金融庁と金融事業者の取り組み
金融庁は金融事業者向けに「顧客本位の業務運営に関する原則」を定めており、これを遵守する金融事業者のリストを作成している。
金融事業者側がリストへの掲載を希望する場合は、定められた原則にのっとって業務に取り組んでいることを示すとともに、取組に関するリストをウェブサイトで公表することが必要。
そして、金融庁はリストに掲載されている事業者の投資信託に関するパフォーマンス分析を定期的に発表している。
分析結果を参照することで、投資信託の運用が上手くいっている金融事業者を判断することが可能だ。
投資信託市場全体の傾向
直近の発表は2024年2月末にあり、少し前のものだが2023年3月末基準のパフォーマンスに関するもの。
直近の資料が掲載されている報道発表資料はこちらのリンクを参照。
全体的な傾向としては、2023年3月末時点で運用損益がプラスとなっている顧客の割合は約7割であり、2022年3月末時点と比較すると1割弱低下している。
※引用:金融庁
同じ1年間の株式や債券の動向としては、日本国内では株式が上昇した一方で債券が下落、外国では地域によって差異があった。
各金融機関の運用実績について
ここからは金融機関の規模・業態別に見た運用実績を紹介していく。三大都市銀行を含む大手銀行・信託銀行の運用実績は以下の通り。
※引用:金融庁
運用実績が最も良かったのはソニー銀行で、以下りそな銀行・イオン銀行と続く。なお、イオン銀行は前回の発表で資料に載っていなかった。
イオン銀行が入ってきたことで、前回3番手だった三菱UFJ銀行が4番手になっている。前回発表との比較では、それ以外に順位に変動はない。
イオン銀行は2006年に設立された金融機関であり、他の金融機関と比較するとまだ歴史は浅く小規模だ。
しかし、流通最大手のイオングループがバックについている安心感もあってか、ネット銀行の中では口座数も上位に入っている。金融機関として今後も大きくなっていく可能性が高いだろう。
つづいて、地域銀行における投資信託のパフォーマンスは以下の通り。
※引用:金融庁
字が小さく見づらいかもしれないが、地域銀行で最もパフォーマンスが良いのはスルガ銀行だった。2番手に島根銀行、3番手にきらやか銀行と続いている。
なお、スルガ銀行は前回の発表で資料に載っていなかった。スルガ銀行は9割近い顧客が損益0%以上のパフォーマンスで、2番手になった島根銀行との差は0.6%と僅差だ。
しかし、その中身には大きな違いがある。スルガ銀行は運用損益50%以上の顧客割合が比較的多い一方で、島根銀行は同じ顧客の割合がかなり小さい。
3番手のきらやか銀行は、運用損益50%以上の顧客割合がスルガ銀行と同じくらいなので、スルガ銀行ときらやか銀行では比較的大きな利益を期待できるだろう。なお、きらやか銀行は山形県内に本社を置く地域銀行だ。
つづいて、信用金庫や信用組合などにおける投資信託のパフォーマンスは以下の通り。
※引用:金融庁
信用金庫や信用組合等に関しては、全業態平均を上回るパフォーマンスを出している金融機関が比較的多いのが特徴的だ。
また、トップの宮城第一信用金庫は損益0%以上の顧客割合が96%となっている。これは大手金融機関トップのソニー銀行や地域銀行トップのスルガ銀行よりも多い。
その他特徴的なポイントを挙げるとすれば、2番手の新潟県労働金庫と3番手の長野県労働金庫は、運用損益率50%以上の顧客がいない、またはかなり小さい割合にとどまっている。
投資信託は家賃収入の二次運用をしたり、証券口座の開設を足掛かりにして物件購入の融資交渉をしたりと、様々な活用方法が考えられる。
金融機関を選ぶ上では金融庁が発表している資料も有益なので、参考にしてみてはいかがだろうか。
取材・文:
(はたそうへい)