事業を通して社会課題解決に取り組む、株式会社LIFULL(ライフル)が運営する“住まいの本当と今”を伝える情報サイト「LIFULL HOME’S PRESS(ライフルホームズプレス)」は、「LIFULL HOME’Sマーケットレポート 2023年7~9月期」を公開した。
LIFULL HOME’Sマーケットレポートでは、LIFULL HOME’Sで掲載された物件データおよび、ユーザーがLIFULL HOME’Sを介して不動産会社に問合せた物件(以下、反響物件)データを、四半期・マーケットごとに公開している。
■トピックス
・ファミリー向き中古マンション・中古一戸建ての掲載価格は高止まりが続いているが、4月以降首都圏では反響価格もやや上昇傾向に
・首都圏でファミリー向き賃貸物件の掲載賃料の上昇が継続するも、上昇率は鈍化。首都圏以外では、掲載賃料は小幅ながら上昇傾向が継続
■マーケットレポート詳細
1. ファミリー向き中古マンション・中古一戸建ての掲載価格は高止まりが続いているが、4月以降首都圏では反響価格もやや上昇傾向に
2023年7~9月期(以下、今期)の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)ファミリー向き中古マンションの掲載平均価格は、2022年4~6月期から横ばい傾向が継続しており、高止まりの状況となっている。
消費者のニーズを反映した反響平均価格は4~6月期に続いて上昇しており、前年同期を上回った。この傾向は一戸建ても同様で、首都圏一戸建ての掲載平均価格は横ばい傾向であったのに対し、反響平均価格は4~6月期に続いて上昇し、前年同期を上回っている。
一方、近畿圏のファミリー向き中古マンションと中古一戸建てでは、掲載平均価格と反響平均価格はともに横ばい傾向となり、反響価格が上昇する動きは首都圏のみとなっている。
<考察>
『建設費の上昇などに伴う新築住宅の価格上昇が影響し、中古住宅の掲載価格は2022年以降高止まり傾向にあります。しかしこれまで、物価高などを背景に、消費者のニーズを反映する反響価格は上昇しておらず、掲載価格と反響価格の差が開いていました。
ところが2023年4~6月期以降、首都圏では反響価格の上昇が見られます。この背景には、消費者の2024年以降の住宅市場に対する見通しが影響している可能性があります。
LIFULL HOME’Sが2023年3月に実施した「住宅ローンに関する意識調査」では、「住宅購入についての考え(複数回答可)」を聞いたところ、最も多かったのが「住宅ローン減税率が変わらないうちに買いたい」(47.7%)で、次いで「金利が上がる前に買いたい」(46.5%)となっており、「減税」と「金利」が購入の意向を左右する重要なポイントであることが分かっています。
中古住宅に影響はないものの、2024年以降の入居では新築住宅の借入限度額が引き下げられるなど住宅ローン減税の改正が予定されていることや、7月の日銀の金融政策決定会合でそれまで0.5%程度としていた長期金利の上限を事実上1%まで容認することを決めたことで住宅ローン金利の先高観が強まったことなどが影響し、消費者の「多少高くても、早めに買いたい」というニーズを生んだことが、前期から続く反響価格の上昇につながったのではないかと思われます。』
2. 首都圏ファミリー向き賃貸物件の掲載賃料上昇は継続するも、上昇率は鈍化
首都圏のファミリー向き賃貸物件は、2023年上半期の半年間で掲載賃料が1万円以上アップするなど賃料水準が急上昇していたが、今期は前期からの上昇が1,053円にとどまり、上昇率は鈍化した。
一方、首都圏のシングル向き賃貸物件や、近畿圏(大阪府、兵庫県、京都府)、愛知県および地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の賃貸物件では、掲載賃料は小幅ながら上昇傾向が継続している。
<考察>
『売買物件の価格上昇に伴うファミリー向き賃貸物件の需要増加などを背景に、特に首都圏では掲載賃料が大幅に上昇していますが、対して反響賃料の上昇は限定的であるなど、昨今の掲載賃料上昇に消費者の予算(コスト負担の許容度)が追い付いていません。そのような状況下で、長期空室リスクの高まる閑散期には、オーナーも強気の賃料設定をしにくいことなどから、今期は掲載賃料の上昇がやや抑制されたものと思われます。
また、超低金利などを背景にこれらのエリアでは賃貸物件の新築供給数がいずれも増加(※1)しており、特に東京都ではファミリー向き物件の新築供給数が増加(※2)しています。一方で建設費や物価の上昇を受け、賃料を上げる動きも考えられることから、これから引越しシーズンを迎えるなか、賃料相場がどのように推移するのか注目です。』
※1:国土交通省が公表している住宅着工統計は、毎月の建築工事届を集計しているが、掲載(=入居者の募集)が届出の6ヶ月~1年後と仮定すると、2023年7~9月期に掲載された新築物件は、主に2022年の住宅着工分だと想定される。2022年の着工数は、東京都で7万747戸(前年比105.2%)、神奈川県で2万6,788戸(前年比118.7%)、埼玉県で1万6,463戸(前年比106.2%)、千葉県で1万8,451戸(前年比112.1%)といずれも増加している
※2:国土交通省の住宅着工統計の着工戸数と床面積より1戸あたり床面積を算出。2022年の東京都の一戸当たり床面積は46.0m2と、前年の41.5m2から10.8%アップしており、ファミリー向き物件の着工が増加したものと推測される
■集計対象データ
2023年7月1日~9月30日に、LIFULL HOME’Sで登録・公開された居住用賃貸マンション・アパート・居住用中古区分マンション・居住用中古一戸建て
シングル向き:ワンルーム、1K、1DK、1LDK、2K
ファミリー向き:2DK、2LDK、3K、3DK、3LDK~
■分析担当: LIFULL HOME’S PRESS 編集部 渋谷 雄大(しぶや たけひろ)氏
2015年、株式会社LIFULLに新卒入社。LIFULL HOME’Sの営業として、東京・千 葉・福岡・広島で賃貸マーケットの既存顧客を担当した後、 2020年よりLIFULL HOME’S PRESS編集部に異動。四半期に一度のLIFULL HOME’Sマーケットレポ ートを担当するほか、取材や執筆活動で全国を飛び回る。特に、町家、都市交通、ウォ ーカブル、和の文化に関心。
健美家編集部