットワークが軽かったですね。
富治林さんが天野さんに会いに福岡に来られた時のツーショット
富治林さん
その節は本当にありがとうございました。僕の第一印象はいかがでした?
天野さん
最初見たときは、よくわからないこともいっぱい言うけれど、面白い感じの若者だなと思いました。そこで、とことん話すなら丸1日必要だと思ったので、1日一緒にドライブしようと誘ったんですよね。まあ、一種の拉致監禁みたいな(笑)。
それ以来、私もいろいろ富治林さんにアドバイスをさせていただきました。とくに経営者として不動産賃貸事業とCOSOJI事業の両方を全力でやるべきだとお話したら、その通り実行して頑張っていますね。
富治林さん
いろいろ教えていただき感謝しています。不動産賃貸事業を進めるためにアパートを買い増していますが、事業すべてに全力であたっているので、リフォーム工事がなかなか追いつきません。おかげで冒頭で申し上げたように空室が増えてしまっているという状況で、お恥ずかしい限りです。
天野さん
全力、おおいに結構だと思いますよ(笑)。さきほど富治林さんが言っていましたが、とにかく「 100パーセント事業に集中したい 」っていうのは、若い人みんなに共通することです。情熱を持っている時には、そういう気持ちになる。ただ、事業がうまくいくことしか考えていないケースが多いのです。
そこで伝えたいのは、事業が万が一倒れたり、傾いてきたりした時に、担保や個人の資産があるということが、どれだけ自分を助けてくれるかということ。空室が多かろうと何であろうと、資産を持っておくことが大事です。いい時ばかりではないですから。そんな話をしましたね。
■ 毎日11~12時間。富治林さんはイーロン・マスクと同じくらい働いている!?
天野さん
話は変わりますが、少し前に滋賀でセミナーをやった時に、富治林さんと、エコーズの木津さんとで、すごく盛り上げようとしてくれましたよね。芸人魂を見ましたよ。
富治林さん
ありがとうございます。実は私は3年ほど会社員をやりながら芸人をやっていた時期があるんです。なので、そう言っていただけると嬉しいです。
天野さん
確か滋賀ではイーロン・マスクの話をしましたね。彼は世界一働くと言われています。週100時間、毎日11時間から12時間ぐらい働くそうです。それってかなり大変なんですが、富治林さん同じぐらい働いているんじゃないですか?
富治林さん
いやいやイーロン・マスクとは質が全然違いますよ(笑)。そこだけとりあげると、ちょっと語弊がありそうです。
天野さん
私も若い頃、結構働いた方だなと思うんですけど、富治林さんはそれを凌ぐんじゃないかなっていう働き方ですよ。それだけ長時間、仕事に時間を振り分けることが出来る人間というのは、非常に稀な存在だと思います。100人いたら多分1番をとれると思うんですよね。1,000人いても、10番には入れる。
私は自分も100人のうちの1番になる自信はあるんですよ。でも1,000人いた時に1番を取れるか、1万人いた時に1番が取れるかっていうと、ちょっとそこまで自信はないんです。でも、富治林さんはいいところまではいると思うんです。
そのぐらい働いているなと思って、正直度肝を抜かれました。大量の働く時間を確保することには、苦痛も伴うじゃないですか。何もかも犠牲にするという可能性もありますしね。
富治林さん
自分では犠牲だと思っていないんですよ。でも、周囲のサポートをする人間からしたら、すごく働かされて引っ張られて指示されたら、自分の生活を犠牲にしている、みたいに感じる可能性はありますね。自分自身はやりたくてやっていますが。
天野さん
何もかもが仕事中心で回らないと、それって達成できないわけです。それぐらい集中している点は私との共通項だと感じます。年代が離れていますが、負けられないというか、頑張んなきゃいけないなっていうのは、その時すごく思いました。
ところでさっき、空室が多いって言っていましたね。私は買って空室にしておくのが苦痛なので、なんとか埋めようとするわけです。富治林さんが事業とのバランスを取るためなら空室期間を伸ばすことも厭わないというのは、ちょっと感心しました。
富治林さん
一応、やる気はあるんですよ、物理的にできてないだけで(笑)。あと、最近思ったのは、例えば100万円の工事費を80万円に抑えて、その結果、時間がかかるぐらいだったら、120万円を払って早く入居を決めた方が、家賃収入をすぐ回収できるなということです。僕は大家業も事業も同じと思っていて、機会損失をどれだけなくし早く次のチャレンジに進むかが、とても重要だと感じています。
なんて頭で理解はしているんですが、それをする時間もなくて、現実がついていかないっていう(笑)。
天野さん
もう物理的な時間配分がしきれないということでしょう。それで中途半端にコントロールしてもいいものが仕上がってこないですよ。集中的にやるための時間確保が次の課題でしょうね。
■ お金以外に価値を置く!富治林さんが物件を買うときの考え方
富治林さん
自分で大家業をやって思うのは、工事関係はパートナーが大事だなということです。最近買った物件は、周りにあまり業者がいないんです。新規業者を開拓しないまま、物件を買ってしまったということです。
天野さん
でも、買ったというからには、これは再生したらよくなるとか、何か買う基準を持っているんですよね?
