長女が関西の大学に合格し、一人暮らしを始めることになりました。生まれてから3歳になる頃までは病気をしがちな子で、妻と顔を青くして幾度となく救急病院に駆け込んだのは、今となっては良い思い出です。
今は子供が巣立っていく寂しさを感じながら、引っ越しの準備を手伝っているところです。その娘の新居探しでの出来事ですが、久しぶりに住居を借りる側に回って、とても嫌な思いをしました。
とある不動産会社から自社の管理物件の中から決めるように執拗な営業を受けたのです。その営業スタッフとのやり取りに、不動産業界の闇を垣間見たので、今回はその内容をお話したいと思います。
普段は部屋を貸す側の私ですが、賃貸仲介の方が私の物件をどのように客付してくれているかはよく知りません。もしかすると知らずにして、借りに来た人たちに私が体験したような嫌な思いをさせていたらと思うとゾッとします。
強引な営業力を借りなくても、自然と入居が決まる部屋作りをしたいと気持ちを新たにしました。そして、このコラムが皆さんの物件の運営方針の見直すきっかけにもなればと思います。
■ 新生活への期待を胸に、いざ茨城から関西へ!
娘の一人暮らしのための部屋探しを始めたのは、2月末のことです。第一志望の合格発表( 残念ながら不合格 )を確認してからすぐに始めたものの、私たち親子はとても焦っていました。
12月の推薦合格組や先行して合格発表がされていた近隣の大学の入学予定者で、良い物件は既に抑えられてしまっていることが予想されたからです。
とはいえ、ほとんど土地勘がないため、賃貸ポータルサイトを検索しても、どの物件が良いのか全く見当がつきません。そこで合格発表の翌朝、新幹線で現地に向かいました。片道4時間の道のりです。
前日に娘が検索して「 気になる 」と言っていた「 1階にパン屋さんが入るRC物件 」を掲載していた大手の不動産屋さんに午後イチでアポを入れました。大手なら他にも多くの優良物件の情報を持っているだろうと考えたのです。
道中の新幹線では「 不動産屋さんと良い出会いがあるといいね 」と繰り返し話していました。何も情報がない私たち親子だけでは、安心して過ごせる物件を見つけるのは困難です。
1カ月後には入学式も控えているので、その日のうちにでも申し込みをしなければなりません。私たち親子は、親身になって部屋探しをしてくれる不動産屋さんとの出会いを期待していました。
■ 期待は打ち砕かれ、不安に変わる
ところが、その期待はすぐに不安に変わってしまいました。店舗についた私たち親子を待っていたのは、30歳くらいの無愛想な男性スタッフです。
その男性スタッフはカウンターの席についた私たちに無言で名刺を差し出すと、私たちの希望条件にろくに耳を貸す様子もないまま、パソコンに目を移し、キーボードをカチャカチャと叩き始めました。
私たち親子が希望した条件は、特異なものではありません。娘が健康的な生活ができるように日たりが良い南向きの部屋で、セキュリティ面を考えて2階以上、そして家賃は5万円前後というものです。
「 この条件さえクリアしていれば、オートロックがなくても、バス・トイレ別でなくても構わない 」と説明を続けようとした時のことです。その男性スタッフは私たちの話を遮るように、4-5枚の募集図面をカウンターに並べ始めました。
「 色々ご希望はおありでしょうが、○○大学の学生さんは、結局のところ、この辺りから選ぶのですよ 」
そう言わんばかりの横柄な対応です。渋々、それらに目を通すと案の定、こちらの希望する条件と大きく乖離するものばかりでした。
提示されたのは北向きや1階の部屋だったり、家賃が予算より1~2万円高かったりするものばかり。娘が気になるといったパン屋の上の物件については、「 早朝からパンを捏ねる機械音がうるさい物件だからやめた方がいい 」と言います。
壁や床が厚いRCの物件で、パン屋とは反対側に位置する部屋なのに、そんなことあるかと疑いの目を彼に向けましたが、何やら意地でも案内したくない様子です。そして男性スタッフは、こう捲し立てました。
「 その管理会社さんは対応が悪いのが有名で、オススメしないです 」
「 それに3点ユニットの部屋は娘さんもお嫌でしょう? 」
「 多少高くても、オートロック物件の方が親御さんとしては安心ですよね? 」
男性スタッフはこちらの様子など気にも留めず、一方的に話を続けます。
「 来週には△△大学の合格発表があるので、今日中に抑えないとなくなっちゃいますよ? 」
「 入学式の日に娘さんの住む部屋がないと困るでしょう? 」
「 入学式に間に合う部屋で、これ以上条件の良い部屋はもう出てこないですよ! 」
「 もうお分かりですよね? 多少希望条件を( これらの物件に )合わせていただかないとお嬢さんの部屋は見つからないんですよ! 」
■ 営業スタッフがパン屋の物件を案内したくない本当の理由
私たちの希望を全く無視した言い回しを聞いて、この営業スタッフの本心が読めました。読者のみなさんもお分かりですよね。そう、おそらく彼は私たちに「 自社管理物件 」を選ばせたかったのです。
私たちがその中から借りる部屋を選ばないと、彼の営業成績としてカウントされず、タダ働き同然になってしまうのでしょう( パン屋が入っている物件は他社管理で広告料などもつかないのでしょうね )。
そして、彼が私たちに提示した自社管理物件はおそらく売れ残りです。私たちの希望する家賃5万円前後というのは、多くの学生が希望する価格帯なので、良い物件はとっくに決まってしまっていたのでしょう。
条件のわりに家賃が高い自社管理物件しか残っておらず、それを捌くために半ば強引に私たちを説得しようとしているようでした。
横を見ると、娘は萎縮して下を向いてしまっていました。娘は高校を卒業したばかりで、社会に出た経験はありません。もちろん、そんな不動産業界の裏事情があることも知りません。
すぐ目の前にいる10歳近く離れた大柄な男性から、「 そんな高望みするな 」と詰められ、娘は今にも「 このお部屋でいいです… 」と言ってしまいそうでした。
私ははらわたが煮えくり返る思いでしたが、一旦冷静になり、彼が敷いたレールに乗ることにしました。不安そうな娘に「 大丈夫だよ 」と目くばせし、「 わかりました。それでは、全て内見させてください 」と伝えたのです。
この時、既に15時近くになっていました。「 もう、いい! 」と机を叩いて店から飛び出しても良かったのですが、他の不動産屋さんを探すには時間が深すぎます。そうするよりは、内見に行って街並みを確認した方が良いと考えました。
この男性スタッフの紹介する物件を選ぶ可能性はほぼゼロでしたが、土地勘を少しでも身につけた方が、違う不動産屋さんで部屋探しをするにしても、プラスになると考えたのです。
■ 内見した先で闇の正体を知る…
そして、この後、彼が勧めるお部屋の内見に出るのですが、そこで私たちは、この業界の闇を垣間見ることになりました。そして、私の男性スタッフへの怒りは消え、その物件のオーナーへの呆れへと変わったのです。
長くなったので後編に続きます。