富治林さん
はい。まず賃料が相場より安いのはマスト。退去したりリノベを通じて家賃を上げることで、利回りを上げられます。そして積算がある程度、出ていること。最後に相場同等以下の購入価格か。この3つがクリアされたら、もう基本購入意向のスタンスです。
天野さん
実際土地値が出て、相場より安かったらみんな買う。それで客付けしやすいっていうことでしょう。
富治林さん
そうなんです。地域最安値でシミュレーションし直して、入居が決められそうだったら買うっていう感じですね。僕はあんまり細かいところは見ないようにしています。入居率とか属性とか。あと金額も相場同等ならOKで、必ずしも割安物件が条件ではないんです。
天野さん
あと物件を見ると、これで大丈夫なの?みたいなものが多いですよね。底が抜けているやつとかまで買うじゃない(笑)。建物の状態がまあまあいいとか、全然考えないんですか?
富治林さん所有のある物件。底が抜けて空が見えています…
富治林さん
いやいや、最低限、傾いているのは買わないですし、考えていますよ(笑)。ただ、自分ができることを繰り返しても、スキルUPや成長につながりにくく、モチベーションが湧きづらい方なので。ボロさの基準として、10段階中10が最もやばいとしたら、5までやったから次は6に挑むっていうのはミッションだと思っています。
天野さん
でも、その考え方って一般的な価値観と逆行していますよね。例えばピカピカで利回りが15%あってできれば築浅で、しかも外壁塗装してありますとかね。それで満室に近いとか、そういう物件をみんな狙いに行くじゃないですか。
富治林さんの行動とか思考パターンで面白いと思うのは、お金のことを言っているわけじゃないところ。自分の経験値であったり、難易度を上げたりして好奇心を満たすとか、自分の満足度を上げるとか、もしくは手に職をつけるとか、いろんな意味があるでしょう。
お金以外に価値を置くっていうことが、自分の中での原動力みたいな感じになっている。普通はみんな、お金に比重が寄っちゃうわけですからね。そのあたりはサラリーマン大家さんは少し取り入れるといいかもしれませんね。
富治林さん
いえいえ、僕はずるいところというか保険をかけるところがあって、最低限を確保したうえでチャレンジするという性格なんです。今はもうお金の優先度は非常に低いんですが、28歳から30歳の頃はずっとお金のことを気にしていて、30歳までにキャッシュフロー100万を達成っていうのがトッププライオリティでした。
それを達成してある程度食っていけるとわかったので、今はそこにモチベーションがないということです。今はいかに面白ことに挑戦できるか。イノベーションを起こせるかといった感じになっています。なので、500万の物件が1,000万で売れた~!というのでは盛り上がれないです。そういう部分の沸点が高いというか、一度経験するとすぐ満足しちゃうんです。
天野さん
そういうお金以外のところに価値を感じる感覚があるから、3年間も芸人を続けられたんでしょうね。
富治林さん
はい、月収がマイナスの時期もありました(笑)。芸人はショーに出るために身銭を切ったり、チケットを手売りしたりしていろいろ出費もありますから。交通費などを加味すると赤字になったりするんです。
編集後記
自分の時間を100%ビジネスに費やしたいという富治林さん。目標のキャッシュフローを確保したら、次はお金以外に価値を置くという考え方が面白いと思いました。次回は気になる芸人時代のお話から伺ってまいります。( 担当T )